大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第捌拾漆話

 甘さと濃さを増した、夜の秘め事は別として、普段の軍務に於いては滞りなく、惟之も和胤も務めを果たしていた。

 参謀本部に舞い戻ってから、陸軍省の人事も刷新されたおかげか、穏やかな日々が続いた。忙しくとも精神的には満たされ、惟之はようやく以前の快活さを取り戻して、茶目と明るさを振り撒いていた。

 惟之の元直属の部下であった第一部第二課の連中が、温めていた“惟之と和胤の歓迎会”の話を持ち出してきたのは、ちょうどそんな頃だった。

 この宴席で、惟之に纏わる、ほんのちょっとした騒動が起こった。

 秋も深まり紅葉が彩るなか、料亭の一室に集まったのはそうそうたる顔ぶれで、惟之だけでなく、大城と川上も座に連なっている。

 歓迎会というのは表向きで、新任参謀総長の一件で迷惑を掛けてしまった上官へのお詫び、というのが本当の趣旨だった。そんなことを知らない惟之は、招ばれて行った料亭で相変わらず、いつもの素朴な和服に袴をつけたかっこうで、上座に据えられている。本来ならここには大城が座を占めるべきで、腑に落ちない。

 「おい、この席をなんとかせえ。大城さんに失礼じゃろうが」

 席の位置からして、惟之はそこでこの宴会の意味を悟った。大きい地声で言うと、主催者の恩田をじろりと睨みつける。只でさえ、あのくだらない騒ぎを彷彿とさせられて腹立たしいというのに、気の利かぬこの配席である。

 すると大城が満面に笑みを浮かべて、のそり、と席を立つなり、怒って上座を辞そうとする惟之の傍へ近づく。

 大樹のような大城は、大兵の川上よりもひとまわり堂々とした体躯の持ち主で、惟之が並ぶとまさに栗鼠が木陰に憩う、という表現がぴったりである。

 「では杉サン、そいなればこうすればよか」

 と、茶目っ気たっぷりに言って、ぶ厚い掌を惟之の肩へ回し、親しげに抱き寄せる風なそぶりを見せる。

 狼狽した惟之を尻目に、なおもゆったりした動作で上座へ腰をおろす。そのついでに、胡坐をかいたうえに惟之を座らせてしまった。

 「こいでよかごわす」

 のんびりとした薩摩弁が宴席に響くと、集ったものたちはあまり珍妙すぎるこの光景を目にして、笑みを堪えきれなくなった。和やかな笑い声が起き、それで何となく針の立つようだった雰囲気が、一気にほぐれる。

 だが、この場で泡をくったのは、他でもない和胤だった。宴席の座において、そこはかとない色気を醸し出している惟之を、ひっそり愛でていたのだが…。

 この数ヶ月で、和胤に心もからだも委ねて、それこそ“自律”していたころと比べたら、目に見えて壁のようなものが剥がれ落ちている。そこから垣間見える無防備な色―。それに惟之本人は気づいていないが、それこそが和胤の思う壺で、密かな満足感を得ていた。

 だが、よりにもよって大城に眼をつけられるとは、おもってもいなかった。というよりも盲点にちかい。

 ―往々にしてあることだが、ひとが無意識に醸し出す雰囲気というものを、敏感であればそれを嗅ぎとって察するものである。大城は惟之の“それ”を感じ取っていた。

 大城は惟之の腰のあたりへ、さりげなく腕を回しかけていて、孫でも可愛がるかのように温顔を笑ませている。


 江戸よりその昔から、薩摩隼人の慣習として衆道が在り、大城も例に漏れず、当然のようにその慣習に触れていた。あまりに慣れ親しんでいるのも手伝って、その挙措に卑猥さはなく、むしろ爽やかである。ほのぼのとした空気を生んでいるところは、大城の人徳でもあった。

 「針鼠のよなとげとげが、すっかい取れもしたなぁ。いつもんように、杉サンはかわいらしゅうしておいやっのが一番でごわす」

 銚子をとって笑みつつ言われ、惟之はあたまを撫でられてまごついたが、大城を知っているだけにおとなしくしている。このような扱いをされることにも、人柄だけに不快さもなく、腹も立たない。

 この座の誰もが頷き、特に表だって騒ぎを起こさなかったとはいえ、恩田を筆頭とする“惟之擁護派”の連中は済まなさそうな表情を浮かべた。

 「宴席で、そがいな顔せるやつがあるか」

 大城が離してくれそうもないのを見てとると、惟之はそのかっこうのままで、恩田たちを叱咤する。そのままふと、視線が和胤と絡んで―。

 どこか嫉妬めいた、きついまなざしを向けられたようにおもえて、惟之はたじろいだ。何も、大城は惟之に対してそのような意図をもっているわけではなく、座を和ませるための行動でしかない。

 ところが暫くして芸妓が座敷に現れても、大城は川上の隣にあつらえられた席へ戻ろうとせず、惟之を膝に抱いたままでいる。

 「おいには、もじょか栗鼠どんが居ればよか」

 などと、意味ありげな笑みを浮かべて言い放つ。これにはさすがに、惟之も慌てた。表情には出さなかったが、内心では穏やかではない。何しろ中ほどに座を占める和胤の眉間が、時を経るごとに険しさを増しているのだ。

 「杉サン…、随分そわそわしとられますな?」

 不意に、耳もとへ囁きかけられたが、その声音は明確なからかいがあったが、毒めいたものも含まれているようでもあり、惟之は肩を震わせた。

 「いや、おはんのあんまりにもよか香に、つい悪戯が過ぎもした。許してたもんせ」

 と、腰にまわしていた腕をそっと解く。

 大城はのんきそうな顔のまま、悠長な身ごなしで惟之の傍から離れて席へ戻っていった。解放された惟之は、ほんの微かに息を吐き、やっと饗宴に意識を向けることができた。

 それにしても、まだ和胤は不機嫌そうな顔つきでいる。しかし、このような席であるから、何か誤解したわけではあるまい。だが、いろいろと気まずいというおもいが、惟之の心を占めた。もともと、大城の気質は知っている。きっと何か、そういった“気配”には敏感であったのだろう。

 ここ数ヶ月、甘い夢に浸かりすぎている、とおもっていただけに、痛恨であった。“公”の部分に僅かでもそういった“私”の、秘むべき部分を滲ませているということを、忠告されたように惟之は思っていた。

 惟之が考えているのに似たことを、和胤も感じているのなら、いいのだが…。と、その横顔へちらりと眼をやった。

 そんな思惑をよそに、華やかな芸妓や、部下らが惟之を取り巻いた。ここで妙な顔をするわけにはゆかない。これらの思考をあたまの片隅に押しこめて、宴へ意識を向けているうちに、たけなわを過ぎた。

 これほど宴席に集中できなかったことなど、いままでなかった、と言い切ってもおかしくない。

 案の定、和胤は宴の半ばからすがたを消してしまい、惟之はそれでも座に残っていたが、最後の杯を干すと理由をつけて退出した。

 いつかの、和胤が副官へ就任してきたときと似ていた。惟之は料亭の渡り廊下をつたって、方々探しまわり、裏庭に辿り着く。盛りの紅葉があちこちに配され、趣のある苔石に映えて、その優美さにおもわず唸った。

 どこにも和胤のすがたはなく、もうとっくに帰ってしまったのかもしれなかった。控えていた酒を勧められて久しぶりに飲んだために、歩きまわってすっかり酔いが回っている。

 渡り廊下の縁に腰をおろして、脚をぶらつかせながら庭を眺めつつ、懐から煙草を出して燻らせた。時折、はらりと紅葉が苔のうえに落ちてゆく微かな音も心地よく、欄干に凭れ掛かりつつ、まどろみかけ―。

 いきなり背後から抱きすくめられ、虚を突かれたかたちになって、抵抗もできない。誰のものかも感覚の鈍っているいま、すぐにわからなかった。一瞬、ほんの一瞬だが、大城かとさえおもった。

 「…みつけた…惟之さん」

 「―っ、和…胤…?」

 「ごめんなさいっ、おれ…」

 置いてけぼりをくった仔犬のような声音である。惟之は驚くとともに、後ろめたくもなり、そっと腕を撫でながら安堵の溜め息をついた。

 「おぬしのせいじゃーない、おれがいけんのじゃ。情けないにもほどがある」

 あの大城の奇妙な戯れの意味を、和胤は理解していた。しかし、かれの行動にどこか背筋が寒くなったのも事実で、それも隠さずに耳へ囁く。

 「う…む。そりゃァ…おれもちと、感じたのう」

 「あとさきも考えずに、惟之さんを…こがいなふうにしたのはおれです」

 「おぬしゃ、何を言うちょるんじゃ…?」

 何しろ、本人が気づかずに醸し出す“色気”の問題であるから、こればかりはどうにもならない。まして言ってきかせて、どうにかなることではないのだ。

 「その、あれじゃ。自重すりゃァええだけじゃろ」

 惟之の思考には、あくまで“私”の秘め事が過ぎて、“公”にまで滲み出てしまったことへの懸念しかない。

 無邪気に言うが、そんな問題ではない。実際、先ほど欄干へ凭れていた惟之の後ろすがたは、そこはかとないどころか、相当な色気を醸していた。大城がその“匂い”を嗅ぎ取らぬわけがない、と痛感していた。

 今日の大城のこともある。どんなはずみで、どう転ぶかわからない。いますぐ惟之の副官へ就いて、“公”の立場でも守りたくなるほど、和胤のなかで警鐘が鳴っている。
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