大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第捌拾弐話

 定刻より一時間遅れて退庁し、惟之に誘われるまま市ヶ谷の杉邸を久しぶりに訪れた。

 参謀本部からずっと徒歩で帰路についたが、その途中特に会話を交わすわけでもなく、ただ並んであるいた。それだけだったが、いま隣に惟之がいることが幸せで、和胤の胸中は温められていた。

 居間で対峙して座り、惟之はまじまじと和胤の顔をみつめてくる。そのまなざしは穏やかで、いつになくどこか重さがあった。清水の流れの底にある、玉石をじっとながめるような。

 「のう、和胤。…今回のことは、おれの辞表騒ぎと蟄居と、尾木の爺が引っ込むことで、何とか事態は収まった。しかしな、世が世なら…、たとえば維新の始めであったなら、おれァ暗殺されちょっても、おかしゅうなかった」

 そのまなざしのまま、惟之は静かにことばを発した。和胤は眼を見開いて息を飲んだ。卓のうえに乗せていた掌を、かたく握りしめる。

 「―いや、おれだけでなしに、大城さんも尾木の爺さんもじゃ。維新の刃のしたを潜っちょるから、そう感ずるだけかも知れんが。今回は陸軍内部の揉め事だけでおわったが、それでもあの有様じゃった。旧弊を変えてゆかんと、もし今度国事にかかわることで、ややこしい事態が起きたら…」

 そこまで言って、惟之は口ごもった。言いたいことはみなまで聞かずともわかる。だが、惟之がそこまでおもい詰めることはないはずだ。

 「藩閥に囚われぬ、意識せぬとはいえ、おれも長州の出じゃ。今回は徹底して筋をとおしたから、若い者は眼を瞑ってくれたが。おれァな、参謀総長を最後として、退官せるつもりじゃ」

 惟之くらいの世代と、それより若い世代ともなると、意識の違いが明らかで、それが見えぬ壁となって、間に立ちはだかっている。

 ひとつ舵取りを間違えれば国がなくなるという、瀬戸際に立って前だけをみて走ってきた。そんな時代に生きた者たちは、その作りあげた体制と共に、去るべきときが近づいているのかもしれない。と、惟之は隠さずに吐露した。

 だがそこに、武士の心は受け継がれているのだろうか、と危惧を感じもする。そこが、意識の違いであって、武士道の精神といったものが、若い世代には身についているどころか、認識すら希薄であるように、惟之にはおもえた。

 根拠もなしに危惧を抱いているわけではない。蟄居中に訪ねてきた者たちのことばを聞いていて、切実に感じとったからだ。

 惟之個人をとってみれば、かれらしく、真っ直ぐでひたむきな軍人の道を歩んできている。何人にも屈さず、何人にも媚びず、それも自然体だから、畏敬され続けている。

 その証拠に今回の騒動で、誰も惟之へ矛先をを向けなかったではないか。そのことすら、自身の功―というより人徳―とせず、過ちとして背負いつつ、静かに軍を去ろうとしている。

 確かに今回のことで、周囲に対する惟之の影響力というものがどれほどか、目の当たりにした。しかしそれを以って、惟之が軍から身を退く理由にはならない。

 「それにな、このままのうのうとしちょって、今回みとーに、おれの傍に居るおぬしまで、何かの拍子に巻きこむやも知れんちゅうことが、いやなんじゃ」

 「…あれは、おれの浅薄な思慮のせいで、惟之さんのせいではありません。軍務に関しては正しい道を進むことが本分でありますから、どのような立場に立とうとも貫きます。惟之さんがそうしているように、おれもそうします」

 そうすれば必然的に、惟之と同じ立場に立つことになるだろう。義理をかいてまで、長いものに巻かれるなど真っ平ご免です、とはっきり告げる。

 「それでも退官せよちゅうなら、おれはそげな軍隊に居りとうありませんけぇ、辞めます。辞めて他の道をさがします」

 「いや、しかしおれのような軍人はもう―」

 「もう要らん、とでもおしられたいので?はっきり言うちょきますが、もし惟之さんが暗殺されるような事態が起こったら、陸軍の良心は消えたも同然、おしまいですよ」

 どこまで無私無欲なのか。この自己犠牲の塊のようなひとは、ここまではっきり告げても、ただ困惑の表情で和胤をみつめている。

 「そりゃァ、言いすぎじゃろ。おぬしがおれの肩を持ちたいのはわかるが…」

 和胤は我慢できなくなって、椅子をなかば蹴倒すような勢いで立ち上がり、卓のうえに手をついて身を乗り出した。

 「それなら、逆に宣言してもええですか」

 「な、なんじゃ」

 「もし、惟之さんが先ほどおしられた通り、総長を最後に退官なんぞしたら、おれが殺します」

 「なっ、何ィ言うちょるかっ。おぬし眼が据わっちょるぞ、正気かっ」

 「正気です。あなたはほんに、ご自身のことを顧みなさすぎます。今回誰が惟之さんへ、抜いた剣先を向けましたか?向けていないでしょう。それは何故か、考えてください。おれがそうしてまで止めたいと、そうおもっちょる真意くらい、察してください」

 和胤が身を乗り出したぶん、惟之は身を引いた。私はともかく、公の場面ではすこし距離を置くべきかと悩んでいたが、今の惟之はすこしでも目を離したら、その隙に本当に軍を辞めかねない。

「わ、わかった…。おぬしがそこまで言うなら、退官せるちゅうたことは取り下げよう。しかしな、それでもし、おれはともかく、おぬしに累が及ぶことがあったら―」

 渋々言う惟之に、和胤は卓を回りこんで席へ詰め寄った。その気迫に圧されて、大いにうろたえる。

 「及んでも構わんです、そのときに初めて正しさが証明されるちゅうことですから。それに例え、あなたのことで死ぬような目に遭ったとしても、心残りになるとしたら、あなたを守りとおせたか否か、ちゅうことだけですかのう」

 「な…っ、何を言いよる。命をかけるほどの価値が、おれにあるのか」

 「その質問、そっくりお返しします」

 「おれなぞの命でええのなら、いつでもおぬしのためにくれてやるわい。しかし、おぬしはそげな真似はせるな。その代わりにおぬしは生きて、おれの遺志を継いで、しっかりこの国を守ってゆけ。愛しちょるのはわかったが、おれのために命を投げ出すことなぞ、何があってもしてくれるな」

 ああもう、なんちゅうことを言わすんじゃ、と言って羞恥の極みに陥った惟之は、和胤から顔をそむける。

 「なるほど。惟之さんの意思はわかりました。ごもっともです。それは極力、ご希望に副うように致しますが…、はっきりとお約束はできかねます。時勢はどう転ぶか、予測がつきませんから」

 できれば譲り葉のように、時が来たら退いて、次を継いでもらうのが一番良いのだが、そうでない時の覚悟も必要である。今回はそれを真剣に考える機会にもなったのだ。

 「それだけ、あなたというひとを愛しちょる、ちゅうことです。公私の別はつけていても、気持ちばかりは区別せるのは難しいですけぇ。公では公なりに軍務に対する誠意として、表しちょるつもりですが」

 惟之が悪戯っ気を発揮して、からかい半分に和胤の羞恥心を煽るのとわけが違う。これは真剣に告げられているだけに、逃げ場がない。

 「わかってくださいましたか?」

 「わかるもわからんもないっ!そがいなこと、いっぺんに言うやつがあるかァ!羞ずかしゅうて堪らん、触れるな…。もう、心臓が溶けそうじゃ…」

 耳まで真っ赤になりつつ、椅子を蹴って立ち、あとずさった。和胤が逃がすはずはなく、すかさず伸ばしてきた手に腕を捕らえられ、抱きすくめられる。

 「あ、あ…っ、こら…やめんか」

 「溶けるなんちゅうことを言われて、やめる馬鹿はおりません」

 軍服のうえからでも、からだを探る手の感触が生々しい。後ろから耳朶へ口づけられ、耳のふちを擽る舌先のうごきが和胤のなかに蓄積している、“ことばなき愛のことば”を如実に語っていた。
→【15話】 →目次へ戻る

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