大日本帝國軍の愛と友情の日々

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  変わらぬ青空のしたで・第捌拾壱話

 この一件に、和胤も関わっているなどと疑ったことはなかった。

 何しろ、姻戚で兄弟同然の恩田からじかに、 “山口には、絶対に関わらせないから安心しろ”とまで言われていたからだ。帰国してくる和胤を案じて、騒ぎが沈静するまでは何も知らせず、ひっそりと第二部のほうへ行かせておくから、とかたく約束さえしたのだ。だから和胤は何も知らずに、惟之がいまだ広島の第五師団長である、という認識しかないはずだった。

 まして、惟之と和胤の仲である。

 もし事実に気づいたとしても、惟之の真意を汲んで、何としても無干渉を貫く姿勢をみせるべきである。

 恩田率いる第一部の連中は揃って口が堅い。しかしどこかで誰かが、和胤を唆すという可能性もある。どのような謂れがあろうと、心中を察して和胤には遠ざかっていてほしかった。

 それなのに―。

 惟之とて、和胤が帰朝していることは知っていた。

 それも自身がこのような状況に置かれて、心が虚しくなる一方で、逢いたいというおもいは抑えても、なお膨らむばかりであった。それを抑えに抑えて、今日までひとつの便りも出さずに、ひとりで過ごしてきたのだ。惟之が不文律として貫いている“節度”の表れである。

 軍隊の大局から見れば、こんなくだらない派閥争いに係わらせず、有為の軍人には本分である軍務を担わせるべきであるし、惟之の個人的な信条に照らせば、理由が何であれ、こうして訪ねてくることすら許せなかった。ふたりの間柄を汚されたも同然である。

 文字通り雷に撃たれた如く、和胤は坂の途中で立ちすくんだ。まさかこうまで叱り飛ばされるとは、おもってもいなかった。

 今回は軽忽な行動をとったつもりもなかった。だからいま、この坂道のうえで改めて惟之の意志を思い知らされた。何か途方もない大きな力に心がうごかされ、和胤は両眼からとめどなく涙を流した。

 「今ならまだゆるしてやる、帰れ」

 純粋に逢いたいという気持ちさえ、今の状況では許されないことなのだ。

 再び響いた惟之の雷声に、身をすくませて踵を返した。来た坂道をくだってゆくときも、防府から列車に乗るときも、和胤のあたまにあるのは、惟之のことばかりであった。かれを想うが故に、だからこそほかにすべきことがあるはずだ。

 帰途が東海道にさしかかる頃には、もう和胤に迷いはなくなっていた。この先たとえ親しい誰か―恩田や竹内など―に、惟之の説得に行ってくれと頼まれても、一分もうごかない決意でいる。

 それがどのような結果をもたらしても、惟之に対する信頼と軍人としての本分を外れてしまうよりましである。

 こうして帰ってきた和胤は周囲に何も言わず、沈黙を以って答えとした。あとは第二部第六課へ引っ込んで、蟄居する惟之と似たような心境で軍務に没頭した。


 惟之もこのことは誰にも告げず、相変わらずの隠居生活を続けた。

 ただし、こどもたちの脳裏にこの一件は鮮やかに記憶され、その後もながく語り草にされた。相手がひとりとは言え、軍人を近寄らせもせず、只の一喝で追い返した惟之の度量に、畏敬の念を抱くばかりであった。少年たちにますます慕われたのは言うまでもない。


 ふたりを分かっていたこの騒動も、結果的には日露戦役後の漫然とした空気が生んだものであったと言えた。

 なぜなら翌年の明治四十二年に、某侯爵が大韓帝国で暗殺されたのを機に、ぴたりと騒ぎはなりを潜め、元通りとはゆかぬにしろ、本来あるべき軍部へ立ち戻ったからだ。

 惟之は辞表をとり下げる代わりに、陸軍大臣の更迭と次官辞任を承認させ、参謀総長の椅子にすわることを受け入れた。

 軍部の行く末を、長いあいだ陰ながら案じていた川上が、この最中に中将への昇進を受けて、階級はともかくとして人望と実力ともに申し分のない人物が、新しく陸軍大臣に就いた。この人事に、誰も反対を唱えなかった。

 和胤はあいかわらず第六課の独逸戦略班にいたが、辞令が届き、翌日付けで、第一部第二課へ転属となった。

 実質、惟之の膝元へ戻されるかたちになって、内心でほっとしていたが、あの一件以来会ってもいないし、便りのひとつも出していない。会うのは怖かったが、恩田の計らいで、参謀総長の部屋へ直接辞令を置きに行かされた。

 「着任承った、しっかり頼む」

 と案の定、軍務に関しては変わらずあっさりとした会話だけで終わり、惟之がその心の奥で何をおもっているのか知る由もなく、和胤も儀礼的にあたまをさげて、退出しようと背を向けた。

 「定刻になったら、また来るように」

 と、思いがけないひと言を掛けられ、和胤は我もなく胸が疼くのを感じた。はい、伺います、とだけ言い残して、馴染みの顔ばかりが揃う古巣同然の職場へもどった。

 私的に逢って何を言われるか、それを考えるだけで血の気がひくおもいだったが、とりあえず定刻まではそんなことも忘れて軍務に没頭する。

 二年前の大幅な駐在武官転属の効果が、確かに表れていて、いまこの第一部第二課にいる連中は、外国を識っている者が多く、自然と感化される者も増す。担うのが軍令だからといって、あたまが凝り固まり易い参謀職も、国際感覚に鋭敏な者がかなり増えた。

 過去の諍いは置いておくとして、こうして軍部内が改善されてゆくのは、国を守る者としては団結も深まるし、心強いものがある。

 定刻になると漸く気を抜いて、やっと皆が笑顔を向けて来る。

 近々、内輪で和胤の歓迎会を催すと言って、以前と変わらぬいつもの調子を見せてくれる。杉閣下は総長になられたから、おいそれとお誘いできないな、などと言って寂しそうな顔をした点だけが、あのころ部長だった惟之がここに居たときと、唯一違っていた。

 積もる話もあったが、今日は惟之に呼ばれていることもあって、そこそこに切り上げ、参謀総長の執務室へ赴いた。惟之はまだ机に向かっていて、寄せられた案件へ決裁、不決裁の判を捺していた。

 扉をたたいて入り、近くにもゆけずに畏まっていると、不意に惟之は顔をあげた。いつもの澄んだまなざしでみている。にこっ、と笑みを浮かべて、

 「そがいな、叱られたこどもみとーな顔しちょらんで、ちと、茶を淹れてくれんか。今の副官はなかなか優秀じゃが、おぬしの淹れた茶がええ。たのむ」

 と、温かさを隠さずに言ったから、和胤はぎゅっと心臓を掴まれでもしたようで、切ないやら嬉しいやら、申し訳ないやらで、涙が堪えられなかった。

 「何を泣いちょるか、ほんに困ったやつじゃ」

 あの日、郷里を訪ねて以来貫いてきた、和胤なりの誠意を、惟之は認めてくれていたのだ。それはそのまま惟之の信条に基づいて受け入れられ、今まで以上の信頼と愛情をも生んでいた。
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