大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第捌拾話

 帰国した惟之は、留守居役の中将と交替して、再び第五師団長の任に就いた。

 副官の藤井は、英国を表敬訪問した一団とともに前年の夏、先に日本へ帰っており、書簡や電文を通して、上官と副官のやりとりはしていた。

 上官の初めての国外視察とあって、旅行を堪能してほしいとおもったのだろう。藤井はなるべく惟之に余計な気を使わせまいと、自らの足で駆けまわったのが功を奏したらしく、この一年ですこしは、度胸と度量らしきものがついたように見えた。

 このまま暫くは師団を率いて、郷里にちかい広島で比較的穏やかに過ごせるのか、と惟之は、ほんのり甘いような気持ちでいた。

 そんな明治四十一年の晩春。

 帝都の参謀本部で参謀総長を務めていた、大城元帥陸軍大将が退任することとなり、後任をどうするか、内輪でちょっとした紛糾が起こった。

 「おいのあと、この参謀本部の舵取りは、もっと若いものがせんなならん」

 と言って口に上せたのが、惟之の名だった。前任の大城が元帥大将なのに、後任が中将であるということに、上層部は一様に渋い顔をみせる。

 広島に居て、そんな帝都の噂話が恩田などの内々を伝って流れてくるのを、またくだらない階級問題なんぞを引っぱり出しやがって、と呆れつつ、ほとんど他人事のように聞き流していた。
別に大城から正式に推薦されたわけでも、本人から直接あとを頼むと言われたわけでもないのだ。

 呉鎮へ城内長官を訪ねに行くと、英国訪問を折りに、付き合いが深くなった加藤艦長もすがたを見せ、ふたり揃って面白そうな顔をしている。どこから仕入れてくるのか、内輪もめ同然の陸軍参謀本部の騒動をかれらは知っていた。

 このときばかりはさすがの惟之も、“こんなことは陸軍の問題であるから、海軍さんは黙っていてくれ”と、突っぱねた。やはり内と外、という感覚は拭えないものがあり、事由が何であれ、どこかで身内の恥を笑われたくない、というおもいが惟之のなかにもある。

 なに、海軍軍令部でもそんな揉め事はありますよ、などと言って、城内は指おり数えてみせる。その真偽のほどはわからないが、聞くにつけ余りの馬鹿馬鹿しさに、惟之は皺を寄せていた眉をさげて磊落に笑った。

 「あやうく、おれも頭に黴が生えるところじゃった。こがいなくだらんことは、放っておいてもすぐおさまるじゃろ」

 と、高みの見物を決めこんだが、問題は収まるどころか、妙な方向に流れつつあった。
いまだに旧長州藩勢が牛耳っている陸軍の体制に、鬱屈していた一部の将校らが、この一件をもとにして不満を表し始めたのだ。

 陸軍幹部はそれを無視できなかった。というのも、ただ昇進、ひたすら栄達、というような欲まみれの連中が騒ぎ立てたのではなく、有能で才覚もあるのに、藩閥外だからという理由で、地方などへ追いやられている者たちばかりだったからだ。

 矛先はその発端となった惟之ではなく、もっと上の者たちへ向けられた。槍玉にあげられなかったのは、惟之の実力をかれらが知っていることで、その無欲さも身を助ける要因になった。

 参謀総長といえば、陸軍においてほぼ最高の地位であるのに、惟之本人が騒ぎに見向きもせず、広島の一師団に引っ込んだまま出てこない。これは別に演技でも何でもなく、下手に突っついた某大佐などは、惟之から大目玉を食らった。軍務に対する姿勢は一貫してかわらない。

 ある意味それが、“不満組”に対する抑止力になっていて、微妙な均衡を保っていた。

 惟之自身は長州閥であったが、むしろ藩閥などどうでもよく、参謀本部にいたころの部下はどこの出身だろうと、有能な者は構わず引っこ抜いて軍務を任せていた。これからもずっとそうするつもりでいる。

 ほかにもこういった姿勢でいる将官はいたが、陸軍全体にこういった、旧態然とした藩閥意識が蔓延していることに変わりはない。

 現・陸軍大臣の尾木靖一が、次官である惟之をいつまでも手放そうとしないことも問題視され、事態はますます泥沼化してゆく。ただでさえ、“軍政不干渉”を旗印に掲げている参謀本部は、軍令の智嚢である杉中将を徒に拘束するとは何事か、とここぞとばかりに陸軍省と喧々諤々やりあっている。


 このような状況に置かれている日本陸軍の中枢へ、独逸での駐在武官の任務を満了した、山口和胤中佐が帰朝した。帰ったとたんに、参謀本部側に立つ第一部長である恩田の手で、速やかに“保護”されたが、まだ和胤は詳しい事情を知らない。

 とりあえずの避難先として、第二部第六課独班長へ行かされた。無難な対応である。

 そのころ惟之は、何度も次官辞任の意思を尾木へ送りつけていたが、黙殺されていることに憤慨し、しまいには病気加療につき退職を願いたく候、と辞表を叩きつけて、勝手に郷里の本邸へ引っ込んでしまっていた。

 なぜこんな“暴挙”にはしったかというと、次官を兼任している師団長など前代未聞、職権濫用も甚だしい、とお門違いの抗議を受けたからで。軍務一筋、身に降りかかる諍いなど見向きもしなかったが、これにはさすがに堪忍袋の緒が切れた。

 誰とも会わぬという惟之のもとに、参謀本部内における杉中将擁立派たっての願いを請け、白羽の矢を立てられた和胤が勅使のようにして訪ねてきたのは、自主蟄居を始めてひと月半経った頃だった。

 日がな一日邸に閉じこもっているかとおもえば、裏手にある畑で下男や女中と一緒に、土をいじくって野菜を育て、時間がゆるせば近所のこどもたちと釣りへ出かけ、また邸に招んでは、漢詩や故事をきかせるようなこともやっている。

 一見、楽隠居の体裁を繕っているが、常に索敵機のようなものを頭上に張り巡らせている。しかも、惟之の故郷はまだのどかな村の域を出ていず、噂話などは筒抜けである。

 ちょっとでも、軍関係の匂いを漂わせた人物を見かければ、おもにこどもたちが習い事がてら、杉邸へご注進と相成るのだ。その防備は下手な軍隊よりも堅固といえた。

 そのようなところへ、和胤は訪ねてきたわけだが、和胤自身、参謀本部と陸軍省の対立に毒されてはいなかったし、そもそも権力争いなど眼中にない。

 惟之擁立派の頼みを請けたのも、単に惟之に逢いにゆく堂々とした口実になるから請けたのである。それでも一応、軍の使いで訪ねるのだから、軍服だけは着て行った。

 村のそこかしこから聞こえる郷里ことばに、和胤はすっかり懐かしくなって、寛いだ様子で道を歩いていた。

 昼下がり、畑仕事の手伝いから戻ってきた村のこどもたちは、井戸端でかわるがわる釣瓶をとっていた。まるで、広目天から授かったかのような視力のよさを持っているのか、ひとりの少年が井戸を囲む東屋の柱によじ登って、

 「あっ、向こうから軍人が来たぞ。またきっと杉先生のところへ行くんだぜ、報せに行こう」

 と言ったものだから、他のこどもたちは慌てて手足の泥をおとして、洗った顔のしずくを拭いもせずに、緩やかな曲線をえがく、いなか道の遥か先を凝視した。

 「おっ、よう来たのう。上がりんさい。…何、陸軍がまた阿呆面を寄越して来たか。そんなら今日は籠城戦じゃ、おぬしらも手伝ってくれんか。けんちょうを拵えるとしよう」

 こどもたちが鈴なりになって、杉邸の垣根から様子を見ていると、襷がけの尻端折りという出で立ちで、“杉先生”が出迎えてくれる。ちょうど採れたばかりの野菜を庭先に運んでいた。

 戦ごっこじゃ、とこどもたちと無邪気にあそぶ、きゃっきゃっという声が、蜻蛉が彩る秋の空にきこえている。


 この小ぢんまりとした村のどこに、惟之の邸があるのか、探さなくともわかる気がした。和胤は坂道を登って、江戸のその前から続く、清廉な佇まいをみせる武家屋敷を目指した。

 「どれ、ひとつからかってやるか」

 と、こざっぱりした和服に袴をつけたすがたで、惟之は庭先へ立った。こどもたちは庭のそこかしこに散らばって息を潜め、はて何が起きるのやら、と黒い眸を輝かせていた。

 惟之は初め飄々とした顔でいたが、坂の下からやってくるのが誰かわかると、たちまち眉をつりあげた。稲妻の如きはやさで屋内に駆けこんで、またすぐに戻ってくる。

 手に軍刀を携えて、不動の姿勢でいる。備前長船を仕込んだこの軍刀は久しく抜いていないが、惟之にとって最も重きを置くべき武士の魂の具現である。それを、鞘も砕けんばかりに握りしめている。惟之の怒りを表すように、小刻みに鍔が鳴った。

 「見損なったぞ、和胤。それ以上近づくな」

 互いの距離があと二町、すがたは認められても表情まではまだ判別し難い、というところまできて惟之は、およそのどかな風景にそぐわぬ、雷鳴のような声を放った。
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| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 15:53 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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