大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  変わらぬ青空のしたで・第漆拾玖話

 しばらくのぼせたまま突っ立っていたが、我に返ってみても、まだあたまから湯気がたっているような感覚があった。指さきで唇に触れて、まだ高鳴っている胸に手をあてる。

 熱を冷ましてから、半刻ほど経ったあと、惟之の部屋を訪ねると、扉を開けて迎えてくれたはいいが、

 「おう、来たか」

 と言ってにやッと笑うだけで、椅子を並べてとなりに座っているのに、今度は手にも触れようとしない。

 まさか官邸でことに及ぶわけにはいかない。和胤はせめて抱きしめるだけはしたくて、惟之が細巻を一本喫みきるのを見計らって席を立ち、座ったままでいるかれの、華奢なからだをつよく腕に抱いた。されるがままに身を任せていた惟之だが、すこし苦しくなって、腕を背に回して宥めるようにぽんぽんと叩く。

 「惟之さん…」

 「ありゃ方便じゃ。おれァどこへも行きゃせん。明日からの視察は、供をおぬしにしてくれちゅうて、大使に頼んであるけぇ、宜しくたのむぞ」

 旅行中は、三日か四日くらい“神隠れ”できる日もあるじゃろう。などと耳へ唇を寄せて、艶めいたことをさらりと囁きかけさえしてくる。惟之には狼狽させられ通しで、本人にそのつもりがあるのかどうか、真意はわからない。

 しかし、こんな風に絶妙な間をもっていいように振り回されると、擽ったくもあるが、同時にほんの僅か、怖くなったりもする。さてこれは、幸せゆえの怖さというものか、と漠然とおもいつつ、惟之の温もりを抱きしめる。


 明日発つとわかった以上、部下へ職務を引き継いでおかねばならない。それを理由に、まだ甘ったるく絡んで和胤を困らせたがっている、悪戯好きな小悪魔の棲み処をあとにして、和胤は坂本大尉の部屋へ逃げこんだ。

 「ははあ、なるほど。仲直りしましたね、喧嘩はいかんですよ、中佐」

 今朝と打って変わって、いつもの和胤に戻っているのを見ると、明るい笑顔を向けつつ坂本は快活に言って、

 「あとのことは引き受けました。中佐もこの際、旅行へ行くとおもって、息抜きをしてきてください。まったく今まで休日があるのかないのか、わからないような仕事ぶりでしたからね」

 独逸へ来られてからずっと、働きすぎです。と、きゅうに生真面目な表情になった。

 こうして翌日から始まった視察は、なにも伯林に限らず、独逸のあちこちへ行った。ひと月をそうして旅をまたいで各地で過ごし、ある日、

 「欧州は、どことなく導火線みとーなものがあちこちに見えるようじゃのう。…日本はまことにのんきにしようる」

 日露の戦勝は実は辛勝だったという事実を、あと五年か六年経ったら忘れてしまいそうな空気すら、漂っている。と、続けて苦い顔で言ったこともあった。

 お互いこまめに報告書を本朝へ送っていたし、惟之の見解を聞くと、視野の広さに驚かされもし、独逸へ来てから和胤に付いてしまっていた、固定概念のようなものが、ぽろぽろ剥がれ落ちる。


 急ぐ旅でもないから、ふた月ほどかけて主だった軍の施設をほとんど回った。

 その中で、軍学校関係を視察したときの歓待ぶりは、さしもの惟之も驚かされた。

 対露戦で活躍した参謀将官のひとりとして、生徒のあいだに惟之の名はそこそこ知られていて、通された部屋へ訪問者が絶えず、講義のない教官までもが、話を聞きにやってくるほどだった。

 視察は充実したものだったが、いざ帰国の日が近づくと、和胤はどこか気もそぞろ、といった様子になってきた。当人は浮かぬ顔を見せていないつもりでいて、惟之はそれがいじらしくて、知って知らぬ顔をしていた。

 そのうちに、惟之はいったいどこで見聞きして手回ししたのか、仏蘭西に近い、“黒い森”の付近に、十日ほど滞在できる場所を、見繕ってもらってきていた。詳細をきいても、内緒じゃ、と笑って教えてくれない。

 その緑深い森に建つ、とある将官の別荘にあたる邸へふたりきりで忍び、和胤は二度目、惟之は初めて独逸での年越しをした。松も雑煮もないちゅうのは、奇妙なもんじゃのう。と言いつつも、いわゆる大晦日は夜通し起きている。


 きちんと正装に着替えて、見当をつけていた場所へ朝日が昇るまえに出発した。

 丘のうえへ辿り着くと、ふたりで並んで立った。東を向くことはすなわち、日出ずる国に向かうのであり、朝日を拝したあと、お上のおわす宮城を遥拝するのである。

 和胤は佐官だから、惟之よりすこし後ろへ下がるべきだったが、惟之は白い手套を嵌めた手で、金糸で飾られた正装の袖をちょっと掴んで、和胤を同じ場所に止めた。

 曙光が射すと、佩剣の柄を鳴らして不動の姿勢を保つ。たとえここが独逸の地であっても、いまこの光だけは祖国から照らされるものであると感じられた。

 遥拝をすませたあと、朝日に照らされた惟之の横顔につくづく見惚れていた。無心といった様子の澄んだ眼にちょうど光がはいって、鳶色というか、不思議な感じに透きとおって見えた。

 惟之はまだ東の空を見つめていたが、和胤の視線に気づくなり、いつもの笑顔を向けてくる。もう少し見ていたかったな、と淡い切なさに擽られもしたが、口には出さずにそっと胸にしまっておく。

 元旦はこのように過ごし、日本で言う三が日は水入らずで過ごした。邸を借り受けたときにそういう約束になっていたらしく、四日になると、その所有者である将官が邸を訪れた。

 「やあ、申し訳ない。このような田舎にしか邸がありませんでなあ」

 と、中将の礼装を身につけた将官は、やけに流暢な日本語で言って豪快に笑った。その顔を、和胤はどこかで見たような気がして、失礼だとはおもったが気になってしかたない。そこで名を訊ねてみると、何と日本の独逸大使館へ駐在武官の任についている、ベッセル少佐の父であった。

 「唯一、独逸へ来て気兼ねなく話せるちゅうたら、この人しか居らん。二十年前、大使付き武官で日本へ来ちょったんじゃ」

 それで、この一件の納得がいった。惟之は和胤をさして、こいつはおれの弟みとーなもんでな、などと紹介され、非公式の場とはいえ、これには慌てた。

 息子もそうだったが、父であるかれも四角張ったことは嫌いらしく、茶目っ気のある笑みで話を聞き、微笑ましくふたりを見ている。

 残り少ない独逸での時間を、ベッセル中将は一切引き受けてくれ、ことばに不自由しない分、惟之も和胤も、随分と気を楽にして過ごせた。

 約一年に及んだ欧州視察も終わりを迎え、帰国の途につく為の仏蘭西へ発つ日がきて、惟之とは独逸国境付近にある、ぎりぎりの駅頭まで付き添って別れを惜しんだ。国境を越えれば、巴里で仏蘭西大使館に詰めている武官が待っている。

 「そげな顔せんでも、今年で駐在武官はお役ご免じゃろ。寂しゅうなったら手紙を寄越せ、おれも送る」

 慰めるように言って、最後に抱きしめる代わりに、首に巻いていた襟巻を和胤の首にかけてやり、さっと客車の中に身を滑りこませた。

 列車が見えなくなるまで、そこから動かないでいると、雲行きの怪しかった空から雪が降ってきた。惟之の残してくれた温もりを逃がしたくなくて、襟巻を外套のなかへきちんと巻いて、ようやく駅舎へ引っ込む。

 駐在武官の任を解かれて、独逸から帰国したら、また惟之の副官になれたらいいのに、とそんなことを考えながら伯林への帰途についた。
→【12話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 19:01 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/89-18d826c6

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。