大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  変わらぬ青空のしたで・第漆拾捌話

 朝、昼と碌な食事をとらないでいたが、さすがに夕食は席に連なった。皆が殆ど食堂へ揃うだけあって、和胤だけ顔を見せぬというわけにはゆかなかった。

 今日は大使夫人が手ずから、料理を饗して慰労してくれた。久しぶりの和食で、しかも和胤のすきなものばかりであったが、少しも箸がすすまない。

 大使の隣に座っている惟之の顔が見えたが、ちらりと見ただけであとは眼を伏せていた。何とか一膳を食べ終えるも、胃が落ち着かず、気分がすぐれないのを理由に、部屋へ引っ込んでしまう。

 それを見て、末席に連なっていた坂本大尉は、惟之へじっと眼をむけて訴えた。

 責めるようなものでなく、ほとんど懇願にちかい。若い士官からそのようなまなざしを向けられるのは、実は惟之の最も苦手とするところであった。坂本も坂本なりに、和胤を上官として大事におもっているらしい。


 なんとかしてくださいという坂本の、無言の訴えに押されて、惟之はあたまを掻きつつ食後の喫煙と珈琲もそこそこにして、和胤の私室へ向かった。扉を叩くが、返事がない。さては昨晩の仕返しかと、すこし腹をたて、扉の取っ手を捻って開けるが、そこには誰も居なかった。

 「何じゃ、居らんのか…どこへ行ったんじゃ」

 後ろ手に閉めると、あかりをつけて部屋を見渡す。惟之の邸に居たときと変わらず、小奇麗な部屋の使いかたをしている。惟之が送った写真が、羞ずかしげもなく壁に飾ってあり、こそばゆくおもいつつ眺める。

 椅子を一脚ひっぱってきて、後ろ前逆にして座る。背もたれのうえに腕を組んであごを乗せ、部屋に漂うかすかな白檀の香りとともに、和胤とのおもいでに暫し耽った。そうしてかれを改めておもう。

 几帳面だが泰然としていて、大概のことなら受け止めてくれる。それでいて初心というか、純情なところは消えていない。普段はそつのなさがあるのに、惟之の前だとどこかで抜けていて、妙に不器用な部分もみせる。それはそれで愛しいのだが、こうして苛立たされるときもある。

 それらの苛立ちを抑えて包んでやりたいとおもっているのに、我慢できずに感情をぶつけてしまう。

 どうにも怪しからん、と吐き出して後で省みてみれば、何でもないことでへそを曲げただけであったり、こどもじみた理由でしかなかったりする。今回も似たようなものだ。もっと年上らしく振舞うべきだとわかっていても、和胤に甘えたいという気持ちがそうさせてしまう。

 「あんつくもんが…。いつまで一緒にいられるのか、とか他にいくらでも言いようがあるじゃろ」

 じぶんが折れれば済むことだとわかっていても、くちをとがらせて膨れる。日本と独逸、遠い距離に離れているなかで、こうして逢えたという状況下に於いて、こればかりは譲りたくない気持ちがつよかったからだ。

 どのくらい待ったか、あえて懐中時計をひっぱりださず、今度は扉へ向けて椅子を据えて、同じかっこうで待機姿勢を保つ。背もたれのうえに組んだ腕がいい加減痺れて、だんだんと眉間が険しくなっていくのが、秒針がわりになってきたころ。足音がきこえて、扉がひらいた。


 気を紛らわす散歩から戻ってみれば、意外な客が待っていた。まさか惟之が居るとはおもっておらず、和胤は一瞬眼を見開いてすぐに視線を床へ落とした。そのまま退くも進むもできないでいる。

 「突っ立っちょらんで入れ。おれをほうたって、今までどこをほっつき歩いちょったんじゃ。もうどうでもええちゅう意図か」

 和胤が部屋へ入ると、やっと腕を解いて擦りつつ、今度は背もたれを抱えるようにして手を組む。まるきりこどもが拗ねているのと変わらない。言っていることと表情と、そのしぐさとが比例している。

 妙なかっこうのままでいる惟之と、立ったままでいる和胤は微妙な距離をおいて対峙した。

 「昨晩、会ってくださいませんでしたから。もう顔もみたくないということかと…」

 「言いたいことはそれだけか」

 「いえ、あの…伯林の駅で顔を合わせたとき、ほんとうに嬉しかったのに、夜会であげな物言いをして、惟之さんを傷つけました。おれはあなたのことを何もわかっちょらん、ただの自惚れ者じゃと思い至りました。…ごめんなさい、惟之さん」

 「謝って済む問題じゃーないぞ」

 拗ねつつも、的を射たことばを発する。惟之もここへきて、ただむくれているだけではなかった。

 「仰るとおりです…」

 和胤の心で、今どんなおもいが渦巻いているか、大体察しはつく。いま惟之の前にいる和胤は、途方にくれたこどものような顔をしている。普段切れ者でとおっているとは、到底おもえぬ狼狽ぶりである。

 ひとつ、やれやれとため息をついたあとは、もうやさしい口調にもどって、諭すことばを継ぐ。

 「おぬしゃァ…思慮深いくせに、ほんに不器用じゃの。物には言いようちゅうものがあるに、それを汲みもせんで言うからいけん。じゃけぇ、怒ったんじゃ。そこはわかっちょるんか?」

 「はい」

 「おぬしのことばが、おれにとってどんな意味を持つか、わかったか。今度からは、よう考えてそれから言うようにしんさい。それが難しけりゃァ、ひとつ接吻せるなり、抱きしめるなりで済むはなしじゃろ」

 ぽい、と気軽に言って寄越したそのことばに、和胤の心にわだかまっていた何もかもが、消えてしまうからふしぎである。こういうときも、まったく躊躇しない惟之らしい心遣いとその真っ直ぐな姿勢に、和胤は改めて痺れるような愛情を感じ、かれに対する愛しさが胸いっぱいに湧くのを感じ取る。

 あれこれと要らぬことを考えて、肝心の惟之を見つめられていなかったじぶんが羞ずかしく、顔をあげられない。

 「おれがもうちっと、寛容に構えちょりゃァ済むはなしちゅうこともあるが。なにしろ相手がおぬしじゃけぇ、腹もたつし拗ねもせる。…で、和胤、いつまでそうしちょるつもりじゃ」

 ひょいと椅子から立って、背もたれに寄りかかりつつ、つくづくと和胤を見つめて訊いた。

 ちょっとくびを傾げて待ってから、薄く笑みを浮かべると距離を詰め、軍服の胸倉を掴んで無理にからだを屈めさせるなり、唇を奪った。

 震えながら接吻に応えてくるのが、愛しくてならない。左手を頬へ伸ばして撫で、その手をおろして肩から吊った飾緒を指に絡めつつ、胸をさぐってゆく。

 ほんのすこし、身じろぎするのを見計らって、突き放すように解放した。最後に飾緒に絡めたままの指を解くと、石筆が触れ合って、かちり、と澄んだ音をたてた。

 「これで、おぬしが何も意思表示せんのなら、おれァ冗談でなしに明日、日本へ発つぞ」

 誘い文句なのか脅しなのか、耳もとへ低く囁いて、気まぐれな風のごとく、和胤の傍をすり抜けて惟之は部屋から出ていってしまった。
→【11話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 18:32 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/88-44aa7297

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。