大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾漆話

 まるで恋をおぼえたばかりの少年のように、ずっと逢いたいと、詮無い願いを抱いていた、その愛するひとがこうして目の前にいる。

 絡めた指を解きたくない、いつまでもこうしてふたりきりで過ごせたなら。できぬこととわかっていても、願わずにいられない。

 「うまいもんじゃ、踊れちょるじゃーないか」

 和胤のそんな葛藤を知ってか知らずか、惟之がにこりと笑みを向けてくる。最後の一小節ぶん、くるりと円を描いて足を運び、そこで舞踏がおわった。繋いでいた手と腕を解くと、また向かい合う。

 「夜会をこっそり抜け出して、おぬしとこうして過ごすのは、何よりのひとときじゃ。しかしな、いくら苦手なものでも、もうちっと上手く付き合わんといかんぞ」

 そんな不器用なところも十分魅力的だと、心ではおもっているが、誰もが惟之のような見かたをしているわけではない。ひととの付き合いというものは、それだけでは済まないのだと、やさしく叱る。

 それだけは自信を持てそうになく、努力します、とだけちいさく言った。和胤はそれから、躊躇っていたことを訊かずにおれなくなり、

 「惟之さんは、いつ日本へ帰られるのですか」

 と言うと、たちまち呆れ顔をされ、くるりと背を向けられてしまった。

 バルコニーに据え付けられた、石造りの腰掛けに歩み寄り、そこへ置いたステッキとシルクハットをひょいと取りあげる。それから、惟之は振り向きもせずにいつもの調子で口をひらき、

 「言っちょらんかったが、おぬしの居らんこのひと月で独逸の方々へ視察へ行ったけぇ、そろそろ帰国じゃ」

 こともなげにそう言われ、訊かなければよかったと後悔した。和胤は落胆の色を隠さず、返すことばもなく立ちすくんでいる。そのようすは、かれの愛犬、置いてけぼりをくったときの小太郎そっくりである。惟之は踵を返すと歩み寄って、その額をぴしゃりと叩いた。

 「大使や秘書官へ、それとなく訊くちゅうならまだしも、おれに訊くのはいただけんじゃろ。折角逢えたばかりじゃちゅうに」

 「すみません、でも…」

 「言い訳たれるな、この無粋者め」

 こわい顔つきで睨まれ、和胤はますます肩をおとした。すっかり拗ねて、へそを曲げてしまったらしい惟之は、ちらりと一瞥をくれただけで和胤を顧みもせず、もと来た回廊へ足を向けた。

 すぐ傍に庭へ降りられる階段があり、そこを一段ずつ、ゆっくり降りてゆきながら、ふてくされているのを隠さず、大きな地声をはりあげる。

 「ふん。おれァ、もう明後日には馬耳塞へ発って、とっとと日本へ帰ることに決めた」

 と、階段を降りきったところで、うしろから抱きしめられる。それも一瞬息が詰まるほどのつよさで、あやうく手にしている物を取り落としそうになった。

 「嫌です、まだ帰らんでください」

 「もう決めた、帰る。こうしてここに居るおれを、ひとつも大事にしてくれんようなやつの傍になんぞ、誰が居たいとおもうか。離せ」

 たとえ軍務で失策をやらかして、上官に叱責されても、これほど応えたことはない。ざくり、と心臓へ短刀を突き立てられでもしたように、鈍い痛みが胸へ刺さる。

 「そんな…つもりでは…」

 どうやら本気で怒っているらしいと気づいて呆然としていると、抱きしめていた腕を振りほどかれてしまう。惟之をこれほど傷つけてしまうとは、おもってもいなかった。しかし、言ったことは取り消せない。覆水盆に帰らず、というが、まさにそれである。

 淡く胸を温めていた甘い気持ちは、儚く消えてしまった。今はもう、吹き過ぎてゆくのは寂寞のみだった。顔をあげられないでいると、滲んだ涙がひとすじ頬を伝っておちた。

 「惟之さん…?」

 入り組んだ庭の、立ち木が風にざわめく音だけが、和胤へ答える。顔をあげると、惟之のすがたはどこにもなかった。

 そんな―。

 いつもの悪戯などではあるまい。和胤は身に震えがはしるのを感じつつ、その場から数歩よろめくように踏み出して、あとは呆然と立ちつくした。

 夜空のなかに、くろぐろとした木立ちが浮かんて揺らめいている。その様は不気味で得体の知れぬ不安を生んだ。和胤のなかに巣食うもの―慙愧や自己嫌悪―が現れたようにも見える。

 「こんな所にいたんですか、そろそろ帰りますよ。…山口中佐?」

 うしろから坂本に声を掛けられるまで、どのくらいそうしていたのか。涙こそ流していないものの、気が抜けた様子の和胤を怪訝そうにみている。何とか取り繕って、坂本へ笑みを向けてみせた。

 「大使と杉閣下は、もう車に乗られていますよ。行きましょう」

 いままで一緒にいて、惟之がそんな行動をとったことはない。やはり、相当怒っているのだろう。坂本のことばを聞いてますます気が重くなる。

 帰りは別々の車だった。大使館官邸へ帰って自室へ戻ると、着替えもせずに寝台へ倒れこむようにして伏した。

 枕に顔をうずめると、声をひそめて泣いた。惟之のことで涙を流すのはこれで二度目だ。しかも二度とも、和胤の思慮のなさ、軽忽さが原因である。

 どんなおもいで惟之がこの独逸へ来たか、伯林で顔をみたとき、口調こそ変わっていなかったが、まなざしが語っていた。一年を越す時間すら吹き飛ぶほどのおもいが、そこにあった。

 涙とともに、慙愧と諦観めいたものが入り混じって、心にひろがるのを感じた。

 もう一度謝って、赦してもらえなければ、いっそ身をひいてしまおう。惟之をもっとも大切にしているなど、そんなものはただの自惚れだ。かれを平然と傷つけているではないか。

 そのあと、惟之の部屋へ行ってみたが、扉の前で待ってもひとつの返事もかえって来ず、そののち和胤の部屋を訪ねてもこなかった。


 翌朝。

 うっそりと起き上がると、正装から軍服へ着替える。ほとんど泣き疲れて寝入ったらしく、体にある水分がなくなったかのようで、頭が痛かった。

 いつもは食堂に行ってきちんととる朝食も、手をつける気になれず、何も口にせぬまま大使館へ赴いた。今日も執務は山積されている。まず昨日までいた民顕での報告書を書き上げ、書類の整頓をしているうちに昼どきになった。

 「今日はどうしたんです、具合でも悪いんですか?顔色もよくないし、民顕から戻られたばかりで疲れてらっしゃるのでは…」

 差し出がましいのを承知で言いますが、自分がやりますから、今日は休んでください。と、報告書を受け取りに来た坂本は、心底から気遣いをみせて言う。

 「いや、大丈夫だ。…それより、今は杉閣下が滞在されているんだ。きみは閣下の案内について差し上げなさい、明日帰国されるそうだから、準備は万端に頼むよ」

 「はっ、そうでありましたか。…明日というのはまた急ですね、自分はまだ聞いておりませんでした。それならば、急いで手続きなどしないと間に合いません」

 一礼すると、坂本は慌しく出て行った。あとに静けさが広がって、虚しさを払うように、あるかなきかのため息をついたあと、和胤はまた諸事に立ち働きはじめた。


 そのころ、惟之はそのあたりを散歩して帰ってきていて、ちょうど昼どきの食堂で肉料理をほおばっていた。

 そこへ坂本がやってきて、明日のご出発は何時になさいますか、と聞いてくる。咀嚼たけなわのために答えられず、かわりに眼を瞬かせつつ首を傾げてみせる。

 「帰国なさると聞きましたが…?」

 「―んにゃ、まだまだ視察も残っちょるけぇ、居るよ。山口から聞いたんじゃろ?あいつの言ったことはきかんでええ。おれがせっかく独逸へ来たちゅうに、いつ帰るんじゃなどと抜かしよったけぇ、腹が立ってそう言ったまでじゃ」

 料理を飲みこんでから、拗ねた様子を隠さずに言う。

 「…なるほど納得がいきました。ご無礼を先に断っておきますが、まるで兄弟喧嘩をなさっているようですね。中佐は今朝から顔色が冴えなくて、ずいぶんとしおたれています」

 「ふん、知らん。ほうたっちょけ」

 間髪いれずに突っぱねる惟之に、坂本はさすがに上官が気の毒になったのか、宥めるように口をひらいた。

 「事情はよく知りませんが…。自分は中佐に、この先参謀として務めに励みたいと言ったら、閣下の人柄や、軍務に対する姿勢などを、訥々と語ってきかせてくれました。敬愛しておられるのがよくわかりましたし、山口中佐はほんとうに、閣下を兄のようにお慕いしておられます」

 そういった絆を持てるのは、兄弟のいない自分からみればとても羨ましくあります。と坂本大尉から、なかば憧れるようなまなざしを向けられる。そこでやっと、惟之は口もとを緩めた。

 「兄弟喧嘩とは、よう言うてくれたものじゃのう。…そうか、それなら今回はおぬしに免じて、ゆるしてやるとするか」

 惟之とて和胤の気持ちは察していた。しかし、不慣れな外国へ来て、そのうえ楽しみにしていた再会がひと月も延ばされ、どれだけ逢いたいと、傍に居たいと願っていたか。

 それをその日のうちにいっぺんに台無しにされたも同然で、激しやすい性格と、意地っ張りとも相まって、昨晩和胤が訪ねてきたのも、態と知らん顔をしたのだ。傍から”兄弟喧嘩”などと指摘されてみれば、なるほど確かにその通りである。
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| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 03:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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