大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾陸話

 その日は和胤にとって、まるで猫が浮世絵師の絵具箱をひっくり返したかのような一日となった。

 惟之と再会したとたんに、日本に居たころのような騒がしさが訪れ、和胤はちいさな台風の真っ只中に巻き込まれていながら、笑みを零さずにいられない。

 惟之が伯林の駅で珍事に遭遇しているころ、大使館に舞い込んできた知らせがあった。

 それは気まぐれで有名な、財界の大物である某氏から、今晩急遽、晩餐会を催すという知らせであり、全員が招かれたということで、大使館へ戻った和胤たちは、揃って目をまるくする。

 おかげで夕刻まで、みっちり仕事を詰め込まれる事態に陥った。それがまず騒動のほんの手始めである。惟之は和胤の傍にいたかったが、何かの手伝いができるわけでもなく、邪魔にしかならないから、忙しく立ち回るかれを尻目に、そっと官邸へ引き返した。

 あてがわれている部屋へ女中や助役を呼んで歓談をしたり、あちこち出向いたりしているうちに、和胤が夕刻になって訪ねてきた。

 「おう、もう正装でおるんか。おれも着替えんといかんのう、ちと待っちょってくれ」

 そう言って自室へ引っ込んだはいいが、昼間の一件で撃たれた右肩と首が存外痛み、着替えるのに難渋した。
応接間へもどると、和胤は女中が差し入れてくれた軽食をつまみつつ待っていた。正装を纏った惟之へ怪訝な表情を向ける。

 「どうした、和胤」

 「まだ洋装に慣れちょらんのですか」

 どうもみっともない様子らしい。袖をひかれて鏡の前に立たされ、襟元から何から正されていく。肩へ手を置かれたとき、走った痛みに顔を顰める。

 「惟之さん、まさか昼間の―」

 からだごと振り向いてすこしつま先立ち、そっと唇を重ねて和胤のことばを制した。すぐに離れて顔を見合わせるも、厳しい顔つきでいる。

 「気にするな、着替えるときに障るだけじゃ。あのことは不問にしたんじゃけぇ、黙っちょれよ」

 ああいう災難にも、生きておれば遭うこともあるものなんじゃ。と、さらりと言ってのける。

 大したひとだと、つくづく内心で感心しつつ、一緒に迎えの車へ乗り込んで招ばれた晩餐会へ行ってみると、またそこで珍事がおきた。

 なんと主催者の秘書は、伯林で会った“鞄持ち騒動”の男だったのだ。惟之が日本陸軍の中将と知るや、主催者ともども、床へつきそうなほど何度もあたまをさげ、謝意を述べた。

 これには惟之も苦笑するほかない。出会いの奇異さに驚きもしたが、だからといって別段それを改めて叱責するわけでもなく、男の思いこみの強さと、せっかちさを切符探しの一件をさして諌めたくらいで、あとは一笑にふしてしまう。

 「いやはや、閣下は心がお広いですな。わたくしはとても敵いません」

 シルクハットを手に、秘書は何とも複雑な表情であたまを撫でる。かれは意外に朴訥なところがあり、愛嬌ある仕草に、惟之はすっかり気をゆるしていた。

 屈託のない笑顔を向けられ、秘書ははじめこそまごついていたが、そのうち惟之と差し向かい、杯を傾けあった。

 「杉閣下は度胸が据わっておられる、どこへ行かれても変わりませんなあ」

 日本の大使が和胤のとなりへ来て、妙な感心をしているところへ、お定まりのように舞踏会の時刻となり、引っぱりこまれるようにして連れてゆかれ、和胤も大使夫人や若いご婦人の相手をつとめなくてはならなかった。

 ―まったく、どうも賑やかな場所が好きになれんようじゃのう。

 ふたりばかり相手をつとめ、早々にバルコニーの暗がりへ退散してしまった和胤を、惟之は人々の中にいながら、ちゃんと見ていた。するりとその輪から抜け出して、あとを追う。

 「おい、和胤。舞踊はきらいか、それとも不得手なだけか。そげな調子じゃ女にもてんぞ」

 夜風に吹かれている背へ、からかいたっぷりに声をかける。舞踊が苦手とかいう以前に、鹿鳴館といい、和胤はこういった場所が性に合わないのだ。惟之もそれはわかっている。

 「からかわんでください」

 「何を拗ねちょるか。こっちィ向け」

 まだ笑みを含んだような声音で呼ばれて、和胤は渋々ながら従った。真後ろに立っていた惟之は、何をおもったか和胤の右手をとると、その甲へ唇を落として、指を絡ませて繋いだ。

 「こ、惟之さ―」

 「あの喧しい場所が嫌じゃちゅうのは、わかっちょる。それなら、おれとここで踊るならええか?」

 悪戯っぽく、甘さを含んだ笑みを向けつつ、和胤の左手をとって誘う。正装につつまれた華奢な腰へ手が触れたとき、まるで今はじめて惟之へ触れたかのような痺れが、そこから走った。

 何も言えず、頬は熱をもったままだ。胸が高鳴って、一歩も踏み出せない。

 「お互い一年以上離れちょったんじゃ、このくらいじゃれあってもよかろう。…ん、可愛ええのう、また赤くなっちょる。おぬしゃどうにも、妙なところで初心が抜けんのう」

 ちいさく、舞踏曲がきこえてくるこの場所は、半月をすぎた月の光が、ただ静かに降りそそいでいるだけだ。

 「もう…そげな風に、からかわんでください」

 「からかっちょりゃせん、愛しいちゅうとるんじゃ。おぬしは変わらず、ずっとそのままでいろ」

 一歩、後ろへさがりながら、何も飾ることなく、言ってのけ、透明な笑みで和胤を見つめる。ゆっくりと歩をすすめ、いつしかゆったりと、きこえてくる音楽に合わせてふたりで踊っていた。
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| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 20:45 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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