大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾伍話

 こうして、最後の訪問先である独逸へ来たものの、伯林に、しかも毎日のんびりと大使館へ、腰を据えていられるかといえばそうではない。

 国王への謁見をはじめ、各将官、諸侯に招かれて舞踏会だの園遊会だのと、“からだの掃除よりも身嗜みに気を遣う”ような日々が続いて、いい加減に飽き飽きしていると、ある晩、坂本がひとりで官邸へ、惟之が滞在している部屋へやってくる。

 「山口中佐から電話がありまして、明日の夜戻るそうです。どうも、話した感じからして、中佐はあちらでも閣下の訪問について何も聞いていないようですが、本当によいのですか」

 「ああ、おぬしらに迷惑はかけん。安心せい」

 嬉々としている惟之を見て、坂本はその悪戯好きにすこし呆れつつも、さて明日は何が起きるのだろうかと、密かな期待を抱いてもいた。

 翌朝、ずいぶんと早く目が覚めた惟之は、平服のうえに薄手のフロックコートを羽織って、咥え煙草をしつつ、伯林の街路へ出かけていった。馴染みになったカフェテリヤがちかくにあり、早朝から営業している。

 あいかわらず、独逸語はさっぱり理解できていないが、日本語でいうところの、“はい”と“いいえ”にあたる“ヤー”と“ノイン”のふたつだけは覚えている。

 一般的なやりとりであれば、あとは身振りや表情で何を伝えたがっているのか、大体掴めるものだ。カフェテリヤくらいであれば、不自由しない。店にはいってひとつ笑顔を向け合えば、もうそれだけで挨拶のかわりになる。

 街路に人影が増えて、車などが行き交うようになる時間まで、朝食をとりながら気ままに過ごしたあと、伯林の駅近くに散策へでた。雑踏を進んでゆく足取りは軽く、どこまでも歩いてゆけそうな気がした。

 下町のあたりまで来ると、込み入った裏路地も多くなる。時々振り返り、来た道を確認しつつ迷わぬように進んでいき、駅へたどりついた。大時計を見上げると、正午を過ぎている。

 和胤はまだ民顕から戻ってこないが、もうすぐ逢えるかとおもうと、急いた心に押されて、自然と足がむいてしまったのだ。伯林に滞在してひと月近くなるし、もうこの辺りまでなら、独りで出歩けるほどになっていた。

 「まったく、おれァ何をしようるんじゃろうの…」

 山高帽を深く被りなおして呟く。通路の脇へ寄って細巻を咥えると、燐寸で火をつける。何とはなしに人の流れを眺めながら、紫煙を燻らせていると、後ろから肩に手を置かれて、何やら独逸語で呼びかけられた。

 語調が穏やかであったため、怪しみもせずに振り向くと、そこには身形の良い見知らぬ男が立っていた。惟之よりあたまひとつ半ばかり背のたかい、少々恰幅のよい壮年の男は、今しがた到着した汽車から降りてきたようで、使いこまれた革の鞄を手に提げている。

 親しげに笑みながら、その箱のような鞄を惟之の眼前に差し出してくる。持ってくれとでも言うのだろうか、受け取って様子をみていると、男は懐やらポケットやらを探りはじめ、どうやら切符を探しているということを察した。

 それが、なかなか出てこない。惟之はその男が気の毒だとはおもったが、手助けしたくとも、どうしようもない。じっと見守っている間に、灰が落ちそうになった細巻を指さきで慌てて取り上げ、預かった鞄へ落ちぬよう揉み消した。

 “この中は探したのか”という風に、惟之は相手に向かって鞄を示した。慌てているときほど、調べ忘れていることが往々にしてあるものだ。

 入れた覚えはない、と言いたげな顔つきでいたが、探してみろ、という惟之の仕草にくびを傾げながら、鞄を開く。男が探しやすいように、捧げ持つようなかっこうで持ってあげさえする。

 ほどなくして、“ダンケ”を連呼しながら見つけ出した切符を惟之に見せつつ、笑いかける。しかし、何故か鞄を受け取ろうとせず、惟之にもたせたままでいる。

 男は肩へ腕をまわすなり、まるで友人と歩くようにどこかへ連れてゆこうとする。惟之は慌てて踏みとどまって、首を振りつつ“ノイン”とはっきり告げた。

 怪訝そうに見られるのも構わず、鞄を両手に持って丁重に差し出すと、今度は男が何やら怒りだしてしまった。

 ―この男は、いったいどうしたちゅうんじゃ。ことばが通じんちゅうのは、不便じゃのう。

 鞄を受け取りもしないで、男は睨みつけている。左手に携えているステッキを、苛立たしげにひねくり回していて、物騒な雰囲気であることぐらいは、惟之にも感じ取れた。

 何やら罵るようなことを言っているらしく、通りがかる人々が不愉快そうな顔をして、ふたりを避けていく。

 惟之は仕方なく、馬鹿のひとつ覚えよろしく“ノイン”を連発して、あとは目で訴えてなんとか宥めようと努める。ひとまず持ったままの鞄を、男の足元へ置こうとからだをかがめると、右肩をステッキで撃たれた。

 惟之を鞄持ちか、家に仕える下男あたりと勘違いしているのではないかと推測したが、それを覆す説明をする語彙を、惟之は持ち合わせていないのだ。

 知らぬとはいえ、仮にも大日本帝國陸軍の中将をつかまえて、ステッキでぶん殴るとはとんでもない話だが、どうにも手段の取りようがない。

 身を起こそうとしたところに、今度は首を撃たれ、石畳へ膝をつきかけたとき、見かねた誰かが惟之の前に立ち塞がるようにして、男の暴挙を遮った。手を貸されて体を起こしてみると、日本海軍の若い士官である。

 「ああ、助かった。きみ、すまんが言葉が通じんので何とか釈明してくれんか。かれはおれを家の下男か何かと、勘違いしておるようなのだ」

 心底ほっとしながら言うと、その士官は惟之を痛々しそうに見たあと、自分は英語と仏蘭西語しかできませんので、それは難しいかもしれません、と言う。

「一緒に伯林で降りた陸軍士官が、独逸語が堪能でして。気づいて来てくれればよいのですが。少なくとも私は、そのあいだに無防備なあなたを、守ることくらいはできます。体は痛みますか」

 何とも頼もしいことばだが、惟之も軍人だし、その気になれば男を投げ飛ばすくらいの芸当はできる。かれも平服の洋装でいる惟之が、だれか気づいていない。

 十中八九、罵声であろう。男は旅で疲れているのも相まって、足止めを食っていることに腹を立てて二人に向かって喚いている。

 「おい、どうかしたのか」

 不意に、後ろから声がかかって惟之はぎくりとする。目深に被っていた帽子の庇に、顔を隠して俯いた。忘れるはずもないし間違えもしない。眼を瞑っていてもわかる、声の主は和胤だった。

 「あっ中佐、助かりました。いや、実はですね―」

 こんな形で再会しようとは。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。海軍士官が事情を説明しているあいだに、こっそり逃げ出したかったが、助けてもらった手前それは出来かねた。

 言語が違ってもわかる、和胤は半ば説教をするような語調で長々と諭していて、男はやっとじぶんの勘違いだと解かったらしい。初めに会ったときの穏やかな人物に戻ると、しきりに謝っているのが見てとれた。

 名刺を男から受け取ると最後に一言だけ、厳しい語調になった。叱ったのだろう。それらを、惟之はそっと帽子の庇から窺っていた。

 「まったく、きみが言った通りこのひとは、かれを家人と勘違いをしていたそうだ。よほど似ていたのだろうが…しかし、酷いはなしだ。大使館から厳重に抗議しようとおもうが…、そちらの方が?」

 海軍士官の後ろに庇われていた惟之は、俯いたまま一歩石畳へ踏み出したが、顔をあげられない。

 「ステッキで撃たれておられたので、もしや怪我をなさっているかもしれません。私がもう少し早く止められればよかったのですが」

 「あァ、面倒じゃけぇ、いちいち大使に上申せんでええ。助けてもらったことは感謝しちょるが、くれぐれもこのことはおぬしらだけの胸にしまって、誰にも言わんでくれ」

 恥ずかしさが極まり、惟之は郷里ことばを丸出しにしていることを意識していなかった。かれらの顔も見ずに口早に言い置いて、くるりと踵を返す。

 「え…?」

 それで海軍士官のほうはただ、惟之をぶっきら棒なひとだとおもったに違いないが、和胤はその挙動に我が目と耳を疑った。華奢な形のよい小柄な背中、独特の郷里ことばを乗せた声は、耳に絶えて久しい。

 逢えるのなら、ひと目でも逢いたいと願っているひとのもので、そのひととしかおもえなかった。かれが、伯林にいるはずなどないのに。

 「す…杉閣下?」

 和胤は半ば呆然として名を呟き、背を見つめていると、その人物は目深に被っていた山高帽を、パッと取り去って振り返った。

 「こらァ山口!なにを間抜け面して、ぼやァっとしちょるか。大使館へ帰るんじゃろ、民顕からの報告を大使が首をながくして待ちようるぞ。…まったく、もっとまともな手段で再会する筈じゃったのに台無しじゃ。死ぬほど驚かせてやろうと思うたのにのう」

 いつもの檄が、伯林の駅に響き渡る。夢でもなんでもない、いま目の前に惟之が立っているのだ。
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| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 01:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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