大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾参話

 ―明治四十年、正月元旦

 郷里の山口にある杉家本邸には、親類姻戚が集まって、賑やかな祝いの席が設けられ、惟之は穏やかで水入らずの時を過ごしていた。

 「あの、惟之叔父さま。和兄さんは今日…ご挨拶に来てくださらないのですか?」

 と、甥の考一が遠慮がちに惟之の傍へ寄ってきて、耳もとへぽつりと零す。ことし十八歳になる考一は、できれば和胤に、今後の進路などの悩みなどを、打ち明けてみたいと言う。

 穏やかで隔てのない和胤の人柄に触れ、気兼ねなく一緒に過ごした思い出は、忘れられないらしかった。別れてひさしくなっても、考一のなかでは“カズニイサン”という呼びかけが消えていない。

 惟之は暫し甥の顔をみつめ、慰めるように肩をさすってやる。

 「そうかそうか、考一にとっては兄みとーなやつじゃったけぇのう。しかしなあ、あいつは今独逸へ行っちょるのよ。日本大使館駐在武官でな、今年もおそらく帰って来んじゃろう。ふたりで手紙を送ったらどうじゃ、おれが一緒に出してやるけぇ。千代もそうしんさい」

 叔父の提案に、孝一は目を輝かせて喜んだが、妹の千代はといえば歳相応の恥じらいをみせて、なかなか頷かなかった。

 千代にしても兄同様、和胤を慕っていることには変わりなかったが、なにぶん、そこは乙女の身である。もうそういった気持ちを、無邪気にくちに乗せられる年頃ではないとわかっていた。

 いわゆる、千代にとって和胤は、ほんのりと初恋のひと、という位置づけになっているらしかった。

 そんなふたりを微笑ましくみながら、両隣へすわらせていた。座には、義弟の恩田と、その家族もいる。恩田には五人のこどもがいて、やさしくて面倒見のよい千代を好いている。姻戚だけに血の繋がりはないが、滅多に会えぬ“千代お姉ちゃん”に甘えるのが嬉しいらしく、席をうつしてもすぐに纏わりついてくる。

 その子らをかわるがわる、抱っこをしたりしているすがたをみていると、千代もすっかり大人びてきたものだ、と惟之は内心で感慨深くもある。それもそのはず、ことしで十六歳になるのだ。

 正月の料理は郷土料理が多く饗され、箸をつけるたびにつくづく、和胤にも食べさせてやりたいとおもうものばかりであった。


 だがこうして、のんびりとしていられるのも数日しかなく、松の取れぬうちに郷里をはなれ、第五師団の本部へ舞い戻って、五日にはもう執務についていた。周囲はその精力に半ば感心するやら、呆れるやらでいたが、当人の惟之は例によって、どこ吹く風といった調子である。

 そこへ、正月も終わろうかという頃に、何の前ぶれもなく惟之のもとへ辞令が届いた。

 昨年、英国とのあいだに第二次日英同盟が締結された。海軍の代表とともに陸軍の代表として、英国へ友好をしめす表敬訪問へ行ってくるようにというものだった。

 「なァにを考えちょるんじゃ、帝都の連中は。馬鹿かァ、おれァ行かん。誰ぞ他のやつに任せりゃええんじゃ、英国通は他にいようが」

 なにしろ軍人になってからこのかた、一歩も日本から出たことがないのだ。そんなじぶんにお鉢が回ってくるとは、おもってもいなかった。寝耳に水、青天の霹靂じゃ、などと言っているうちに、周囲はさっさと準備をすすめてしまっていて、惟之が得意の雲隠れをする前に、洋行の日程は勝手に組まれていた。

 師団本部には同じく表敬訪問団に選ばれた、海軍中将の城内が、呉鎮から毎日のように通ってくるようになり、いよいよ逃げ場がなくなった惟之だが、だからといって副官の藤井に愚痴をこぼしたり、助けを求めたりということはしなかった。

 和胤以外には弱みをみせたくない、という気持ちもあったが、ただ意地を張っているのではなかった。陸軍省へ抗議の電話を一本掛けたきりで、あとはむっつりだまりこんでいる。

 その電話に出た尾木いわく、“三十年分の息抜き”をしてこい、というのがその本音らしかった。川上や吉田、恩田からも、あとのことなら心配するなと背をおされて、承諾してしまったのだ。いまさら後に退けない。

 惟之の柔軟な思考と、視野のひろさを見込んで、新しい国家戦略の智謀を持ち帰ってくれるのではないか、という期待が裏にあることも、薄々勘づいていた。

 当の惟之も、実は本心では嬉しくおもっている。鹿鳴館の夜会で出会う、各国大使らの話を聞くにつけ、いつかはかれらの祖国へ行ってみたいものだ、という気持ちが胸の片隅をあたためていたからだ。

 英国ゆきを指名された者たちは、各々あれこれと慌しく準備を済ませ、二月のはじめには、惟之も含めた表敬訪問団をのせて、戦艦朝日が呉の港を出航していった。

 「英国には、三月半ばに到着します。その後は仏蘭西、墺太利、独逸へ滞在の予定になっておりまして、閣下には一年ほど欧州視察へ赴いていただいた後、帰国ということになります」

 惟之にあてがわれた士官室へ、副官の藤井がやってきて淀みなく今後の予定を告げる。また知らないうちに予定が増えているが、ここは既に洋上である。それについて言うのも空しく終わるだけだ。

 「また爺ィの差し金か、藤井。今更じたばたしても始まらん。ここまできたら、何もわからぬまま岡場所に売られる生娘も同然なんじゃ。どこへでも連れてゆけばええちゃ。仔細はおぬしに任せる」

 寝台へ寝転がると、投げやりな口調で冗談混じりに言う。これにはさすがに藤井も吹き出して、肩を震わせている。笑い上戸らしく、なかなか止まらない。

 「これ、いつまで笑っちょるか。こげなことで外国へ連れてゆかれるとは、おもいもよらんのじゃ。おれの身にもなれ」

 「微力ながら自分もそばに居ります。それと、すこし落ち着いたら艦橋まで来てほしいと、艦長から先ほど言づてを承っております。では、これで失礼します」

 まだくちの端に笑みを溜めたまま、そう言って藤井は出て行った。

 確かに急なはなしではあったが、こうして欧州の遍歴に出られるということは、少なくとも最後の独逸への訪問で、和胤に会える可能性があるのだ。

 それをおもうと、自然と口許が綻ぶ。

 たとえ少しの間でも、和胤の傍に居られるのなら、それでいい。初めての欧州視察が、このような再会の喜びを含んでいることが、例えようもなく嬉しい。少年のように胸をときめかせているのを、押し殺すつもりはなかった。

 寝台から飛び起きて外套を纏い、士官室から出ると下甲板から一気にラッダーを軽快に駆け上がって、中甲板の長官室へ立ち寄って城内へ挨拶をしておく。

 狭い船室にいつまでも居るのは、惟之の性に合わない。途中立ち働く水兵たちの邪魔にならぬよう、敏捷な身ごなしで上甲板へ出てゆく。その後ろすがたを、乗組員たちは感心しつつ見送った。

 惟之は船など滅多に乗らないが、荒天に見舞われてどんなに乗船が揺れても酔うことがない。地に足をつけているのと変わらず、一向に平気である。

 他にも陸軍将官、佐官が幾人か同行していたが、皆船酔いで参っているらしく、甲板に出ている陸軍の軍人は惟之ひとりだった。

 「杉閣下、こちらですよ」

 「おっ」

 艦首のほうへあるいてゆくと、煙突の向こうに艦橋がみえた。栗鼠さながらの俊敏さでラッダーを登ってゆくと、いかにも潮風に鍛えられた海の男、といった風情の艦長が、日焼けした顔に笑い皺をきざんで、迎えてくれる。

 「杉閣下は船にお強いとお聞きしておりましたが、これほどとは。海軍に居られてもおかしくないですな」

 「ん、そうか?」

 艦橋の手すりにつかまって身を乗り出し、潮風に吹かれながら目を細めた。この艦はもう、瀬戸内を抜けかかっている。これほど大きな軍艦に乗り込むのは、初めてだった。波を蹴立てて大洋を疾駆し、遥か先の英国へ向かうのだ。

 「おれは陸軍じゃけぇ、海軍さんの苦労はひとつもわかっちょらんが、これだけは言ってもええかのう」

 「何でしょう、閣下」

 「うん…、軍艦はええのう」

 手すりを抱えるようなかっこうで振り向いて、よくうごく目を輝かせて言った。まるで無邪気なそのことばに、艦長は一瞬唖然としたが、すぐに茶目の効いたまなざしを向けた。

 「英国まで、船旅を存分に堪能してください」

 と、手にしている双眼鏡を惟之のくびへ提げながら、器用に片目を瞑ってみせた。
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