大日本帝國軍の愛と友情の日々

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾弐話

 独逸の日本大使館へ着任してからというもの、和胤の忙しさは非常なもので、惟之のあの底のしれない気力がすこしでも自分に備わっていれば、と時折おもってしまうほどだった。

 留学で伯林を訪れたのはもう十年前だったから、何かと不安をおぼえもしたが、何より救いだったのは、あのころ共に机を並べて戦術を競いあった参謀候補生たちが、今や気鋭の参謀となって、伯林の本部へ勤務しているということだ。

 まるで昔、前線を共にした戦友と、ふたたびまみえたかのように彼らは和胤を迎えてくれた。日々の務めはふた月を数えるころには大分おちついて、祖国日本へおもいを至すことも徐々に増えてくる。

 どうやら、惟之は嫌々ながら結局、中将に昇進したらしい。それでいまは、海軍との連携をとるためもあって、広島の第五師団長として、その責務を果たしているという。

 そういった動静が、同期の友人から舞い込んでくる手紙の追伸にこまごまと書かれており、気遣いの深さが汲み取れる。

 副官は藤井中佐が務めているそうだが、うまくやっているのか、そこまではわからない。ただ和胤のあたまにあるのは、惟之の健康である。それが何より心配の種で、職務も落ち着いてきたいま、素直な気持ちをそのまま伝えようと、下手でもいいと思い切って机にむかった。

 便箋に万年筆をはしらせてみると、存外すらすらとことばを綴ってゆけることに、我ながら驚く。

 ―ふた月も便りを出さんでおったが、惟之さんは何をおもっちょられるかのう。

 日本から届く手紙の中に、惟之からのものがないことには、別に落胆はしていない。かれのことだから、和胤から先に手紙を寄越してこないかぎり、送ってくることはないだろう、と踏んでいる。

 兎にも角にも、独逸で腰を落ち着けて任務に励んでいる旨と、惟之の心身を労る旨とを五分五分の割合になんとか止めて便箋にしたためる。

 冗長にならぬように心がけたつもりが、書き終ってみれば便箋が十枚を超していた。きれいに畳んで封筒へおさめるも、妙にぶ厚くて、監軍部へ送る書状の倍はある。

 同時に同じ所へ届かなくてよかった、と妙な安堵をおぼえつつ、それを日本へ発送してもらう。


 ―話は変わるが、日露戦争後には、世界がどこか一変してしまったようで、独逸においてもそれは感じ取れた。瞠目、といったようなまなざしを、時折だが向けられることがあり、日本側としては何故なのかわからず、くびを傾げるしかない。

 和胤だけでない、独逸に駐留する武官はみな、あのときはただ祖国存続の危機に立ち向かい、何とか凌ぎきって守ることができた、という考えしかないからだ。

 世界において大帝国と称されてきた露西亜を、東の果てにある日本という、文明を開化させてから三十七年、言うなれば生まれて間もないちいさな国が、ぎりぎりの辛勝ではあったが、確かにその攻勢を押し返したのである。露西亜はどうみても日本が勝てる相手ではなかった。

 伯林の本部に勤める、和胤と旧交のある参謀たちは、日本陸軍の戦い方―特に騎兵―に興味をそそられたようで、何かと研究の対象にしているらしい。それについて聞かれることも少なくなかった。

 どことなくきな臭い、火薬の匂いが独逸にも漂いつつあるのでは、と軍人の戦に対する勘とでもいうべきものが、かれらと対峙しているときに、ちらちらと気配として読み取っていた。


 そうして日々を過ごすうち、伯林にもそれらしい秋の気配が漂いはじめ、褪せたような色の葉が落ちるのを見つめながら、武官の誰もが多かれ少なかれ、ため息をつく。

 色づいた葉は、重厚な街並みと石畳の彩りになるどころか、却って侘しさを増やすだけで、風に吹かれて街路を舞ってゆく。独逸帝都の秋はそんな風景だった。なんとも味気ない風景に、このときばかりは日本の鮮やかな紅葉が恋しかった。

 大使館に詰めている武官は、なにも和胤だけではない。留学に来ている中尉から数えて四人いる。

 直属の部下といえば大尉の坂本だが、真面目なうえになかなか快活で、素直さが取り得である。直感が鋭く、知識に裏打ちされているそれは周囲を唸らせ、侮れぬものがある。坂本が言わば、大使館付き武官たちの連携と雰囲気を良く保っている存在と言ってよかった。

 かなり肌寒くなってきたころに、ある日めずらしく坂本がかしこまった様子で和胤の部屋を訪ねてきた。何事かと訝しんでいると、お手紙であります、と言い、さっ、と机上へ巻物と書簡を置いて一礼をするなり、出て行ってしまった。

 書簡はひらくまでもなく、表書きの悠々とした筆跡からして、惟之からのものであるとわかった。筆でしたためられているそれには、何より惟之の健康を気遣う和胤の心をおもってか、恙無く過ごしていることが先ず書かれていた。

 それから、あの出発前夜のできごとを、要らぬ世話であったと突っぱねたあと、いじけているのを隠さず書き散らしてあり、最後の最後に、本当は一丈ぶん説教をしたためるつもりであったが、この程度で勘弁してやる、などと書かれており、和胤は思わず声に出して笑ってしまった。

 書簡をすべて広げてみれば、それでも四尺はありそうなほど長いものだったが、読むのはあっという間だった。一方の巻物を解いてみると、

“不舎晝夜”

 と、気取りのない筆運びで、空に浮かぶ雲さながらの悠然とした文字がそこにあった。署名と、落款まで捺してある。惟之自身が目の前に居るようで、和胤は今更ながらに切なくなった。

 日本を―惟之のもとから離れて、もう五ヶ月が過ぎている。いままでは忙しさに寂しさも薄められていたが、こうして惟之の片鱗に触れたとたん、どっと押し寄せてくる。

 ―惟之さん、この分だと独逸滞在は一年どころでは済みそうにありません。せめて正月のひと月でも日本へ帰れたら、どんなによいか…。

 そんな愚痴を含めて直ぐに返事をしたため、惟之との文通がはじまった。何も私的なことに限らず、独逸の戦術や兵器についてひろく見解を記したものも、別の書簡に仕立てて一緒に送ることも忘れなかった。

 日々の技術進歩は目覚しいもので、緑深い独逸の片田舎でそういった人を殺す兵器を、せっせと拵えているのだから、皮肉なものである。和胤も二、三度見学へ訪れたことがあったが、とてもそんな“火薬庫”にはおもえぬほど、素朴な町だったと記憶している。

 伯林は、程なくして厳しい冬がおとずれたわけだが、案の定、正月に帰国するなどという思惑は夢と消え、武官たちはそろって落胆の色を隠さなかった。

 その中にいて和胤はひとり、どこか満たされた穏やかな心境でいる。遠く離れてはいても、惟之の想いがこうして手許に届くし、幾度かやりとりをしていて気づいたが、互いに面と向かうよりも、素直に気持ちを伝えあえている節がある。この気持ちを抱いていれば、任期が伸びようとも、堪えられそうな気がしていた。

 和胤の私室には、惟之の中将礼装の立ちすがたを撮った写真と、洋装で一緒に撮った写真とが、並べて飾ってある。ふたつとも、送ってきてくれたものだ。礼装の写真は、真剣そのもの、というよりも不機嫌そうでもあり、悲しそうでもあり、きっといまも複雑な心境でいるだろうことは、推測できる。

 いま、半刻でも会えたなら、思い切り抱きしめてすこしでも慰めることができたらいいのに。と、就寝のまえなど、決まってため息をつきながら、写真をみつめる。やはり逢いたいという気持ちが膨らむのは、抑えきれないものである。
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