大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾壱話

 和胤が日本をはなれてひと月が経ち、八月の暑い夏の盛りに、惟之は周囲に背を押されるかたちで、渋々ながら中将へ昇進した。同時に男爵にもなったが、うわべだけでない、私的に親交のあるひとたちから宴席で祝われてさえ、当の本人はにこりともしなかった。

 ありがとう、のひとことも言わず、ぶすッとした顔のまま、宴席をあとにした翌日。新たに受けた辞令とともに、中将の真新しい礼装へ袖を通したすがたで、早朝に自邸を出た。

 慣例に則り宮城へ伺候し、歴々のお偉方へ挨拶を済ませたころには、夕刻をまわっていた。うんざりしきって鬱々とした気分を晴らしたくなり、帰宅まえに参謀本部へ正装のまま、ぶらりと立ち寄った。

 既に第一局は恩田の手に託してあり、もうこの参謀本部での居場所はなくなったのだ。十日の猶予を局長の引継ぎに充てられていたが、そんなものは恩田とツーツーの間柄であるから、とっくに済ませてあり、明後日にはさっさと、広島の第五師団長へ着任してしまうつもりでいる。

 「郷里が近いけぇ、いっそ適当な時期に師団長を退いたら退官するかのう。帝都に戻るのも億劫じゃ、市ヶ谷の家は引き払って隠棲してやるか」

 と、局長室へ通されるなり、かれこれ六年は過ごした、見慣れた部屋の長椅子へ腰を落ち着け、前立てのついた正帽をぽい、と無造作に脇へ放った。

 「第十四師団と交替して、鉄嶺の守備警護に就きたいちゅうとるのに、尾木の爺ィが諾きやせんのだ。おれが満州の前線に立っちょれば、腑抜け議員連中のあたまでも解かるように、逐一電文で報せてやるのに。姫路の第十師団に任せるとかぬかしおって」

 このまま煮え切らん状況に置かれるのなら、おれァ、本気で引退するぞ。と、ぼやく惟之の丸いあたまを、恩田はぴしゃりと叩いた。いまはとっくに終業時刻をまわっているから、遠慮がない。

 「馬鹿なことをたれるな、広島へゆけばせることは山のようにある。それに、海軍さんと綿密な連携を持つために、呉鎮に近い鯉へゆくんじゃろうが。しがらみに囚われんで動ける、おぬしを見込んでの異動なんじゃ。しっかりしんさい」

 「へっ、そげなことはの、おぬしに言われんでも心得ちょるわい。向こうに帰ったら、しし鍋でもつついて日がなごろごろして過ごしたいちゅうのも、本音じゃ」

 いまの惟之の副官は尾木の手回しか、やはり同じ旧長州出身の中佐で、名は藤井という。いかにも鋭利そうな明晰さはあるものの、泰然としては居らず、みていてどこか危なっかしい。

 藤井について、愚痴や揶揄も含めて、その仕事ぶりに対する批判になりかねないことは一切、誰にも言ったことはないが、恩田の前でつるりと、こんなかたちで本音が出てしまった。和胤が副官だったころとちがって、安心していられない。

 あえて乱暴な言い方をすれば、多少のことを丸投げにしてしまうと、藤井はそれだけで行き詰まってしまうらしい。性格にも起因するのだろうが、和胤はその点堂々と構えていたから、ときにはそれが面白くて、わざと投げて任せていたことすらあったくらいだ。

 惟之も和胤も軍務に関しては、徹底して現実主義であったから、ぴったりと背が合っていてこそ出来る芸当だったのだ。同じ仕事ぶりを、藤井にも求めるのは酷というもので、それは惟之も重々承知している。

 「惟之、藤井も充分切れ者なんじゃけぇ、贅沢言いなさんな。それに、山口には何ぞ、一丈は文をしたためるとか言うちょったろう。まだ出しちょらんのか」

 「まだじゃ、あと半年は出さん。あいつから報告の電文なり書状が届いてから、したためるつもりじゃ」

 ―この、ひねくれ者が―

 内心で呆れたが、惟之の横顔に刹那、憂いが浮くのをみて、すこし気の毒におもった。近い親類であった姪と甥も、学業のために惟之の傍から離れてしまったし、せっかく刎頸の交わりとなった弟同然の和胤でさえ、独逸へ駐在武官にとられてしまった。

 「おい、毅三郎。なんちゅう顔で見ようるんじゃ、おれァもう、あの頃とは違うぞ。そう心配せるな」

 うす暗くなってきた部屋のなか、惟之は華奢な胸を反らせて磊落に笑った。正帽をとりあげて、席をたつと恩田へ背を向けて手をあげた。

 「さて、道化役は仕舞いじゃ。早う帰ってこげな滑稽なものを脱いで、夜は新橋へゆくぞ。のう毅三郎、一緒にどうじゃ」

 「いや、おぬしだけで行ってこい。帝都を離れるんじゃけぇ、気がねなく息抜きせるのも大切じゃ。藤井にはおれが適当に理由をつけておく」

 「珍しいのう、おぬしがそげなことを言うとは思わなんだ。それならば、ことばに甘えるとするかのう」

 惟之はまだ健康上よろしくないということで、飲酒と喫煙の制限をうけている。九割がたは守っているが、一割は度を過ごすことがある。

 そこが心配ではあったが、和胤が居なくなってから、どこか快活さが消えているように、恩田の目にうつる。たまには芸妓を総上げにして、派手にあそぶのも悪くないだろう。


 夜になって新橋に顔を出した惟之の胸はまた、ちくりと疼いた。

 馴染みの料亭に、馴染みの芸妓を五人呼んでもらって、揃って迎えてくれる。座敷にもう、白藤のすがたはない。

 わかっていても一瞬、こぢんまりした座敷のなか、たおやかな雛妓を目で探してしまう。それに気づいた妓らが、色っぽい笑みとともに惟之を取り囲む。

 まるで母親がこどもの傍にいてやるようなもので、小さく爪弾く三味線の音色と、美味い酒と、少々の料理とで、芸妓と花を引きつつ小声でぽつりぽつりと話をしたり、聞いたりしているうち、惟之が普段けして漏らさぬ弱音なども、この妓らだけの胸のうちに秘められることを承知で、ことごとく吐き出してしまった。

 ここに居る妓たちは、みな惟之が落籍した者ばかりで、特別な間柄なのである。

 「―じゃけぇ、おぬしらとも当分逢えんのよ。正直に言って広島へゆけるのは郷里が近いけぇ嬉しいが、こうして懇ろに慰めてくれる妓と、離れるのだけは嫌じゃのう」

 と、隠しもせずに悲しい顔をして言う。中将になった経緯などもぽつぽつと聞かされていたから、惟之の気質を知る芸妓らはこぞって慰めにかかる。

 「ねえ、杉さま。定休日はおありでしょう?折を見てあたしたち、呉へ行っていいかしら」

 「ああ、ええよ。いつでも来んさい」

 約束よ、かならずお伺いしますからね、と言う。実際この妓らならば、呉まで訪ねてきてくれるにちがいなかった。

 何より惟之は父のような存在であるし、師団長ともなればいつ派兵にでるかわからない。惟之は軍人なのだから、別れが突然訪れるのも覚悟している。それ故のことばでもあった。

 「優しゅうしてくれるついでに、もうちっと近う寄って、甘えさせてくれんかのう」

 と、途端に無邪気な笑顔をみせて相好を崩した。部下や副官、取り巻きの居ない座敷など滅多にないから、こうして大っぴらに芸妓らと、親密極まりない時間を過ごせるのは貴重なのだ。

 馥郁とした女たちのやさしい香りと、どこまでも包みこむような柔らかな腕は海の如きで、惟之は久しぶりに心底から安堵の息をつけた気がした。
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| 変わらぬ青空のしたで・71―80話 | 23:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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