大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第伍話

 食堂で昼食をとったあと、軍医の高柳中佐の部屋を訪ねた。そこで一冊の本を借りると中庭で熱心に読み始めた。すこし経つと、昨日まで直属の上官だった川上がそこを通りがかり、和胤に声をかけた。

 「おお、山口クン。そげんな難しい顔して、いけん、したとな?」

 のんびりとした薩摩ことばが、すぐそばできこえて、和胤はあわてて本を閉じると振り向いた。

 「あっ、これは川上閣下。いえ実は…、職務中なので大きな声では言えないのですが―」

 この悩みはあるいは、川上が最も頼りになるかもしれないとおもって話し始めたが、案の定熱心に聴いてくれた。

 「ほうほう、そぉいうことか。それじゃれば、いつでもおいのとこいへ来んか」

 聴き終えると、相変わらずの好々爺然とした笑顔で言ってくれさえする。中庭で川上と別れ、執務室に戻ると午後の職務に就く。便箋に書いて提出した案件は、判り易いように裁可されており、あとはちまちまとした補足を簡潔に付け足すのみであった。

 上官のあの眠たげな様子からして、ともすれば夕刻ちかくまで睡眠をとったほうが疲れもとれるだろう、とおもった。すこし躊躇いはしたが、結局はそうした。

 ―午後は午後で、喧しいのが来る。

 そう上官が言っていたのは、官僚や政党のお偉方であった。かれらが幾人か、杉はいるかと訪ねてきたりもしたが、剣幕のわりには大した用件ではなさそうである。乗り込むようにして来た客を、ひとまず和胤の特技とでもいうのか、そのひとつである、よい加減の茶を淹れて飲ませ、ひと息つかせる。

 そうして落ち着かせてから話を聴くと、相手は副官の和胤に言いたいことを言って、すっきりした顔で帰ってゆく。聴き上手の役得とでもいうのだろうか。和胤はどうもひとを宥める役がうまい。

 最後の来客がひきあげてゆくのを見送りながら、この特技は杉閣下のもとにいる間、大いに発揮されるにちがいないと、和胤は妙な確信をもった。そろそろ、上官を起こしにゆかねば。柱に掛かった時計を見上げると、ちょうど終業の十五分前であった。


 ふと目が覚めて、だいぶ傾いた茜色の陽が部屋に射しこんでいるのを眺める。どのくらい眠ったのかそれでわかったが、寝台の毛布の中で惟之はわずかにくびを捻った。

 ―何じゃ、あいつ。起こしに来んじゃないか。

 しかも更にくびを捻ったのは、自分がここで寝転がっていても、どうやら無事に部署が機能していることである。主に政府官僚が、阿呆面とくだらない苦情を引っ提げて、惟之が何時どこで何をして居ようがおかまいなしに訪ねてくるというのに、今日は珍しくそれがない。

 ―まぁええ、狸寝入りしちょるか。

 そう思って瞼をとじたとき、間違いなく副官だろう規則正しい足音が、扉のむこうから聞こえてきた。

 部屋に入った和胤は、まだ寝台のうえで毛布に包まれている上官の寝顔をみて、躊躇った。寝息の静かさは意外であったが、熟睡しているだろうかれを、どう起こそうか悩んだ。が、結局は寝台から少し距離を置き、上体を十五度程前に傾けてちいさく声をかけた。

 「杉閣下、起きてください。終業前に引継ぎの指示、伝達などはしませんと。残りあと十分ですので、どうぞ上衣をお召しに」

 その言葉を受けて瞼を閉じたまま、上官は毛布のなかで身じろぎをした。それを見て、ああ、起きていたのだなと和胤は内心で微笑んだ。その直後にぱかっと瞼を開いた惟之は、眠たさを微塵ものこしていない目を副官に向け、いきなり問いかけた。

 「きみに言うのを忘れちょったが、今日はフロックコートを着た、間抜け面の連中は来なんだのか?」

 すると一瞬間を置いて、思い当たったのか、緊急を要する程でもなかったので、言い分を聞くだけ聞いて帰しました。と、さして大した問題でもない、というさりげなさで副官は返答を寄越してきた。

 その途端、惟之は毛布の中から改めて顔を副官へ向け、キラキラとよく光る目を輝かせる。嬉しさが極まると、却ってことばが出てこないものだ。

 和胤は上官の目を見て、すこしばかりこそばゆい気持ちになりながら、どうかなさいましたか、という風な表情で返事のかわりにする。

 そのまま副官の顔を暫く見つめていたが、やがて惟之は満面の笑みを浮かべながら毛布をはねのけると、栗鼠のような身軽さで寝台のうえから飛び跳ねるようにして起きあがる。

 「一眼の亀浮木に逢う。ちゅうのはまさにこのことじゃ。いい女房をもらっておれは嬉しいぞ」

 そう言いながら手早く上衣に袖を通す。着替えを済ませ、珍しく五つ釦をきちんと掛けた姿になると、階下へ向かう。そのあとを追いながら、一体何がそんなに嬉しかったのだろう、と和胤は心のなかでくびを傾げている。

 「あの官僚の阿呆共を、おれ抜きでいなした副官は、きみが初めてじゃ」

 部下たちの待つ部屋の前で立ち止まり、副官を振り向いて惟之は言った。

 それを聞き、和胤はなるほどと得心がいった。嬉しげに目を輝かせた理由は、それだったのだ。ところが上官は足元へ視線をおとし、躊躇う素振りをして、そこでことばが途切れる。

 「閣下、どうなさいましたか」

 この問いに、惟之はウン、と唸ったまま次のことばを探していた。実を言えば、この副官がそこまでやってのけるとまでは、思っていなかった。また、以前と同じような士官が来たのだろうな、というおもいが頭の片隅にあったことは否めない。惟之には自らの人物眼を誤ったという恥ずかしさと、かれに対する後ろめたさがある。

 「すまんな、山口」

 そういう思いを込めて、少し含羞んだ笑みを口許に浮かべて顔をあげると、副官に向かってみじかく謝った。

 ひとつも飾るところがない。まっすぐな上官の気持ちはすぐに伝わってきた。含羞みつつ部下に謝意を表す上司など、少なくとも和胤は今まで見たことがない。

 これには何とも返答に困った。是とも非とも返せない代わりに、眉間に手をやると指さきで掻いた。こちらもありのまま、含羞をみせる。

 そんな副官を見やり、目尻に甘酸っぱい笑みを残したまま、惟之は扉に向き直る。

 「諸君、今日は日本橋じゃ。仕事なんぞ途中でええから、とっとと帰って七時までに支度してこい」

 いきなり第一局室の扉を開け放つと、よく通る快活な大声を響かせた。部屋にいた部下たちは、惟之のこういった突発的な挙行には慣れっこだから、こんな無茶な言われようでも、一向に平気である。

 歓声をあげて喜ぶ将校らが、潮の引くように退室してゆくのを、惟之は笑顔で見送った。参謀が天職であるだけに、もうそのあたまのなかは、今夜の宴会をどう盛り上げるか、作戦が駆け巡っている。

 「それじゃ、おれも帰るとしよう。山口、また後でな。七時だぞ」

 副官の腕を叩いて言い、踵をかえし、きびきびと廊下をとって返す上官の後姿を、和胤は唖然として見送る。大人数の宴席は、どうにも苦手なのである。しかし今日のそれは、どう考えても自身の歓迎会のような位置づけだから、行かないというのは失礼になる。最低限のつきあいだけで、退散させてもらおう。

 そう決めると軽くため息をついた。
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