大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第漆拾話

 杉邸の鍵はあのときの看病の折、和胤の手許に預けられたままだ。じぶんの家だとおもえ、という惟之の意思表示である。

 玄関を開ける前、ふと雪の日のことをおもいだした。あの日も、こんなふうにそっと足を忍ばせて帰宅したものだった。懐かしさと寂しさがこみあげつつ、まず居間を覗いてみるが、いる様子はない。階段をあがって、思わず口許が綻ぶ。まるで同じように、三つ先の扉が細く開きっ放しになっていたのだ。

 「着替えもせんで、こどもみとーに…」

 部屋を覗くと、寝台のうえに伏せて寝入っている。半ば呆れつつ惟之の自室へはいると、着替えの和服一式をみつくろって戻り、その傍に跪いて暫く寝顔を愛でる。

 半ば落ちかかった軍帽を、そっとあたまから外して小机に置き、頬に唇を落とすとからだへ手を伸ばした。起こさぬようにひとつひとつ慎重かつ、丁寧に身につけているものを外して取り払う。

 「ん?」

 すっかり和服に着せ替えて、楽な姿勢にさせる。身を起こしかけて動きを止めた。見ると惟之の手に上衣の胸元を掴まれている。しまった、と顔を覗くが、変わらずねむったままだ。疲れが浮いているものの、どこか安堵したような寝顔で、なおも掴んだ上衣を引く。

 「和胤…」

 ―おれはいつでも傍にいます、たとえ遠くても。

 目を覚ます様子はまったくない。夢をみているのか、それとも微かに和胤の気配を感じているのか。握った手を離そうとしない。かといって、添い寝するわけにはいかない。今日は諌めに来たのだから、甘やかすのは主旨に反する。和胤はそれでも温かな笑みを隠せず、上衣をぬぐとからだに掛けてやる。

 相当にくたびれているらしく、深夜になっても惟之は目を覚まさなかった。

 かつて過ごしていた部屋で、和胤はゆっくりと手紙をしたためる。そのあと夜明けちかくまで、和胤はずっと惟之の寝顔を見守っていた。時折、あたまを撫でてやりながら、一向に崩れぬ寝相のよさに妙な感心を覚えたりしながら。

 いよいよ空が白んでくると、名残り惜しくおもいつつ部屋を離れ、戻るときには握りめしの入った櫃と急須とを手にしていた。書きおえた手紙と櫃を軍帽のとなりに置いて、惟之のからだに掛けた上衣を静かに取り去る。

 代わりに足元へ畳んでおいた上掛けで包んで、そうしながら一度だけ強く、惟之を抱きしめた。

 「もし―、ひと月も経たんうちに倒れたなんちゅう外電が独逸に届いたら、承知しませんからね」

 きちんと上衣を着込み、身支度を整える。扉のそばで振り返って、音もたてずに部屋をあとにする。

 曙光がさす頃には、和胤はもう新橋停車場にいた。小さな革製の鞄をひとつ携えて、広島の呉から独逸へ渡航するのだ。進まねばならない、大きな流れのなかに足を踏み出した。そのなかで惟之も和胤も、自身に出来得ることを成してゆくしかない。

 自身の心は、全て惟之に預けたつもりでいるから、ふしぎと気持ちは透きとおっている。朝の青空を見上げて、まるで今の心と同じようだとおもった。


 朝の清々しい光が射して、つめたい清水に手を差し入れたときのような涼やかな感覚が訪れて、惟之は心地よく目を覚ました。意識がまだぼやけているなか、襟元へ手をやって目を見開く。まるでばね仕掛けのように跳ね起きて、部屋をすべて見渡すまでもなかった。

 きちんと畳まれた軍服が長椅子に置かれ、小机のうえには―。

 「…そうか、今日じゃったんか。和胤のやつ、最後じゃちゅうに起こしもせんで。とうぶん声も聞けん、顔も見られん、触れられんちゅうにっ」

 腹を立てたついでに、くう、と腹の虫が鳴く。

 櫃の蓋をひっ掴んで開けると、いつもの計ったような、同じ大きさで結ばれた握りめしが揃って鎮座していた。ひとつ、わし掴みにしてひと口頬ばった。いつもの味である。腹が立ってしようがなかったが、それでも長椅子にきちんと座って、行儀よく食べていく。いくら拭っても涙が滲んできてしまう。

 ―あんつくもんが、手紙なんぞ残していきおって。

 きちんと封までしてあるそれを、取り上げてひらく。そこには惟之の不摂生を諌めることばが八割、惟之を愛しているということばが二割。脅迫じみていると、そう感じてしまうのは後ろめたいからであり、そうでないときに読めば、愛しているということばが十割にもおもえるであろう。

 「ふん、小生意気なやつじゃ。説教に一丈はしたためんと気が済まん。言われんでもわかっちょる」

 と、独りごちても頬の熱さは隠せない。まだ腹立たしいのはおさまらないが、同時に嬉しさも、寂しさも、こもごも渦巻いていた。手紙はきれいに畳んで抽斗へしまう。それから、軍服を毟りとるようにして掴み、手早く着替えを済ませた。

 よりによって出発前夜に、いちいちこんな世話をしてゆく。それが小癪に障る。と言っても、何もかもを愛しいとおもっていることの証であることは、わかっている。

 わかっているが、生きることへ目を向けた惟之にとっては、時には眩しすぎるときがある。目を逸らせて、時には目を瞑ったまま、闇雲に進んでしまいたい衝動に駆られる。しかし、周囲がそれをゆるさない。

 「まったく。まーた、担がれたちゅうことか」

 和胤が日本から発っても、惟之を取り巻く時間は止まらない。

 以前と違うのは、この心を温めるものがあるかないかということだ。和胤は昨晩、終始だまって惟之の傍に居た。その意味は重い。そしてそれを受け止めた惟之は、その想いを裏切れない。和胤は、惟之に全てを預けていったのだから。
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| 変わらぬ青空のしたで・61―70話 | 02:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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