大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第陸拾玖話

 鹿鳴館での一夜の後、またふたりは会う機会もなくなり、それぞれ多忙な日々を送っていたが、心が以前よりも強く結ばれていることを、互いに信じていた。

 惟之の想いをすこしでも疑って、かれとの関係について投げやりになっていたことについて、和胤は深く愧じたあと、かれに対する愛しさを倍して抱きつつ、独逸への赴任を待つばかりであった。

 その間にも、和胤の耳に何かときこえてくるのは、惟之の多忙ぶりである。時には周囲を驚かせるような果断を以って、守旧派の元勲や大将を相手に、丁々発止のやりとりをしているとか、あまりの無謀ぶりを諌める副官がいないせいか、恩田が陰でずいぶんと奔走しているとか、そういった類のものが多い。

 日本を発つ三日前になって、和胤たちの同期が小料理屋にあつまり、送る側と送られる側とにわかれてそれぞれの立場をおもい、最後の会合を楽しんだ。

 「貴様が居なくなったせいで、杉閣下はまたいつもの磊落ぶりでな。第一局は毎日毎日、上へ下への大騒ぎだ」

 苦笑いを堪えもせず、ほとんど八つ当たりのような言い草で、和胤に絡んでくる者もいる。それに対しては、かなり後ろめたいものがあった。あの日受け取った辞令の中に、後任副官の引継ぎがなかったこともわかっていたが、惟之の意図を汲んであえてそれに甘えていたからだ。

 皆に負担がかかることはわかっていたが、振り回されても結果を待てば、その正しさに頷かされることがほとんどだ。惟之の軍務に対する姿勢はまったく私心がないから、そのくらいの騒ぎは我慢してもらわねば。

 それに、和胤が副官であったころでも、こうと決めたことは、いくら諌めても説得しても貫いてきたものだ。

 「それになあ、もうずっと陸軍省へ泊まりこんで、また無茶をされとるのだ。第一局のほうは、恩田閣下が統制を執って凌いでおられるが…」

 満州を強かに狙う列強を、軍人の立場からなんとか守れぬものかと、特に先の戦争で前線に散っていった者たちを知る将官は、そのおもいを背負って立っている。惟之もそのひとりだ。

 日本は一見平和を保っているようにみえても、それをとりまく状況は、そう生易しいものではない。守るべきものを守る、その姿勢でいるだけなのだ。それはわかっている。

 しかし、惟之は晩冬に一度倒れかけて、未病で済んだとはいえ二ヵ月も療養の憂き目にあっているのだ。いくら軍務でも、やはり和胤には惟之の身が心配である。独逸へ行ってしまったら些細な気遣いすら、もう届かなくなる。

 「そうか、またそげなことを…」

 この先も、惟之の心身に隅々まで触れることができるのは、和胤ひとりであると言っても過言ではない。

 「貴様が居らん間、おれたちで何とかしてはみるが、とても手に負えるひとではないからな。後任の副官は貴様ほど、閣下をお支えできるとは、とてもではないがおもえん」

 とにかく、日本を離れる前に一度、閣下をきつくお諌めしてくれ、とほとんど懇願に等しい勢いで頼みこまれ、和胤はしぶしぶ頷いた。もう、惟之の副官という立場にないのだから、諌めるのは筋違いであるのだが、心配と職務とを秤にかけて、瞬時に心配へ傾いてしまったのは否定できない。

 しかし、出立間際にそうそう時間がとれる筈もなく、前日の朝になって何とか、陸軍省に足を運ぶことができたが、陸軍次官室を訪ねたときにはあまりの慌しさに、惟之の所在を尋ねられるような雰囲気ではなかった。

 ただ心配であるという理由で訪れただけに、見咎められぬうちにと、何も言わずに立ち去った。

 そのすがたを、たまたま監軍部の吉田が目にしていて、密かに諸関係者へ伝えられた。和胤は惟之の守り刀と言われていたし、雪中演習の活躍や、辞令を受けた経緯など、ごく一部の惟之と親しい者だけは、ふたりが兄弟同然の仲であると知っている。


 そのようにして和胤が訪ねてきたのも知らず、惟之は海軍次官と横須賀鎮守府での会合を済ませて、陸軍省へ戻ってきた。出て行く時と違い、どこか切羽詰った気配がない代わりに、疲労の色が目立って濃い。

 「杉くん、海軍さんと話もついたようですし、いい加減に自宅で休養なさい。今度倒れたら、取り返しがつきませんよ」

 次官室にもどると、尾木と吉田に出迎えられる。にこやかに言ったのは吉田で、尾木は無言のまま、惟之が小脇にかかえて携えていた封書を取り上げる。

 「わしの居らん間に、踏ん張ってくれるのはええが…。また十日も、ここへ泊まりこんだちゅう話をきいた。戦時中ならまだしも、平時にそこまでしとったら身が持たんぞ。今日はもう退庁せることだ。参謀本部にも寄らんでええけぇ、早う帰って休め」

 「何ですか、藪から棒に…」

 有無を言わさぬ調子で遮られ、二の句が継げないでいると、吉田に肩を抱かれて部屋からやんわりと出されてしまう。くちをとがらせながら表に出ると、即座に俥に乗せられる。海軍次官との会談で、ほぼ気力を使い果たしていたが、煮えきらぬものと捨て鉢な気持ちが混ざり合って、奇妙な原動力を生んでいた。

 「今日帰ったって…もう、しょうがないんじゃ」

 「休まなければ、明日の登庁は認めません」

 「ぅ…、わかりました」

 穏やかながら、柳に風ではけしてなく、肝心肝要の場面では梃子でもうごかない。吉田中将の笑顔には、圧倒的な迫力がある。さすがの惟之もたじたじとなって、頷くしかなかった。

 いざ帰宅してみると、やはりいくら独り住まいだとはいえ、落ち着く場所である。

 ―ああ、ここに居ると、和胤と過ごした日をおもいだす。今頃、どのあたりを航海しようるんかのう。

 忙しさのあまりか、十日続けて働きとおした影響か、時間の感覚が狂っていることに気づいていなかった。一度倒れかけてから、疲労の限界がずいぶんと近づいたような気がする。

 「まったく、情けないのう…」

 自室で着替えるのすら億劫で、おぼつかぬ足取りで向かったのは、三つ先の扉だった。和胤が使っていた部屋である。すこしでも、和胤のそばで眠りたい。軍帽も参謀飾緒もとらずに、軍服のまま寝台へ伏せった。そうして五分も経たぬうちに眠りに落ちる。


 夕刻になって、官舎へ吉田から和胤宛てに電話がかかってきた。どこか気が抜けたまま電話口に出ると、温和な吉田の声がきこえた。

 「いよいよ明日ですね、山口くん。…ところで、朝ここへ来たようですが、何か不都合な点がありましたか」

 「―いえ、お世話になった方へ、ひとこと挨拶をしに伺っただけです」

 「そうですか。杉閣下なら、ご自宅におられますから、そちらへ行ってごらんなさい」

 と、惟之を帰宅させた張本人であることをおくびにも出さず、さらりと言う。和胤はそんな事情など知らないから、電話機の前で身を強ばらせた。返答につまっていると、なおも吉田はことばを継いだ。

 「杉閣下と、きみが兄弟同然におもっていることは、存じています。行っておあげなさい」

 たたみかけるように言われて、返答を待たずに通話を切られる。

 惟之と親しいだけあって、吉田中将には何もかも見通されている。もう会えぬだろうと、このまま諦めて渡独するつもりでいたから、嬉しさを隠せなかった。身支度を済ませると、すぐに惟之の自邸を訪れた。
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