大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第陸拾陸話

 目付け役同然であった副官の和胤が居なくなると、たちまち惟之の振る舞いは以前のような、傍若無人なものに戻ってしまった。

 ささいな悪戯から、ぷいっとどこかへ雲隠れしてしまう、といったことは毎度のことで、ひどいものになると、紛糾する議会や、壮士、議員諸氏の跋扈する党本部なぞへ、ひとりで出掛けてゆき、軍部への不満に対して論議をぶち上げて、その大抵が相手を凹ませて意気揚々として帰ってくる。

 見ている周囲は気が気でない。中には態と敵を拵えて面白がっているのでは、という見方をする者もいて、無駄とわかっていても諌めに来る。

 そういったつわものは、第一局の参謀連中だけではなかったが、たとえば、川上と誠実なつながりのある、枢密顧問官をつとめる麻生氏などが相手でも、茶目を効かせた笑顔で煙に巻いてしまう。

 その噂は時をおかずして、和胤の耳にも入ってくる。

 杉閣下には、軍部を庇ってくれることに感謝しているが、それが逆に誤解を招いて、そのうち内外から煙たがられはしないか。と、この度大幅な異動命令が出て同じように“召集”を受けた若い佐官たちが、食堂の隅のほうで固まってそのような会話を交わしているのが、時折きこえてくる。

 かれこれ半年、惟之の副官をつとめた身から見れば、二度の大戦がおわって、比較的平穏な今だからこそ軍部に喝を入れるつもりで、そうした行動をとっていることを、理解していた。

 好き勝手述べて、世間にいらぬ不安を撒き散らしている連中には、様々な後ろ盾があるものだ。それらが怖くて誰ひとりとして止めにゆく者がいない中、惟之は見かねて説得しに行っているのだ。

 その度合いが、すこしばかり行き過ぎているのは、否めない。しかしいまの和胤は、それを諌められる立場にはないから、こうして黙って見守っているしかない。


 独逸への出発は残すところあと半月を切った。

 和胤の手許に、鹿鳴館で催される夜会の招待状が届いたのは、独逸での運転免許証の書き換えを申請している最中で、もう七月にはいっていた。

 惟之と一緒に銀座へ礼装を誂えにいったのが、懐かしくおもえる。封書をひらくと、本朝を離れる諸君を激励したく云々、などとわざわざ添え書きがしてある。

 ―これが惟之さんと会える、最後の機会じゃな。忙しさにかまけて、すっかり疎遠になったが、どうしちょられるかのう。もうおれのことなど、何ともおもっておられんかもしれんが…。元気にしとられるのなら、ひと目でも会っておきたい。

 はじめは、夜会へ行くのをやめようとおもったが、いざ素直な気持ちに問うてみれば、やはり答えはひとつしかでてこない。

 夜会の当日は、まだ梅雨も明けきらぬというのに、気持ちよく晴れていた。夕刻になって、官舎へ戻った和胤は礼装に着替えると、前もって示し合わせた同期の佐官らと一緒に鹿鳴館へ向かった。

 みごとな夕焼けの空を眺めながら連れ立って歩き、暮れゆく藍色に空が塗りかえられる時分になって、煌く鹿鳴館の瀟洒な佇まいが視界にはいる。

 門をくぐると洋式の前庭が広がっており、入口前には各将校、議員の来賓が乗ってきたのだろう、俥がきれいに並んでいる。

 和胤を含む、若手の参謀佐官たちを目ざとく見つけたのは、彼らをよく知る恩田や川上、松沢といった将官たちで、少佐に任官して以来、初めて招ばれただけに、一同はどこか救われたようなおもいでいたが、その出迎えた面々のなかに惟之は居なかった。

 ホールにはもう、国内の来賓はともかく、大使館から招かれた各国の高官や武官までがおり、目の回るような人の数である。

 そのなかに於いて、和胤は吉田中将のとりなしで、近々向こうで世話になる、独逸大使付きの秘書官へ挨拶をしに行くなど、初めのうちは周囲を顧みる余裕もなく、各方面をまわっていった。

 それらの所用が落ち着いてくると、移動の合間に惟之のすがたをあちこちに求めたが、それらしい人は見つけることができなかった。

 「誰か、お探しかな」

 振り向いてみれば、六尺豊かな武人然とした男が立っていた。短い黒髪を戴き、すこしあかるい褐色の瞳を、まっすぐ和胤へ向けている。

 礼装に身をかためていても、厳つさが取れず、しかし一度相好を崩せばひとの良さそうな笑顔がある。それがなんとも言えぬ愛嬌になっており、けして洗練されているとは言えなかったが、どこか惹きつけられるものがあった。

 声をかけてきたのは、独逸大使館に武官として駐在している佐官で、ベッセル少佐だった。かれは和胤を探していたのだと言いながら、葡萄酒ではなく、麦酒の壜をかかげてみせる。

 さっそくホールの片隅へ陣取ると、杯を交わしながら―といっても、杯を干すのはほとんどベッセルのほうであったが―親しく会話に興じた。

 かれとの話は、これから渡独する身にはこの上ない力になったし、戦術における話にうつると、双方静かながらも熱く語り出す始末であった。

 「―いや、貴官ともっと早く知り合えていたならばなぁ、実に惜しい」

 ベッセルがそう言って、もう何杯目になるかわからぬ麦酒を干したとき、ホールの入口付近でちいさなざわめきが起こった。それと同時に、ちょっとした人だかりが出来はじめ、まだ舞踏会が始まらぬ時分だったから、それだけでも周囲の耳目を集めるのには充分であった。

 和胤もホールの中ほどにいたが、何事かとくびを伸ばしてそちらを窺う。

 「ああ、あの人だかりは杉少将閣下だよ。今いらしたのか、道理ですがたが見えない筈だ。いつも遅れて来ることはないのに、珍しいな」

 さらりと言って、ベッセルはどこか微笑ましげに人だかりを見遣る。何故か訳もなく、その言葉に和胤はうろたえる。

 「そうか。君、先ほどひとを探していたようだが、杉少将閣下だったのだな。そうだとしても、今は近づかないほうがいいぞ。御婦人がたの肘鉄を食う羽目になる、あの騒ぎがおさまるまで、ここで待っていろよ」

 椅子から腰を浮かせかけた和胤の腕を、ベッセルはとっさに掴んでひきとめる。

 やがて集まっていた人の波が崩れて、惟之のすがたが見えた。一緒に誂えにいった洋装の礼服を着込んでいて、和胤は僅かに口許が緩むのを、堪えられなかった。

 大使夫人や高官とおぼしき人物から、ことごとく抱擁、もしくは頬に接吻を受けたりしている。妙な人気があるのか、そこだけほんわかとした雰囲気に包まれているのが、傍目でみていてもわかった。

 鹿鳴館で歓迎会だの、記念式典だの開催するといっても、国を挟むと、掛け引きや何かが絡んで、憩いと交流の場と銘打っていても、どこかよそよそしさが抜け切らないものなのに、ふしぎと惟之はそんなものを飛び越えて、つきあいができるらしい。

 そもそも軍人たる者、政治には口出し無用、という立場を貫いているから、それだけ真摯に相手に向き合えるのだろう。その純粋さが相手にも伝わって、喜ばれるにちがいなかった。外国語のひとつも読めない、話せもしないくせに、この歓待であるのがその証拠である。

 「君も、杉少将閣下が好きなのか。杉閣下を知るひとは、私の知る範囲でもいるが、ひとりとしてかれを嫌いだというのは聞いたことがない」

 それはそうだろう、料亭での宴会ひとつとってみれば瞭然である。あの天衣無縫さと天真爛漫さは、誰もが認める長所なのだ。天賦の才ともいえる機知と諧謔の出どころは、魅力的ですらある。

 「途中で座を立ってすまないが、杉閣下に挨拶をしてくる。時間がゆるせば、後ほどまた話そう」

 堪りかねて和胤は席を立つと、ベッセルへの挨拶もそこそこに、入口の人だかりへ向かった。ちかづくと折りよくその人波が引いてゆき、傍には幾人かが残り、妙齢の婦人が、惟之の隣へ添うように立っているのが目にはいる。

 察するに、おそらく仏蘭西の大使とその家族であろう。仏蘭西大使のご令嬢は美女の誉れたかいと、風の噂で聞いていた。惟之の隣に立つ婦人がまさにそのひとで、和胤は暫し見惚れた。

 もうすこしで声を掛けても憚られない距離、というところまで来て、一瞬横切る人の列に遮られてしまう。足をとめたその間に、惟之は和胤に気づくことなく、この婦人を優雅な仕草でエスコートするなり、周囲の幾人かと連れ立って、ホールに設けられた来賓席へ去ってしまった。惟之へ声も掛けられず、どこか気が抜けたようになって、近くの壁に寄ると背をあずけて天井を仰ぐ。

 ―あげな近くにおって気づかれんとは情けないのう。これではもう、声も掛けにゆけん。どうしたものか…。

 「和胤、こんなところでぼんやりしている場合か。お偉方のご令嬢のお相手もせんと、あとでどやしつけられるぞ」

 いきなり声が降ってきて、袖を引かれる。親友の竹内だった。かれもいわゆる“召集組”で、英国へゆくことになっている。こうしてみると、かなりの親しい者たちと離れなければならないことに思い至り、和胤は胸を締めつけられて、俯いたままでいた。

 「そげなことより、おれは貴様らと一緒に飲んで語らっちょるほうがええよ」

 来なければよかった。ぽつん、と呟くと竹内の肩へ頭をつけて、深くため息をもらした。
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| 変わらぬ青空のしたで・61―70話 | 19:38 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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