大日本帝國軍の愛と友情の日々

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  変わらぬ青空のしたで・第陸拾伍話

 春と夏の境目であったあの日で、和胤との甘い時間はぴたりと止まっていた。うっとおしい梅雨のさなかにあって、惟之は陸軍次官として地方の視察にもゆかなければならず、必然、軍務以外で和胤と私的に会うこともなくなってしまった。

 その日程はといえば嵐に揉まれる木の葉同然、休みも碌にないという有様。

 嵐が過ぎ去ったあとには、嘘のように晴れ渡る、“台風一過”が訪れたのはよかったが、そのころにはまるで状況が一変していて、ふたりが別々の道を進みはじめている現状に、気づかされることになった。

 早朝の、まだだれも居ない参謀本部。惟之はすでに出勤していて、第一局長室の机の前にすわっていた。そこには、いつか見たような場面があった。

 和胤が副官として赴任してくる日も、同じようにこの机上に黒い書類挟みがのっていた。ずいぶん前のことのようにおもえて、惟之のくちの端にかすかな笑みがうかぶ。

 いま目の前にあるそれは、開かずともわかる。和胤の異動に関する書類だ。惟之はそれに、然るべきところへ判を捺せばよい。

 ―ついに、来よったか。

 その感慨はあったが、それだけだった。いつものように手を伸ばして、板紙を開いて頁を繰り、抽斗から判を出して捺した。

 書類を作成したのは、川上だった。まちがいなく気を遣ったのだろう、期限いっぱいまで和胤を副官留任のまま居させる積もりで、後任副官の人事はそのなかに含まれていなかった。

 正直にいえば気遣いは嬉しかった。しかし、そんなものは私的なおもいで、軍務に照らせばどうでもよいことだった。とにかく、これで和胤は向こうひと月半、渡独のためにあれこれと支度をせねばならない。不備があってはならないから、とてもではないが何かの片手間にさせるわけにはゆかない。

 きちんと日本から独逸へ送り出すために、惟之は今朝和胤に辞令を持たせて、ここから放り出すときめていた。

 その惟之にしても、恩田が同格の少将となったいま、第一局長の椅子をかれへ渡すときめていた。それに秋を待たずして、中将へ昇進することになっており、智将できこえた惟之を、師団長に推す声が大きいことも知っていた。おそらく、参謀本部を去ることになるだろう。

 それについて寂しい、つらい、などといった感情は湧いてこない。軍務のうえで当然であるからだが、ふしぎなのは、さいごに和胤と触れあってから半月が経っているが、それに対して感情がうごかないことだ。

 無意識に抑圧しすぎて何も感じなくなったか。

 とにかく、それを何の抵抗もなく受け入れてしまっている。否、触れたいのに触れてはならない、本当に大切なものだから、心の檻とでもいう場所へ放りこんでしまっているせいだ。それをとうに認識しているけれども、認めるのが嫌だった。

 万が一でも傷つきたくないがために、逃げ込んでしまっていることにも気づいている。我ながら卑怯なものだ、と惟之は自嘲する。

 豪胆で磊落な部分は惟之の性格の大部分だが、毀れそうなほどの繊細さがその奥に隠れている。心の檻へ追いやってしまったものに、触れようとするときまってこの独白が漏れる。

 ―まぁ、そういうものだ。

 と、いまこの間にも無関心を装って、何でもないような顔をしている。他人どころか、自身でさえ煙にまくことは朝めし前である。

 局長室にも、となりの第一局室にもひとの出入りや、電話の鳴る音がして、始業の時間が刻々と近づいていた。

 「おはようございます」

 と、いつもの挨拶の声を耳にして、やっと顔をあげる。惟之はほうぼうから引っ張り込まれた、例の、“委員会巡り”のための書類作成に没頭していた。装備に関することは特に直接関与する立場に立たされるだけに、責任がおもい。

 「うん。山口、これを持って陸軍省の吉田閣下のところへゆけ。渡独までふた月を切っちょるちゅうに、せることは山ほどある。今日から世話になってこい」

抽斗から板紙に挟まれた書類を取り出すと、もう一度内容を確認してから、和胤へ差し出した。

 「辞令通達―」

 そこで惟之は真面目な顔つきになると、声音を改める。和胤も直立不動の姿勢をとって、次のことばを待つ。

 「ただ今を以って、第一局長付副官の任を解く。これより貴官は監軍部、吉田中将閣下の指示に従うように。…以上だ」

 「謹んでお受け致します」

 両手で書類挟みを受け取り、一礼をよこす和胤へひとつだけ頷き返すと、惟之はとりかかっていた書類へ目を落とした。流れるように、紙面へ鉛筆をはしらせていく音だけがしていて、和胤は何か惟之へひとこと言おうと、扉までさがってそこで足をとめた。

 「閣下、お世話になりました」

 まだ始業ではなかったから、くだけた物言いもできたが、ことばが詰まって、結局はこんな言い方しかできなかった。

 「うん、おれも世話になった」

 顔をあげて言うと、惟之は微笑む。完全に他意のない笑顔をみせていた。ふたりのあいだに刹那どこか空虚なものが流れたように思えて、和胤は僅かに唇を引き締めた。

 ―惟之さん、いま何を考えちょるんですか。

 心のなかでそう問いかけつつ、和胤はじっとその眼をみつめた。周囲の状況に押されて、その渦中に飛び込まねばならない時がきて、和胤も次第に私的な感情を抑えるようになっていた。

 ―おれは惟之さんを愛しちょります。そげな、何もなかったような顔でいても、惟之さんも心では同じおもいでおられるちゅうことを、信じちょります。

 時の流れというのは、良くも悪くも作用する。

 あれだけ切なく心を占めていた惟之の存在が、こうして眼前に立ってみても、僅かに思考を疼かせ、温まる程度におさまっていることに気付く。しかし、胸の奥にある想いの深さは変わりない。和胤は惟之へ端正な挙手の礼を送ると、躊躇いのかけらもみせぬまま部屋を辞した。
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| 変わらぬ青空のしたで・61―70話 | 13:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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