大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第陸拾壱話

 仕立て屋には、すこし珍しい椅子があった。小振りの抽斗棚と洋机とが、長椅子を割ったような二脚の椅子のあいだに据え置かれる、という拵えである。

 紅茶と焼菓子がのった机の縁に肘をのせ、のびのびと椅子へからだを預けつつ、向かいに座る和胤へ腕を伸ばして、戯れに互いの指さきを絡めあう。

 ベストの内ポケットへ移しておいた煙草入れから、細巻を一本取り出して咥え、燐寸を擦って火をつける。和胤は煙草を嗜まないから、煙がゆかぬように配慮しつつ横顔を向けた。

 「あ、惟之さん、煙草はまだあまり…喫まれんほうがええかと」

 くつろぎのひとときを台無しにしたくない気持ちが、ありありとうかがえる。遠慮がちに言う和胤へ、くちの端に細巻を咥えて、紫煙をくゆらせつつ、ふっと苦い笑みをうかべる。

 「心配せるな。これをゆっくり喫んだら、今日はもうやらんよ」

 写真屋が来て、ふたりとも椅子におさまったまま、姿勢を正して威儀を保つと、幾枚か撮影をする。
最後に身につけてきた和服一式をきれいにまとめ、着ていた燕尾服の上着と共に、使いに頼んで邸へ送ってもらっうまで、それらすべてを終えるまでに半刻が経った。

 よい写真が撮れました、出来上がるまでお待ちください。と言って写真屋が辞してゆくと、惟之は仕立て屋の主人へ、部屋を貸してくれたことの礼を述べた。そうして、古風なつくりの扉をくぐると、和胤とともに銀座の街路に踏み出した。

 「和胤、ついでに今日一日つきあえ。そろそろ昼になるけぇ、ライスカレーを食おう」

 「あ、あの、それは…」

 「なんじゃ、おれと並んで歩くのは、嫌か」

 腰に手をあてて、顔を見上げられる。幾度か右にくびを傾げて訊くようすに、いつもと違って不安げな色が浮かんでいる。何しろ、和胤の私生活―すなわち完全に軍務から離れている、唯一の定休日―に踏みこんだのは、実はこれが初めてであるからだ。

 「そげなことはありません。てっきり、すぐに自邸へお帰りになられるかと」

 「今日はめずらしいこと続きじゃけぇ、こうしてみようと思うたまでじゃ。たまにはええもんじゃろ」

 どこかほっとしたような笑顔で言って、楽な姿勢になる。いま着ている上着は、礼装と併せて誂えた薄手のフロックコートである。ポケットへ手を突っこんで、くる、と踵を軸にしてからだを半分ばかり回転させた。

 晩春のすこし重たげな、厚みを含んだ陽のひかりが、石畳の街路をあまねく照らしている。その白い街路のうえで、惟之は嬉しさを隠せず、ポケットに手をいれたまま、手をからだの側面でぱたぱたと仰いだ。

 そのすがたが妙におかしくて、和胤は、くっ、と喉の奥で笑いを漏らしてしまった。半ば背を向けながらのしぐさであったから、その笑みについては咎められることはなかった。やがて惟之は目を輝かせて、和胤へ振り向く。

 「あとはおぬしに任せるぞ、銀座なんぞ滅多に来んけぇのう。あちこち、連れていってくれんか」

 これは大任を仰せつかったとばかりに、和胤は銀座の地図をあたまに浮かべた。誂えた洋装のために、こまごました物も揃えねばなるまい。惟之の目にかなうような店を想像してみると、二、三件ぽっと出てくる。

 しかしまずは、とっておきの洋食屋で昼食をとることから、ふたりの時間をはじめることにした。

 自邸以外で食事をすることはほとんどないから、惟之は落ち着かない気分だった。それにくらべて和胤は慣れているようで、口数さえいつもと逆であった。といっても、話していることは、これからゆく場所に関してのことで、小道具を揃えるための店めぐりをするのである。

 「なるほど、若い者はよう知っちょるのう」

 などと、妙に爺くさいことを感心したようにいって、運ばれてきたライスカレーに匙をいれた。

 和食だろうと洋食だろうと、食事のしかたはきれいである。和食はともかく、洋食の作法はいったいどこで身につけたものか。中尉時代に独逸へ留学に行っている和胤は、惟之の所作をみて内心でくびを傾げた。それほど、作法がなっているからだ。

 惟之は軍人になって、将官になってからでさえ、一度も海外へ留学をしたことがない。

 大概の者は早くて尉官、遅くても将官になれば、一度は後学のためにと、欧州や米国へ行かされるのだが、国勢の風雲急を告げるときに忙殺され、ついぞ惟之にはその機会がなかった。

 食事や公の場での行儀のよさは、折り紙つきの惟之であるから、身につけたのは鹿鳴館の夜会であろう、と推察してみる。その夜会からしても、軍務におされてしまい、そう毎回毎回ゆけるものではない。しかし勘のいい惟之ならば、よく観察したうえで、身につけてしまっていそうである。

 こうして、和胤の気に入りである洋食屋でライスカレーに舌鼓をうったあと、食休みにすこし寛いで再び銀座の街をあるいた。あまり物を持ちたがらぬ性分であったが、外国の来賓も招待するような、国事と軍務とに連動する鹿鳴館での夜会とあっては、やむをえない。

 和胤のすすめで店をまわり、杖や釦飾りなどの買い物をしてゆく。気に入ったものがあったようで、惟之は上機嫌である。それをみて和胤は内心で安堵の息をつく。これで大役を果たせたというものだ。

 市電に乗って帰ろう、と言いだし、通りをゆっくりとあるきながら、惟之は感心したように、つくづくと街の景色へ目をやっている。

 明治の黎明期から生きてきたかれにとって、この繁栄はまさに夢の実現であり、守らねばならぬもの、そのものであるように映っていたのである。
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