大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参話

 ―あのくらいのことは、やってもらわんとな。

 参謀という仕事は、よほど頭が柔軟でなければつとまらない。臨機応変に、時には規律の無視という、果断を厭わない勇気も必要なのだ。しかし、副官は律儀にあとを追いかけてきた。これまでの副官と同じように、惟之の軍装一式を携えて。

 「杉閣下、お忘れ物です」

 振り向いて惟之は立ち止まり、やはりな、と首を傾げながら副官を待った。惟之の行儀の悪さは部内で誰もが知っているのに、副官に就くと漏れなくこのようにして届けに来るのだ。そのようなことをしても、惟之が今更になって改めるはずがないことも、噂のひとつふたつを耳にしていればわかりそうなものだが。

 このまま陸軍省まで供をすると言いつつ、肝を冷やしたのを隠したいような、僅かな狼狽が見え隠れする副官の表情をまじまじと見つめて、惟之はにやりと笑い、

 「ははーあ、おぬしゃアレだな。このおれが、仕事を溜め込んじょると、そう思うておるな。その尻拭いはせんと、顔に書いてあるぞ」

 長い廊下に、軽やかな惟之の哄笑が響き渡る。ひとしきり笑い声をたてる上官へ、和胤は正直にあの小箱の重さに恐縮する旨を告げた。その言葉で上官の癇癪玉に、たちまち火が点いた。

 「たかが判ひとつで、なァにを言うちょるかッ、おぬしゃァ」

 下唇を突きだして、への字に曲げ、華奢な胸を少し反らせた。改めて副官を見上げ、眉を吊り上げる。まったく、ぜんまい仕掛けのように表情がよく動く。

 「馬鹿ァ、山口。おぬしゃ、この先将官にもなり、軍司令官にもなり得る男だろう。いつまでも参謀本部の机にしがみついて、決まった枠に嵌まり込んで、その仕事しかせぬようではいかん。戦場では刻一刻と状況が変わる。いくさは待ってくれんのだからな。部下を鈍らせんがための、これがおれの流儀だ。何かあれば責任はすべて取る。思い切って自分のあたまで考えてやってみろ」

 そう言って、いきなり癇癪玉を炸裂させた。

 そんな硬いあたまでは参謀はつとまらんぞ、と一喝を浴びせる。どう言われようとも、惟之はじぶんのやり方を変えるつもりはない。ほんのすこしばかり、たじろぎをみせた副官へ、目顔で部屋へ戻れ、という風に示す。

 「はっ、それは尤もでありますが…。あのようなことはさすがに、副官としてもできかねます」

 いくら肝の据わった和胤とはいえ、新任早々の副官へ重要な仕事を―というよりも、惟之自身がせねばならない仕事なのだが―気軽に放り投げて寄越す上官に、驚かないわけがない。そして、これに抗議もせず、すんなりと受け取ってしまったら、次から何を仰せ付けられるか、わかったものではない。

 仕事をこなせる自信はあったが、あまりに破天荒な上官のまえでは、ひとつ茫洋としたところをぶっておくほうがよかろう、ととっさに判断をした。これが緩衝になればよいのだが、果たしてどうなるか…。

 和胤はじっと上官を見詰めて、答えを待った。

 「判を捺すのがどうしても無理なら、いいとおもったものだけ選っておけ。おれは陸軍次官でもあるから、口煩い小姑を黙らせるのも、せにゃァならんのじゃ。すぐに戻って目を通す。なーに、供がいるほどの用事ではない。毎朝しちょる挨拶みとーなもんじゃ」

 上官はその表情と口ぶりから、およそ和胤の心情を察したらしい。

 弧をえがくような眉を片方、器用にあげると、ふっと口許にやわらかな笑みを浮かべた。怒らせていた肩の力を抜くと同時に、和胤の手から軍帽だけを取り上げ、無造作にあたまに載せる。

 先ほどの癇癪はどこへやら。もうけろりとしている。

 斜になった軍帽の庇が少し横を向いているが、意にも介していない。それを見て和胤は手を伸ばし、ほぼ無意識にその庇を指先でつまむと、素早く向きと角度とを正した。軍帽を正されて、上官はまた、ほんの少し下唇をつき出し、頭のうしろを指さきで掻く仕草をする。

 「―とにかくじゃ。ええな、これは命令じゃ。しっかりやれよ」

 きっぱりと言い放つと、上官はこちらにちいさな背中を向けて歩き出した。廊下を曲がって姿が見えなくなるまで、和胤はその場で見送った。内心で上官の豪胆さに半ば呆れ、半ば感心しつつ部屋に戻ると、着てゆかなかった外套を所定の場所へ掛けておく。

 「しっかし、なんちゅうごむしんをさーるっちゃー」

 おもわず、郷里ことばでぼやきが出た。

 職務中はほぼ、きれいな標準語をつかうが、和胤はそれ以外のときは、やはり馴染みのある郷里ことばが出る。だからこうして、ひょんなときにでてしまうこともある。

 有名な癇癪玉とは、あのことか。と、いまさらになって思い当たる。

 あんな火の玉のような上官に怒鳴りつけられるのは、二度とご免である。じぶんで置き直した小箱を、上官の机から改めて手に取るとそそくさと席につき、書類の束に向かった。
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| 変わらぬ青空のしたで・1―10話 | 22:19 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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