大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第肆拾玖話

 これはしかたないことでもあったが、宴はすこし粛然とした感じで始まってしまった。

 何しろ、地位に頓着しせず、のらりくらりとかわしていた末の少将昇進であるから、当人の恩田はともかく、惟之をはじめとした第一局の面々からすれば、万感のおもいがあった。

 特に若い参謀のなかには、佐官になるや官僚意識を持つ者もあって、軍務の合間にも昇進の隙をうかがうのが当たり前、という風潮がある。第一局にも少なからずそういった者がおり、改めて恩田が体現している“武人”というものを目の当たりにして、“軍人たる者が何か”ということに気づかされる。

 愧ずかしさとともに、目を洗ったような気持ちになり、席にすわっている若い佐官らは、まるでたった今、少尉に任官したかのような初々しい表情で、恩田へ畏敬のまなざしを向けている。

 招ばれた二十人からの芸妓らも、はじめは困惑した様子であったが、桜のしたへ設けられた席へ行儀よく並んで座り、楚々とした態度をくずさずにいる。

 しかしその堅苦しい雰囲気も、祝いの升酒をひとつ干したあと一変した。今度は惟之の番である。

 「杉さんたら、ずいぶんとお痩せになったわね」

 などと芸妓らが惟之を遠くに見つつ、浮かない顔で耳打ちしていると、くるり、とその小柄なからだが翻る。とっとっ、と雪駄をつっかけながら、たけなわに咲く美女と桜のしたへやってきた。

 こうして、惟之の満面の笑顔を、居並ぶ美妓たちは久しぶりに見たわけで、その目尻に刻まれる笑い皺までもが、懐かしくおもえてくる。つくづくとその痩せた姿をみるにつけ痛々しくおもい、目を潤ませる妓もいたが、惟之にはそれが何なのかわからない。

 未病の段階であったが、それでも病がからだに食いついていたのにはちがいない。やはり、蝕まれた痕というのは、いくらか痩せたという程度でも表れるらしい。

 「こらァ、なんちゅう顔しようる。おれァ、すっかりようなったんじゃぞ。ひとの顔をみて、なんじゃ、通夜に呼ばれたみとーな。これだけ居って、なぐさめてくれる女はひとりも居らんのか」

 桜のしたで、ひさしぶりに響く惟之の大声に、庭先の席から遠巻きに見守っていた、恩田や和胤をはじめとする部下連中は、びっくりして一瞬腰を浮かせた。しかし、再び見る桜のしたの情景に、温かな笑みを浮かべずにはいられなかった。

 ひとりひとり、惟之は芸妓らに抱きしめられ、からだを労わるようにやさしく撫でさすられ、そのつど、惟之は彼女らに感謝を述べ、今日来てくれたことの礼を言った。最後は、娘のように可愛がっている雛妓の白藤が、姐妓連中に引っぱり出されるようにして、おずおずと前に出てきた。

 「白藤…!」

 惟之はいじらしくなって、手をとって抱きよせ、輝く満月のような白い頬を、そっと掌で包んで撫でてやった。

 「まったく、この子ったら。お宮さんへ行っちゃァ、お祈りしながら泣いてさ。湿っぽい拍手なんて打つもンじゃないのにねェ」

 と、伝法な口調で暴露したのは白藤とおなじ置屋に居る姐妓の円龍だった。気風のいい、竹を割ったような性格で、誰からも好かれている妓である。“円姐さん”のことばに、白藤は真っ赤になって、さっと両の袂で顔を隠してしまう。

 「そうかそうか、祈ってくれちょったんか。おれもな…、日を追うごとにおぬしの顔ばかりがちらついてのう。どうしちょるかと、思い至しちょったぞ」

 切ないものを含んだ声音に、白藤はハッと顔をあげた。大好きな“杉さま”が、慈父のようなまなざしで見つめていて、少しずつ心が落ち着いてくる。

 一期一会と、大事にしてきた“娘”も、夏には某子爵家へ養女にゆくことが決まっている。

 そもそもの以前から、年齢にそぐわぬ教養のたかさに定評があり、最近になってその出自が明らかになり、生まれを辿っていったその先の親類が、そう遠くない血縁の子爵家に繋がっていたのだ。これには、白藤をとりまく周囲も、ははあ、と頷けるものがあり、それと同時に人々は彼女におとずれた幸せを手放しでよろこんだ。

 寂しくなるのは事実だが、何も、今生限り会えぬというわけではないのだし、白藤にしてみれば、本来あるべき場所へ帰れるのである。しかし彼女はきっと、世話になった惟之には最後になるまで、そのことを言い出せないだろう。そうおもったから、少しのあいだ他の芸妓らから離れて、桜のしたへふたりで並んだとき、それとなく囁いた。

 「…のう、藤や。今日はひとつ、得意の琴を聴かせてくれんか。こればかりはもう、せがむわけにはゆかんけぇのう」

 座敷に上がるあいだ、すなわち彼女が、“白藤”でなくなるまで、あと何度聴けるかわからないから、という意味であった。白藤はそれでわかったらしく、悲しげに目を伏せたが、一瞬の後には、にっこりと笑って頷いてみせた。

 「おっと、いつまでもここへ居ってはいけんのう。おぬしら、あとで部下たちのとこへも、行ってやってくれい」

 振り返れば、男どもに恨めしげに、とまではゆかないにしろ、かなり羨ましげに見つめられていて、惟之は肩をすくめて舌をだした。来たとき同様にちょこちょこっと駆けて自身の席へ戻ってくる。

 桜のしたは座敷でいえば、芸妓らが踊りや歌を披露する場所としてあつらえてある。惟之たちはそれを離れたところから、花とともに愛でるという趣向をとったのだ。

 部下たちは勝手に酒盛りをしているかとおもえば、美妓らとのやりとりを一部始終見ていたらしく、にやにやしながら帰ってきた惟之を見ている。

 「ん、おい。おぬしら全然飲んじょらんじゃないか。四斗樽あけたんじゃけぇ、好きなだけ飲みんさい」

 「閣下が飲めぬお体で、自分たちだけというのは、どうにも気がすすみません」

 「ええんじゃ、遠慮せずに飲め。おれァ今日は酔っ払ったおぬしらを見物するんじゃ。それに、全く飲んだらいけんちゅうわけじゃーないちゃ。毎日二合程度なら飲んでもええちゅうとる。のう、新垣」

 軍医長が頷くのをみて、それなら、と酒をあけはじめる。きれいに銚子へついで、惟之のもとに持ってくる者もいたが、猪口に一杯ついだだけで、それをちびりちびりと飲んだあとはくちをつけなかった。

 以前とは違い、宴の席でもおとなしくしている。卓のうえの料理へ行儀よく箸をつけつつ、寛いだ格好でいる。そちこちへ向ける視線の先には、惟之にとって大切な者ばかりがいる。

 「閣下は、ずいぶんと静かにしとられるな」

 「まだお体がよくなっていないのかもしれんぞ。おい、どうなっとるんだ」

 芸妓らの楽の音と、舞踊を堪能しているあいだにそんなことを言って、和胤の脇腹を肘で突く者もいる。惟之の心境の変化をしっているから、適当に濁しておいたが、以前みたあの破天荒ぶりをおもうと、さすがに心配になってくる。そのとき。ひとりの参謀が訊いた。

 「ところで、なあ、山口。なぜ貴様だけ黒紋付なんだ?きちッとしてくるのは当然だが、それにしても礼装で来いとは言われなかっただろう」

 「そうだな、おれも気にはなっていたんだ」

 確かに、その格好でいるのは惟之と恩田と和胤だけである。幾人から向けられた視線に和胤はたじろいだ。

 前日に、いきなり惟之から誂えたものを一式渡され、驚いているうちの今日である。それに、この正装の意味は、さすがに和胤からは言えない。口ごもっていると、のんきな声が上座から発せられる。

 巡りきて 桜の色は なほ優し

 心に触れし 君を想へば

 惟之はこれを二度詠んだ。例によって下手くそなものであったが、これはいわば和胤への感謝のおもいが詰まっている歌だった。詠み終えると、惟之はにやっと笑ってそれっきり何も言わない。

 これは無粋なことを言ったナ、と訊いた者はあたまを掻きつつ、苦笑いをうかべて席へ戻っていった。
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