大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第肆拾捌話

 和胤と心を通わせたあの雪の日は、もしかすると天の配剤だったのかもしれない。というのも、まるで夢の中の出来事だったのかとおもうほど、そののちはまことに春めいた陽気につつまれたからである。

 遠慮がちに膨らみつつあった桜の蕾が、やっと綻んで花開き、ほぼ満開へ至るに次いで、陸軍においては春の人事で、恩田が大佐から少将へ昇進することが決まった。

 そして今日は、惟之がかねてから催そうときめていた、“桜の宴”の当日である。

 朝一番に杉邸へ挨拶にやってきた恩田は、紋付袴といった出で立ちで、まず丁寧に挨拶をして、それからやっと肩からちからを抜いて磊落に笑った。

 単なる宴でなく、今日は惟之の快気祝いと、恩田の昇進祝いとで、特別な祝いとなるだけあって、向かい合って座る惟之も、恩田と同様に黒紋付の袴すがたである。

 「これでようやっと遠慮なく、おぬしと口が利けるちゅうもんじゃ」

 「おいおい、もしおれが秋の叙勲で何か貰うて、中将に昇進せるかもしれんちゅうことは、考えちょらんのか」

 などと冗談を飛ばしあって、ひとしきり笑う。誰にも言っていないが、惟之のなかで雪の日からのできごとは、佳乃が天から手をさしのべてくれたからではないかと、ひとりで勝手におもっている。

 奇しくも今年は、佳乃が逝って二十の年月を数える。隠れ蓑にこもって生き続ける不甲斐ない夫―惟之と、中々昇進を受けないで、中間職を一手に引き受けている、世話焼きでのんきな弟―恩田の背とを、結果的にはいっぺんに押すかっこうになったから、余計にそう感じるのだ。

 「のう…、惟之義兄さん。皆に祝って貰うたら、近いうちに姉の墓前へ、昇進の報告をしに行きたいとおもっちょります。―今度こそは一緒に、行きませんかのう…?」

 改まったことば遣いと、ほろ苦い寂しさを含んだまなざしで、恩田はおずおずと言った。何故かというと、惟之は妻・佳乃の墓参を一度もしたことがないからだ。

 墓を建てはした。とくに彼女の好きな花をと、こぢんまりとした藤棚をつくりつけて、毎年かかさず手入れを頼んでまである。緑と花に囲まれて、多磨の地で佳乃は安らかに憩っている。それでいいと惟之はおもっている。佳乃は、いつも心のなかに居る。それがわかっているから、惟之は足を運ばないできた。

 しかし、いまは違った。

 「うん…、そうじゃのう。…行くか」

 「ほ、本当かっ、惟之」

 「うん、行こう」

 惟之のようすが、ある時を境に一変していることに、恩田は気づいていた。それが何なのか訊かなかったが、少なくとも悪い前兆―今までは、自暴自棄になるまえなど、不気味な程の穏やかさを装うことがあった―ではないことだけは確かだ。

 「そうじゃ…、毅三郎。墓参には、山口も連れていってええかのう?」

 放胆で磊落な性格の裏に、じつはその本質であると言える、繊細で寂しがり屋という面が隠れている。いま、惟之はその部分を包み隠さず、見つめるまなざしにのせて恩田へ向けていた。佳乃が逝って以来ずっとみせないでいた、在りし日の少年の面持ちそのものである。

 まるで、心に一線を引いてしまう前にもどったかのような―。

 そこまでおもって、恩田は閃いた。

 ―そうか、あいつ…。山口のやつ、言ったとおりやりよったんじゃな。惟之の心を、解いたんじゃな。

 惟之とは最も近しい間柄、言うなれば水魚の交わりであった恩田が、五年かけてできなかったことを、和胤は三月で成してしまった。決意を目の当たりにしたとはいえ、あの韜晦を打ち砕くことが和胤にできるとは、正直おもっていなかった。

 「そりゃァ…、当然連れて行かにゃならんじゃろ。もう、家族が増えたも同然なんじゃけぇのう」

 恩田にしてみれば、すこし悔しい気持ちがなくもなかったが、そんなことよりも惟之が“戻ってきた”ことの方が大事であった。だから、さらりとこんな言い回しをしてみせた。惟之は気羞ずかしげにあたまを掻き、それもそうじゃのう、とちいさく言って笑った。

 「―それにしても山口のやつ、遅いのう。碌に和服へ袖を通したことがないくせに、ひとりで着るちゅうてな。おれが着せちゃーるっちゅうとるのに、意地を張っていっこも諾かんのよ」

 と、腕をくんで、困った顔つきをして天井を仰ぐ。階上の自室で着替えに苦戦している和胤が、目に浮かぶようである。

 意地っ張りというなら、惟之に敵う者はいないのだが、恩田はそんな義兄をからかうことはせず、だまって微笑んでみていた。暫くすると、惟之たちがいる居間へ、黒紋付の装いに身をかためた和胤が姿をみせた。

 「あァ、もう」

 それをちらりと一瞥した惟之は、なっちょらん、そがな着付けのしかたがあるか、などと下唇をつき出してぶつぶつ言いながら席を立ち、すたすたと和胤へ歩み寄ると、さっと腕を掴んで居間から引っぱり出してしまう。

 すぐそばの客間へ連れて行かれ、やれ、袴のつけかたがいかん、だの、襟が開きすぎちょる、だのと指摘され、言われてみて惟之の着すがたと見比べてみると、確かにそうであった。

 結局一から着なおす羽目になってしまい、和胤は惟之の着付けを拒んだこともあって、きまりが悪かった。

 「すみません…」

 「なに、着慣れちょらんものは仕方あるまい。教えてやるけぇ、覚えりゃァええじゃろ」

 「はい」

 と、いちいち襦袢から帯まで和胤の手にとらせて、教授しつつも惟之は一切手を出さない。じぶんでやらねば覚えないからだ。四半刻たらずで、着付けは終わった。和胤がひとりで四苦八苦していた時間とくらべたら、半分以下である。

 「よし、これでええ。男前のできあがりじゃのう」

 つと手を伸ばして襟を正してやり、惟之は屈託のない笑みを和胤へむけた。
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