大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第肆拾陸話

 眠りの淵から浮かびあがって、まず惟之の感覚を擽ったのは嗅覚だった。清涼な甘さをもつ、あの白檀の香りが鼻先をかすめて、惟之はうつ伏すと枕に顔をうずめた。

 寝相を変えると、その背を敷きふとん代わりにせんと、小太郎がもそもそと這いあがって、“占領”してしまう。意識がぽっかり浮かんで惟之は目覚めたが、背中に小太郎がいては起き上がることもできない。

 「むう、参ったのう。けしからん、おぬしゃァ…主と同じ真似をしおってからに。これでは動けんじゃーないか」

 昨日の演習、“雪合戦”における雪洞でのことを思い出してのことばだった。と言っても、顔は綻んでいる。まことにちいさな、やさしい重みと温もりが、愛しくてならない。

 しかしその主である、和胤のことを改めて思い返せば、眉間にしわが寄ってくる。逃走に転じようとした惟之を、和胤は容赦なく捕らえて、抵抗できぬよう組み伏せたうえ、呵責なしに擽り倒したのである。しかも、擽られて弛緩しきったからだをいいように扱われ、くるくるとひっくり返されたりもした。

 惟之の華奢で小柄な体躯を、和胤が軽侮したことは一度もない。

 それどころか、今は療養の身であることもあって、大事に扱ってくれさえする。それだけに、惟之が安心しきっているところへ、副官は時として隙をつき、容赦なく手をくだす。その奥にあるかれの真心を知っているから、ひととおり抵抗はするものの、結局は和胤の掌中におさまる羽目になる。まったく腹のたつこと極まりないのである。

 「あいつが帰ってくるまでに、何ぞ悪戯でもしかけとくとするか」

 枕にうずめた顔をすこしあげると、呟いた。そとはもう空が白んでおり、つけたままにしていた間接照明のあかりが室内を制していたが、それをも凌駕しつつある。雪に反射して一層あかるさが増し、独特の白い光がさしこんでいる。

 惟之は寝台から離れがたくおもいつつ、ゆっくりからだを横向きにずらして、小太郎を“占領地”から“撤退”させた。すかさず、さっと両手に抱きとって漸く上体を起こす。

 視線は自然とつけたままにしておいた暖炉へ向き、そこで石にでもなったように固まった。

 暖炉の近くで、大振りの橡の椅子に座ったまま、ねむっている和胤がいた。外套どころか軍刀も軍帽もとらずに、腕を組んだかっこうで、足をしっかり踏みしめている。

 そのすがたは、まるで戦場の軍神が鎮座するが如くであり、その身からは、張りつめたような気配が抜けていないようにすらみえた。

 なるほど、暖炉の炎が踊っているのも納得がいった。

 それにしても帰宅したならば、もとはこの部屋は和胤が使用している“私室”なのだから、叩き起こすなり、担ぎ出すなりして、惟之を自室の寝室へ移してしまえば、きちんとここで眠れたはずなのだ。

 「見てみい、おぬしの主もおぬしと同じことをしようるぞ」

 昨夜寒い中をこの扉の前で座っていた小太郎を揶揄したが、からかったのは一瞬で、すぐに真面目な顔になると、寝台からおりて足音も忍ばせずに和胤のまえに立った。いまだ瞼を閉じたままで、居眠りを続ける和胤の頬に手を伸ばす。触れるとやはり、すっかり冷たくなっている。

 「この、あんつくもん」

 昨日の“雪合戦”で雪責めに遭って、その明け方にもうこのようなことをしている。惟之には煩くからだを気遣えと言うくせに、当人がこの体たらくでは、まったく本末転倒も甚だしい。平手の一発でもかまして、文字通り叩き起こしてやりたい心境であったが、さすがにそれはしなかった。

 居眠りとはいえ、全く目覚める気配のないのをみてとると、そっと部屋を出て自室に戻って和装に袴をつけたすがたに着替え、階下から今朝の新聞をひったくって素早く戻ってくる。惟之はきちんと綿入りの羽織を着込んで、おなじく綿入りの足袋まで履いている。

 「これでおれも、思う存分叱り飛ばしてやれるちゅうことだな」

 和胤が目深にかぶっている軍帽の庇をつまむと、さっと取り去ってしまう。手にしたそれを、惟之は無造作に自身のあたまに載せた。例によって庇が真横をむいて、しかも額がみえるほど傾いでいる。まるで腕白小僧の風体である。

 腕組みをして、背もたれにからだを預けきっている和胤であるから、手付かずの橡の腕もたれに手をかけて、しごく当然のようにその膝のうえに腰をおろした。

 椅子自体が所謂、安楽椅子というもので、ゆったりとしたつくりになっているから、和胤の組んだ腕が、あたまを預けるのにちょうどいい位置にあたる。どれだけ熟睡しているのか、驚いたことに惟之が膝のうえに腰をおろして新聞を広げて読みはじめても、身じろぎひとつしないでいる。からだに伝わる、寝息に伴う呼吸の様子にもまったく変化がない。

 新聞を三面ほど、たっぷり時間をかけて読み終えたところで、惟之はしびれを切らした。額に青筋をたててつつ、すこし身を起こすと新聞を筒状に巻きはじめる。まるで紙が鉄ほどにおもえるほどきつく巻き終えると、和胤のあたまをしこたま叩かんと握りしめた。

 「閣下、さすがにそれでしばくのだけは、勘弁してつかーされ」

 振り向く寸前に、いきなり声が降ってくる。背後からにゅっと両腕がのびて、手にした得物ごと易々と抱きしめられてしまう。まただ、と惟之は怒り八割、擽ったさ二割の内訳で、かっ、とあたまに血がのぼる。

 「狸寝入りかっ、卑怯なやつじゃ。勘弁なんぞしちゃらんわい!おれの気がすむまでしばかせえっ、こら、離せ、和胤!」

 そう言って、じたばたと大いに暴れてみせた。

 きまって徒労に終わるとおもわれた抵抗が、意外にも実をむすんだ。だが和胤がその拘束をといたのは、惟之の抵抗故でなく、発したそのことば―名―を聞いたからだった。寝言できいていただけに、倍して胸をつかれた。

 「昨日あがな目に遭うて、夜中に帰ってこげなとこで居眠りしちょるとは。ひと晩でもこの寒さでは、重度の感冒に罹るとも知れんのじゃぞ。今日ばかりは、おぬしに非があるんじゃけぇのっ」

 惟之は怒り心頭といった心境でいるから、和胤をその名で呼んだことすら気づいていない。振り向いてまくし立てるなり、右手に握りしめた得物でぱかん、と和胤のあたまを叩く。“あんつくもん”を連呼しつつ、それから巻紙がへたるまでしこたま和胤の脳天を叩き、いい加減に腕が疲れたところで、得物をぽいと床に放り投げる。

 その間、和胤はされるがまましおらしく目を伏せがちにして、じっと俯いていた。

 「おれが、いくらこの身を顧みんちゅうても、同様におぬしの身をも、毛ほども案じちょらんとおもっちょったら、大間違いじゃ。わかったかっ」

 眉を吊り上げて檄を飛ばすようすは、まるで雷神か明王そのもので、和胤はただ恐れ入って言葉に聴き入った。

 憤懣やるかたない、といったふうに荒いため息をつくと、両手で和胤の胸倉を掴んだ。振り向いて対峙しているだけだった姿勢が、興奮のあまりほぼ和胤にのしかかるかっこうになっている。

 「わかったんなら二度とせんと誓え、和胤!誓わんのなら、今より後、おぬしの厚意は、真心からのものでないとみなして、一切受け取らん。おぬしのことなんぞ信じぬし、毛ほども気に掛けんぞ。おれァまた、好き勝手やって暮らすわい」

 人間万事塞翁が馬という。

 このようなくだらないことが発端で、もしおれを置いて先に逝くような事態になったら、死して後も赦さん。

 ―おれを、独りにするな。

 本当は、そこまで叫びたかった。そのおもいを堪えて、最後のほうはもう、涙まじりであった。和胤を愛している自分を、もう隠しておくにも限界だった。その想いをこれで曝け出したつもりでいたから、二度目に名を呼んだときは、意識して言っていた。

 好き勝手にやると言われ、和胤は蒼白になった。もしそうなったら惟之のからだは、その魂を留めること叶わず、三年とおかずに毀れてしまうだろう。事実、軍医長の新垣から、療養の明けないうちはけして、その生活から逸脱しないよう、厳しく言われているのだ。

 「誓います、二度とせんことを誓います。ですから、以前のように…命を削るような、あげな真似だけはせんでください。錐で心臓を突き刺されるような思いは、しとうありません…。惟之さん、お願いします―」

 愛しているということばこそ、くちに乗せなかったが、互いに言ったも同然であった。和胤は惟之を抱きとめると、椅子から立ってその場で暫く抱きあった。そうして、感情が静まるまで涙を流すに任せた。

 「おれが―」

 泣き止まぬ和胤を、椅子へ促して座らせると、その前に立って幼子にするように、あたまを胸元に抱いてやる。そうして惟之は、秘めておこうとおもっていたことを、そっと告げる。

 「おれが、療養に専念しようとおもったのは…、おぬしともっと一緒に居りたい、そう思うたからじゃ。いままで空虚にみえたものも、おぬしと居ると違って見えるちゅうように感じられたからなんじゃ」

 惟之には若いころから、ふとすると虚ろな目で自身と、自身の周囲をみることが間々あった。もっとも、それは一瞬で、持ち前の快活さにさっと隠れて、気づく者は皆無に等しかったが。

 あとを追えるものなら、さっさと現世から出ていって、八百万の神の集う天上へ行ってしまいたい。藤の花神にでもなって微笑んで待っているだろう、亡き妻のもとへはやく行きたい。そのおもいが常にどこかにあった。

 もともとの性格に過剰した、周囲が驚くほどの豪放磊落な生き様も暮らしぶりも、いつ、“その時”が来てもいいように振る舞っていられる、いい隠れ蓑であった。和胤はそれを打ち砕いた者であると、惟之は告白したのだ。
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