大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第肆拾伍話

 夜半まえに雪はやみ、しんと沈んだ夜の中にあって、寒さだけがその重さを増す。花街はこのような天候のなかでも、その輝きをうしなっておらず、むしろ雪のむこうに霞む、花魁たちの艶めかしさは一層引き立つようであった。

 恰も彼女らは漁火の如くそこに居り、その灯りを求めて、男たちは吸い寄せられる。和胤もご多分に漏れず、格子越しにいくらかことばを交わした花魁の、その表情や仕草に惹かれて、小綺麗な庵へ入っていった。

 しかし庵に入っても、すぐに奥の間の、枕を並べた絹地の寝具のうえへはゆかず、座敷で小料理と温かな酒を花魁と楽しみ、もっぱら彼女の話に耳を傾けた。なかなかに機知に富む、それでいて控えめな話しぶりは、男心を擽ってはなさない。

 やがて花魁を膝のうえに抱き、すこし長く唇を交わすと、それだけで若い和胤の血は騒いだ。

 このふた月、惟之のために私事を棚上げにしてきたが、折りをみて吉原へ通うことはできた。しかし、花街や花柳界へ出られずにいる上官を差し置いて、それはできなかった。

 惟之はそういった和胤の心境を知っていて、送り出したにちがいない。その配慮に甘えて、朝方までここで一夜を明かそうと考えていた。艶めいた絹につつまれて、閨房の秘めごとを味わい尽くした。そうして、女のやわらかな肌身を抱きしめていたとき。

 「おい、和胤。無粋だが失礼するぞ」

 座敷の更にそと、庵の入口だろう。聞き慣れた竹内の声がきこえて、身を起こした。声の調子が軍務に就いているときのそれと、大してかわりない。素早く軍服に袖をとおして着替えると、襖を開けて対峙する。

 「どうした、何かあったのか」

 「帰るぞ」

 「何じゃ、藪から棒に」

 この雪の中を運行した影響か、架線の調整で明日は始発から列車を動かさぬというはなしが、どこからか飛び込んできたというのだ。平日ならいざ知らず、明日は休日であるから、あながちあり得ぬはなしでもない。今夜半すぎに出る列車があり、それに乗り遅れたら明日は丸一日あるいて帝都へ帰る羽目になる。

 「む…。そういうことなら、帰らんわけにはいかんのう」

 唸るようにしてことばを絞り出すと、もと居た奥の間へちょっと引っ込み、花魁に非礼と別れを告げた。今後も演習で佐倉へは来るから、そのときにきっと埋め合わせをする。そう生真面目に言うと、事態が事態だけに、花魁も笑って見送ってくれる。

 庵をあとにすると、一緒に来ていた佐官らも、そちこちから出てきて集まってくる。結局全員が帰途についた。


 「まったく貴様は真面目すぎる。いや、いつまで経っても初心が抜けんのう。あの花魁、眼をまるくしちょったぞ」

 確かに、彼女は約束など期待していないだろう。それでも和胤には、一夜の情がほんの淡くではあるが、どこかに残る。その気持ちを言わずにおれないのだ。

 「ええんじゃ」

 道すがら、竹内にからかわれると、和胤は少年のように照れくさい顔をして、ひとことだけ言った。


 夜半すぎに佐倉を出て、新宿に着いたころには深更になっていた。もともと借りている陸軍士官の宿舎へ帰ろうか暫く悩んだが、身の回りのものを殆ど杉邸へ持ち込んでしまっているから、そっと忍んでそちらへ帰ることにした。

 かなり西に傾いている月と雪あかりのおかげで、さほど物音をたてずに杉邸の玄関をくぐる。ほっとしつつ、足音を忍ばせて階段をあがり、首をかしげた。階上の廊下に明かりが漏れている。しかも見れば和胤の部屋からである。扉がほそく開いていて、そっと中を窺う。

 惟之は和胤の寝台でねむっていた。それも小太郎といっしょにである。

 寝台のそばに置かれた小机のうえに、白硝子の間接照明があり、それがともったままになっている。炭火の薪が暖炉のなかで消えかかって、燻っており、これではとても朝まで火種がもちそうにない。

 特に明け方は雪のあとだけに猛烈な寒さになるから、薪をとってうまく炭火をつかって、火を熾しなおした。
暫し暖炉のまえに屈みこんで、再び踊る火を見つめた。薪がぱちりと爆ぜ、はっ、と顔をあげる。

 漂っていた意識が引き戻され、寝台を振り返ってからあたまを掻いた。まさか、惟之が寝台を占拠しているとは夢にもおもわなかったから、寝場所もないまま、和胤は着替えもせずに、絨毯のうえへ座りこんだ。

 起こして自室に連れてゆくこともできたが、ふとんから覗く惟之と小太郎の寝顔があまりにも無垢で、そんな気にもなれなかった。微笑ましさに笑みを誘われ、自然とくちの端があがる。

 「ぅん…、和…胤」

 仰向けに寝返りをうって、惟之のくちから漏れた寝言をきいて、我が耳をうたがった。

 軍務外で私的に接していても、けして名で呼ばれることはなかったから、聞き間違いかと苦笑いを漏らしつつ立ち上がって、寝台の枕もとを覗きこんだ。惟之はじつに幸せそうな寝顔で、ふとんの縁を両手で掴むと、顔の半ばまでひきあげてうずめる。

 和胤は覗きこんだ姿勢をそのままに固まる。

 何か見てはならぬものをみてしまったような気持ちになり、ついでながら顔が一気に耳まで熱くなる。惟之に少なからず憎からぬ感情を抱いているだけに、気持ちの対処に困った。

 もともと和胤に男色の趣味はない。惟之にはそういった感情などでなく、純粋な尊敬と愛情の念を抱いているつもりでいたが、正直にいえば、時折どうしようもなく擽られる庇護意識が高じて、妙な感情になることもあった。

 いままさにそのような感情に、足を突っ込んでしまっている。劣情も甚だしいと、熱くなった頬を両手でぴしゃりと叩き、かぶりを振って打ち消しにかかる。惟之との間柄を、こんなことでぶち壊しにしたくなかった。

 このまま部屋を辞してしまおうかとおもったが、暖炉には煌々とした炎を継いでしまっているし、それを消すわけにもゆかないので、暖炉からすこし離れたところへ椅子を一脚ひっぱってきて、惟之に背をむけて腰を落ち着ける。

 足を踏ん張り、腕を組み、ついでに軍帽の庇を思い切りひきさげて視界をかくしてしまう。思考を無我の境地へもってゆくといったら大袈裟だが、ともかくも心中のながい戦いは続いた。それは演習において参謀長の任にあたるより、ある意味では和胤を大いに苦悩させていた。
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