大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  変わらぬ青空のしたで・第弐話

 普段と変わらぬ参謀本部の朝、和胤はいつも通りのゆったりとした足取りで三階の廊下を歩いている。今日から新しい上官のもとで働くとなっても、平常心である。その上官が例え、“参謀本部の火薬庫”だの“昼間の肝試し”だのと呼ばれていても、眉ひとつうごかさない。

 やがて該当する扉のまえに立つと、微かに何か鼻歌のようなものが聞こえてくる。軽くノックして入室の許可を乞うとそれは止み、すぐに「どうぞ」と返された。「おう」でも「入れ」でもないことに、和胤は軽い驚きをおぼえた。杉閣下は磊落ときいていただけに、すこし拍子抜けがした。

 淀みない動作で扉を開けてから閉めるまでを済ませ、上官の座る席のまえで、厳正な挙手の礼をとった。

 「杉少将閣下。副官の命を拝し、本日異動して参りました、山口和胤少佐であります」

 その端正な挨拶にも、上官は席を立たずに執務机の上に両肘をついたまま、組んだ両手のうえへあごをのせている。そうしながら、赴任してきた和胤を見つめている。二重瞼のくるりとした双眸が、うすく差し込む朝の光をのせて生き生きと輝く。それがどことなく夏の青空をおもわせた。

 「うん、山口少佐だな。おれが杉じゃ。副官が代わるのはきみで三人目だが、まァ、よろしく頼むよ」

 にこにこと親しげな笑みを浮かべつつ、そんな程度の挨拶で着任のやりとりを済ましてしまう。しかし惟之の頭のなかでは、様々な情報が物凄い速さで駆け巡っている。

 ―前に、あの川上さんのもとにいたのなら、能力面ではまず問題はあるまい。

 今目の前に立っている副官は、前任を川上宏信のもとで務めていた。
 
 川上少将といえば、維新を乗り越えて一途に陸軍を務め上げた人物で、数々の功績をうちたててきた。惟之とは中佐のころから参謀本部で職務をともにしてきた、いわば戦友であるといえる。だが川上自身は惟之とちがって、ある時期からうまく昼行灯を装い、近年はもう、これ以上の野心もないといった風情を醸しており、参謀本部の片隅へ隠居のようにして引っ込んでいる。

 人格を窺わせるのは、その穏やかさと包みこむような度量のある態度であり、それでいて威圧感というようなものが全くない。接するとどこか心が和む存在なのである。

 「さっそく、頼みたいことがある」

 と、惟之はおもむろに椅子から腰をあげ、机上の判―案件を許可する旨の、参謀長自身が捺すべき印―の入った黒い漆塗りの小箱を手に取り、新任副官の前に立った。命を受けるために改めて姿勢を正すかれを見て、惟之はほんの少し目尻のしわを深くして頷き返す。

 「きみの机のうえに、方々から届いちょる要請書の束がある。よっく目を通して、これはとおもったものに片っ端から判を捺してくれ。そうじゃな、できたらおれの机に置いといてくれりゃァええよ」

 どうということのない用件のように、上官は言った。

 これにはさすがの和胤もたじろいだ。が、表情には出さない。いかにも軍人然とした鍛えた体躯の、少々、異相といってもいい貌立ちの青年将校を、小柄な惟之はすこし見上げる風にしながら、その手に黒塗りの小箱を託した。渡すときに、ぐっと真剣な目つきをしてみせる。それで、この頼みごとの念を押したつもりだった。

 その目の意味を和胤がわからない筈もなく、手の内にある小箱どれほど重要なものか、知っているだけに冷や汗が出てくる。ちいさな箱がまるで、百貫の重さにも感じられ、おもわず両手で受け取り、にぎりしめる。

 「おれはこれから隣の陸軍省へ行く。小煩い尾木の爺ィの渋っ面を凹ませてやらにゃいかんのでな」

 いきなり爆弾を押し付けられた新任副官が、顔にこそ出していないが、大いにうろたえているというのに、上官は引き続いてのんきに言ってのける。どうみても、次の導火線に火をつけているようにしかみえない。それをきいた和胤は内心、泡をくった。

 ここで言う『尾木の爺』とは、陸軍の重鎮である尾木靖一である。明治日本における陸軍創成期に活躍したいわば元勲であるが、新しい発想に対して消極的な態度を取るのが気に食わない。故に惟之から見れば「ただの口煩い、頭の固い爺ィ」に過ぎないのだ。

 「ま、そういうことだ。昼には戻る」

 そう言ったときには、先ほどの真剣さは消えうせ、屈託のない笑顔を和胤へ向けている。今度は口笛を吹きながら、部屋を後にする上官の後姿をほんの僅か、呆然として見送ったあと。

 扉の閉まる音と共に我に返り、和胤は急いで小箱を上官の机上へ―もとあった場所へ違わず―そっと置いた。

 続いて近くを見れば、上官は軍帽も外套も長椅子のうえに脱いで放り投げたまま、置きっぱなしである。杉閣下の身辺の無頓着さは噂にはきいていたが、まさか本当に軍帽も被らずに出かけてゆくとは、おもっていなかった。

 慌ててそれらを手に取ると、和胤は上官のあとを追った。
→【3話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 変わらぬ青空のしたで・1―10話 | 22:08 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/5-5874d910

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。