大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰捌拾肆話

「如何なさいましたか」

「いや…案ずるに及ばぬ。森の中で転寝をしておったのだよ」

「ではこちらの居間へ…。御前もお体を暖めて、お寛ぎなさいまし」

「そうだな、夕食までそうさせて貰おう」

眠っているのではないから、会話の最中で瀧本翁の声音が明らかな安堵へ変じるのを聴いていた。嵩利は擽られるような心地だったが、愛しいひとの腕揺篭に甘えていたい気持ちが勝っている。鷲頭の肩へ頭をあずけて瞼を閉じ、身じろぎもしていない。

憩うが如く身を委ねてきっていた腕が、天鵞絨張りの長椅子をその代理として離れようとするのを、伸ばした手で広い肩を抱きすくめて拒む。むずかる幼子のように、くふんと鼻の奥を鳴らして鷲頭の首すじへ唇をつける。

濃紺の詰襟と僅かに覗く白い付襟。襟章の光る真正面はさながら、難攻不落の閉じたる門扉だが、首すじや項はふとするとあっけないほどの無防備をみせるときがあるものだ。

「悪戯が過ぎるぞ」

窘めつつ、褐色の精悍な頬を指さきで抓ったがそれは、ささやかな先手を取られたことを拗ねたが故の応酬だった。触れたのは僅かな隙、ほんの一瞬だが、軽く吸った肌に残した唇の感触は、艶めく予感を匂わせるのに充分足りたと、嵩利はほくそ笑む。

「どうしたの、春美さん…」

鷲頭は直ぐ離れようとせず、長椅子の前で片膝を落とした姿勢のままでいる。そこへ身を横たえている嵩利は近々と恋人の顔を見あげた。額と眉間の険しさはないものの、まだ何かを押し込めているような色の双眸がある。躊躇うように幾度も結びなおされる唇の奥で、どんな言葉を選ぼうとしているのか。

「…いや、止しておく。このような穏やかな明るさの中で言うべきことではない。後でよい」

少なからず胸をときめかせて待っていただけに、拍子抜けした嵩利は途端にむくれた表情になる。態と焦らしているわけではないのだ、と宥めるものを含ませて囁く低い声、期待を裏切った慰めに髪を撫でる柔らかい手つきが堪らない。

物憂げな甘さを漂わせて横臥している嵩利に、鷲頭はそれ以上は指ひとつ触れようとせず、無言のまま視線をかわしたあと、身を起こした。

「では…着替えてくる」

軍帽も外套も身につけたままだったことに漸く気づいた、という風であった。

「着替えないでください」

「ん…、何故だ?」

「物分りのいい大人の殻を被って、ぼくから離れようとした罰です。今夜はその鎮守府長官の身形のまま、過ごしてください」

「う…ぅ、それは―」

小悪魔そのものの笑みを向けて言ってはみたが、嵩利とて軍務に託けることで“物分かりのいい大人”の殻で鎧っていた。ひとのことは言えた立場ではない。それでも、もう二度と触れない、などと言った恋人に対して、このくらいの意地悪な要求を先駆けて突きつけるのは許されていい筈だ。

「いいでしょう…?」

暖炉の火あかりに染まった嵩利の貌は紅顔の美少年、と譬えてもよかった。しかし大尉の頃と違い、そこに少年の名残はない。抗う意志を溶かす蜜を満たした妖花に、濃厚な色気を含んだ流し目を送られては、勝てなかった。

「―わ、わかった…」

猫にも似た身ごなしで、嵩利は長椅子からするりと滑るように立ち上がると、半身を捩って鷲頭を振り返る。身につけているのは素朴な仕立てと生地の和装だというのに、いちいち仕草が艶かしくうつるのは、堪えねばならぬと抑えつけてきた欲の箍が外れかかっているからだろう。

「では、着替えてきますので。春美さんはここで暖まっていてください」

あの妖しき花の蜜を貪り尽くすか、溺れることになるか―。

その事象は、天秤にかけてみても針が揺れ続けるだけで、いつまでも測定できそうになかった。


嫌味な程に身形を端正に整えて、嵩利はやがて居間へ戻ってきた。

否、海軍士官―それも大佐にもなる者が、品良く且つ馴染んだ着こなしが出来ておらぬという方が、むしろ問題になるのだが―。鷲頭はその軍装の着こなしを合格点だと認めたが、今は到底褒める気になれない。

「長官、とお呼びしましょうか?それとも、御前、と?」

「いい加減にしないか」

態と煽っているのだとわかっている。肌を重ねる前のひと時を楽しんでいる。鷲頭の眼に浮かぶ羞恥と、烈しい情欲の焔を同時に炊きつけて、そのあと訪れる宵闇の中でどう焼かれても構わぬというように、不敵ともいえる笑みを浮かべている。

「お夕食の準備が整いましてございます」

と、一瞬空いたその間に瀧本の穏やかな声が悠々と響いた。それで幾分か“現実”に戻され、“殻”をかぶったふたりは素知らぬ顔をして、晩餐の席に向かうのだった。
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| 綿津見の波の色は・最新話 | 16:45 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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