大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰捌拾弐話

響いた半ドンに、嵩利はハッと顔をあげて即座に万年筆に蓋をする。側に控えている副官がそれを受けて、設計図を端から綺麗にクルクルと巻いてゆき、幕僚たちが各自記した考案を書類綴りへ回収してゆく。

ものの数分後には、工廠事務所の二階は殆ど人影がなくなっている。差し迫った状況でもない限り、いつまでも執務机にしがみついていることはない。“仕事は仕事で遊ぶときは思い切って遊べ”“用がないのに忙しい顔をすべからず”という気風が海軍にはあるので別に驚くにはあたらない。

土曜日はきまって昼になるとドックに立ち寄って、行きがけの駄賃とばかりにコッソリ機材の影から長門を眺めて帰ってゆくのだが、今日はそれをせずに工廠を出る。

せっかくの休日に公邸で過ごすのは気がすすまぬと、どこからかの伝手を頼んで小さな温泉宿を手配し、迎えの車を遣るからそこへ直接訪ねてゆくようにと鷲頭から今朝いきなり告げられたからだ。

路の端の瓦斯灯に寄せるようにして停まっているルノー車と、傍に佇む初老の紳士を認め、何かその様子が倫敦の官庁街で見た風景のようで、嵩利はふと懐かしくなった。まっすぐそこへ歩いてゆくと、紳士は丁寧に会釈を寄越してくる。身につけた洋装がしっくりと馴染んで、上品な着こなしがひと目でわかる。

此方も会釈を返すと、紳士は瀧本と名乗ってから二度目の会釈をし、相好を崩して親しげに声を掛けてきた。

「鷲頭嵩利様ですな?御前より承っております。ささ、どうぞお乗りください」

ルノーは馬車の名残を漂わせるつくりで、客車の扉を開く老紳士の所作はやはり絵になる、とおもった。その背を見つめて嵩利はふと、くびを傾げた。

「…御前…とは、どなたのことです?」

一瞬、脳裏に城内の顔が浮かんで、思わず訊いた。

「何を仰います。お父上ではございませんか」

「鷲頭の…、ですか?」

「他にどなたがおいでと仰るので?」

「あの…」

「そのように狐につままれたようなお顔をなさらないでくださいまし。わたくしどもは鷲頭御前より厚恩を与る身でございまして、以来そのようにこちらが勝手にお呼びしているのです」

「そうでしたか、父からは何も訊いておりませんもので。とんだ不調法を致しました」

「お気になさらずとも宜しいのですよ。もともと御前はそれ程お話になられる気質ではございますまい」

軍帽を手にしつつ謝意を述べると、瀧本は微笑を浮かべつつ開いた扉の脇に控えている。その丁重な物腰に温かいもてなしの気持ちが篭っており、これからどんなところへ向かうのだろうと想像をし、目を輝かせた。

ルノーに乗り込み、緩やかな山道を進んで、半刻ほど。

山の麓にこんもりとした森があり、更に近づくと明るい灰色の石造りに黒いスレートの屋根を頂いた小さな洋館がチラリとその中にみえた。

「御前はご公務で少々お越しが遅れるとのこと、承っております。嵩利様には暫く、お好きな場所でお寛ぎくださいまし」

温泉宿、というには余りにも想像とかけ離れている。仮に宿だとしても、どのような経緯でここにこのような洋館が建ったのだろうか…。

「―よろしければ、この爺が昔話でも致しましょうかな?」

相当悩ましい顔をして洋館を見上げていたのだろう。瀧本老人は嵩利を促すと一緒に洋館へ入り、寛げる空間の広がる居間に案内してくれた。用意してあった茶菓を共に楽しみながら、鷲頭が語ったことのない“経緯”について、ぽつぽつと語り始める。


ことのはじめは明治三十一年。

瀧本老人の五男である瀧本忠久は、藤原家の青少年下宿舎に身を置いていた。将来、帝国ホテルに料理人として勤めることが夢だった忠久は、その展望について思い悩んでいた。

宿舎の同じ年頃の若者たちは、帝大へ入って官吏になるとか、あるじの藤原に憧れて海兵の門を敲くとか、そういった目標を持つ者ばかりで、忠久は肩身が狭くなり、日に日に思いつめて暗い表情をみせるようになっていった。

鷲頭は少尉のころ藤原家に厄介になっていて、その縁あって度々上陸の際に訪ねてきていた。離れにある宿舎にもよく足を運んで、若者たちに遠洋航海に出たときの話などをきかせていた。

忠久のただならぬ表情に気づいた鷲頭は、そっと庭へ連れ出してその悩みを聴いた。ちょうど鷲頭は中佐に進級したばかりで、欧州へ駐在武官として赴任することになっていた。

“よし、それならきみを一緒に仏蘭西へ連れて行こう”

あくまでも、鷲頭の友人として。

下宿する身で藤原には頼れまい、と判断して鷲頭はすぐに行動に出た。その当時は天涯孤独の身であったから、蓄財はかなりあった。そして、忠久の為に私費を投じても構わぬと思ったのは、海軍の将来の一端がかれに見てとれたからだ。―直感、といってもいい。

―瀧本忠久の名を知らぬ者は、おそらくいまの海軍にはいない。国賓や外国高官は言うに及ばず、各界の名士たちの舌を唸らせる腕前を持ち、糧食担当主計科士官を、“一流の料理が作れる海軍士官”に育てる、名料理人なのだから。

わかりやすく言えば、いま艦隊勤務でそれなりに旨いめしが食えているのは、ひとえに瀧本忠久という、帝国ホテルの現料理長のお蔭なのである。

あの当時、私費で賄った留学費を忠久がのちに働きながら返却すると言っても、鷲頭は頑として諾かなかったし、後年になって事情がわかり、海軍省から還付すると言ってきても受け取らずに突き返し、今に至っている。

忠久がふと故郷の呉へ帰ったとき、父の掘り当てた温泉を活かすことを考え、新築した洋館へ引き入れ、温泉宿として開業したのが大正に入ってすぐだった。

知る人ぞ知る、海軍御用達の隠れた保養地と銘打っているらしいが、実際のところ利用しに来る士官は殆どいない。

「謂わばここは―、忠久が御前の為に建てたようなものです。勿論、御前には申し上げておりません。…内緒ですぞ」

と、瀧本老人が言ったので、嵩利は仰天した。

「御前が仰るには、現在こうなったのはただの偶然だ、と。すべて忠久が努力した結果で、私は何もしていない、と…」

瀧本老人の声が震えて詰まり、暫しの静寂がふたりを包む。嵩利には、そう言った鷲頭の気持ちが痛いほどわかる。あのひとは、そういう人だから。

「しかし、知ってか知らずか、父はここへご厄介になりに来ようとしているではありませんか。…瀧本さんの気持ちはとっくに存じていて、受け取っていますよ」

多くを語らず、背負えるものはすべて、黙って負ってゆこうとする―。傍に居るようになってからの、鷲頭の歩んできたこれまでを思い返しながら、唐突にひとつの答えが閃光のようにはしった。

―まさか、な…。

不安が脳裏を掠めて、消える。
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