大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰捌拾壱話

長官公邸の住まいは専ら和式で非常に落ち着く。鷲頭は帰宅してからも細々とした公務を洋館の“長官公室”で執っており、鎮守府を退いてきていても来客や公務が舞い込んで、殆ど区切りのない状況になることも多く、なかなか和室で寛ぐ時間がとれない。

忙しない様子の鷲頭をただ眺めるしかない嵩利は、工廠から入船山へ帰宅すると和室からは出ずに、与えられた居室で寛いでいるか、庭の見える縁側で手入れの行き届いた庭園を眺めている。

「きみには鎮守府長官の職務を補佐せよという辞令が出ているわけではない。よって、帰宅しても副官秘書官の如き振る舞いの要なし」

と唐突に告げられたのが公邸へ居をうつして三日後で、鷲頭は他に何か言いたげな色を眼に浮かべている。そのあと僅かにもどかしそうに眉を顰めて逡巡をみせたものの何も言葉には出さず、そそくさと廊下を渡って洋館へ篭ってしまった。

その通達には、廊下から向こうに足を運ぶことをも禁じる旨が含まれていると察したから、和洋の趣きが結集していると評判の美術館のような執務室や応接間をまだ一度も目にしていない。

―ここでぼくを預かるというのが、機密漏洩を予防するという一点で工廠長と意見が一致した、という事実があるから、だろうな。

訴えかける眼の意味を何となくそのように解釈して、嵩利は漸く軍装を解いて和服に袖を通した。この呉では長門が竣工するそのときまでふたりは一切の接点がないとハナから諦めていたものだが、嵩利の軽挙がもとでこのような状況になっている。

経緯を考えたら手放しで喜べないのだが、こうしていると甘さが心の隅を擽り、嬉しいとおもってしまう。鷲頭から長官としての叱責を受けたのだから、もう今はこの感覚に浸っても許される…と思いたいのだが、そうはならない。

「やっぱり春美さんの立場からしたら、ぼくがここに居るのは頗る迷惑なんだろうな…」

心底から反省をみせてしおらしくしていた嵩利を慰めてくれた甘い気配は、あの時以来鷲頭から漂う様子はない。縁側の端っこで、残照に浮かぶ苔石をみつめながら浮かぬ顔をしてため息をつく。

***

障子のむこうで佇む嵩利をつかまえて通達したとき、想像していたとおりの神妙な表情を向けられて、いっそ胸中に湧くものを全てぶつけてしまいたいという衝動に駆られた。

駆られたが、そうしなかった。軍務や来客の予定がそれを許さない。この公邸が鎮守府と地続きになっていて、公務がするりと滑り込んでくることに、今の鷲頭はある意味で助けられている。

日に日に、あらゆる事項から身を退く“潮時”について思考を傾けることが増えているが、愛でてきた恋人に対する執着心は膨れ上がる一方で、これからの生き方について思索するとき、嵩利だけは手放したくないと心で叫ぶ始末だ。

“息子”が妻を娶り、継ぐべく家のあるじとなるのに、いつまでもその“父”が未練がましく残る日にしがみついている―

鷲頭が心にきめている不文律として、“その日”が来たならばきっぱりと退くというものがあるのに、だ。かれに対する欲望にとっぷりと浸かったまま一向に抜け出せないことを認めたくないが、認めざるを得ない。

そんな葛藤もあって、今回の呉赴任についてまたとない良い機会が訪れたのだと素直に受け入れていた。

もっとも、軍務に則した状況なのだから不満など持ちようもなかったし、海軍の新時代幕開けの一端を担う責任の重さと、いくばくかの高揚感も相まって、嵩利と過ごす時間などは些細なことがらに収まっていた。

三つ子の魂百まで、という。あの天真爛漫な気性が、いくら初代長門艦長候補になったからといって引っ込む筈がないのは百も承知で、日本一の工廠がある呉に立って落ち着いて過ごせる筈がないのも、工廠長を筆頭とする造船科士官たちを多少は振り回すことになるのも、鷲頭は全て見通している。

赴任した際に落合工廠長が挨拶に参上したときに、真っ先に嵩利の振る舞いについて言及したのも、なるべく誤解を受けぬようにとの配慮に過ぎなかったし、今の嵩利ならば、立場も弁えずに勝手気侭に振舞うなどという真似はしない、ということもわかっていた。

だから落合が嵩利を預かってくれと言ったとき鷲頭は、“既にあれが反省しているのならば無用である。二度とせぬと私が請合うから、信じて使ってやって欲しい”と答えるつもりだった。そう言うことは然り、と思っていた。

それなのに、長門の機密性といった当然の事情を口実にして、かれを手許に置くことを選んだ。隠し切れぬ己の欲望が、じわりと滲み出しての“承諾”だったことなど、落合は知る由もない。

叱責は無用だと落合に言われたとき、渋々頷いてはみせたが、もとよりそのつもりなどなかった。余りの多忙さにそのまま身柄預かりの件が棚上げになったままひと月以上過ぎても口喧しく催促しなかったのは、あのあと自己嫌悪に陥っていたからである。

―状況がそれを許したのだ。ならばこのまま利用してしまえば良い。

嫌悪から抜け出してそう結論付けたあとの鷲頭は、欲望のままに動いた。落合へ再度、嵩利の鎮守府出頭の催促をしたあと、かれの起居する宿舎についても口を挟み、“退路”を絶つという暴挙に出ている。

何も知らぬ嵩利が叱責をうけたときにみせた健気な態度に心を動かされたが、それは欲望を絡めたもので、叱ったすぐそのあとに嵩利を求めようとしたのが、その証拠だ。鷲頭が与えた濃厚な口づけを拒まなかったことから、嵩利にも二人きりの時間を得たいという思いがあったのだとわかり、鷲頭の計画は成功におわった。

―それでも、ぼくはいま春美さんに抱かれたい。

あのときの懇願を拒絶したのは、焦らしたかったからではない。踏み止まらねばならぬ公務が控えていたから、ただそれだけの理由だった。そうでなければ、寝所までゆかずにあの場で即座に組み敷いて、時がゆるすまで嵩利を求めただろう。

鷲頭の葛藤や渦巻く欲望を知ることなく、嵩利は奥の和室でなかば、謹慎でもしているような心持ちで時を過ごしている。次の休日に心中の思いを告げたなら、どんな反応をみせるだろうか。
→【32話】 →目次へ戻る

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