大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰捌拾話

錬兵場を過ぎて更に緩やかな道を辿ってゆくと、樹々がひらけてきて呉鎮守府長官公邸がみえてくる。嵩利たちが起居している宿舎は、休山丘陵の裾あたりに連なっていて、そこからちょうどこのあたりは小高い丘として在る。

倫敦郊外の森に建つ山荘にも似た、ひっそりとした隠れ家のようでありながらも、独特の存在感が漂っているところが魅力的であった。おそらく、これまで身を置いた官邸のなかで最も鷲頭好みのつくりをしている、と嵩利は思った。

と、暢気な感想を浮かべながら歩みを進めて、正面にみえる洋館の凝った意匠のステンドグラスが嵌った扉を横目に見つつ、そのまま横手へ回って奥に続く日本家屋の玄関へむかうときの感覚が、どこか帝都の自邸を髣髴とさせ、自然と微笑がこぼれる。

沓脱ぎ石のところで思わず、ただいま帰りました、と言ってしまう。こうなるまでの経緯を考えたらおかしな挨拶である。しまったと、ばつの悪い顔をしたとき、幾つか先の襖がスッと開いて、冬軍装を着たままでいる鷲頭が廊下へ姿をみせる。

「中に入り給え」

きっ、と嵩利を厳しい眼差しで射抜いてそれだけ言うと、直ぐに襖の向こうへ消える。

―そりゃァ、叱られるよな…。

つい先程終わったばかりの職務―居住区の内装について諸々の調査と吟味を加え、中々に良い結果を得られた達成感も萎んでゆき、しょんぼりと項垂れつつ室内へ入る。

「長門の建造についてはこれまでの軍艦と一線を画すと、帝都を発つ前に何度も言った筈だのに、きみは聞いていなかったのか」

畳の間で対座した途端に、雷が落ちた。

「…聞いておりました」

「では何故このような事態になる。工廠を見て回るのは良かろう。だが、好き勝手に何処かへ居を移すとなれば別だ。それは只の我侭に過ぎぬ。それを工廠長はきみの熱意から来ることだからと庇っていたが、今後は一切そういった周囲の容認に甘えることはするな。軍務一途は結構だが混同が過ぎる。自戒自律を心掛け給え」

「はい…」

向かいに座ったときから、嵩利の表情がいつになく深刻なものになっていることに気づいていた。反省と愧じいる色が濃く、若しかすると既に工廠で誰かに灸を据えられたのではなかろうか、と感じもした。膝に添えていた掌が、ぐっと拳に握りしめられるのを認めて、鷲頭はすこし躊躇ったあと言葉を継いだ。

「ある種の美点と思って、これまで私も甘い顔をし過ぎた。このような形できみを庇うことは、もう二度とせぬ。わかったな」

言葉は確かに厳しかったが、突き放すような中にも深く諭すものがあり、明らかに先のものと違い、これは鎮守府長官としての叱責ではなかった。

「申し訳ないことを致しました」

「うむ…、よい。今日まで何も問題を起こしておらぬし、充分反省をしていたようであるから、これ以上は言わぬ。他でもない、きみのことだ。もう二度とはするまい」

言葉は確かに耳に届いたが、それは心底まで沁み入ってゆくようだった。慰められ、励まされ、改めて省みるに至って、嵩利は何も言えずにジッと鷲頭を見詰める。

その思いが伝わったのか、厳しく顰めた眉間から怒気が消えてやわらぐ。もう鷲頭は嵩利にだけ向ける、いつもの穏やかな微笑をみせていた。

「そんな表情はするな。何か今日は…大事なひと仕事を終えたのだと聞いている。今夜はゆっくり休んで、明日に備えなさい」

「あの―」

嵩利はいま、鷲頭直属の副官でもなければ部下でもない。そんな部外の配置にある士官が鎮守府長官の公邸で寝起きするのは、さすがに居心地が悪い。今からでも宿舎へ戻って明日からきちんと務めを全うしたい、と思う。

「何だ…?」

「ここでご厄介になる訳には参りませんので、御暇してもよろしいですか」

「心を入れ替えて宿舎へ帰ると言いたいのだろうが、きみが起居する場所はあそこにはもうないぞ。私がきみを預かって空くのだから、他の士官を入れてやるように言ったのだ」

「そんなァ…」

情けない気持ちを隠さずにみせて声をあげると、気の抜けたようになって正していた姿勢を崩して座り込んだ。鷲頭は微笑んだまま座を立って嵩利の膝に触れるくらいの距離まで近づき、そこで腰をおろすと同じように胡坐をかいた。

「それに…。またこうして顔を合わせて同じ時間を過ごせるのは、何時になるか分からないと、青山の自邸に居るときにきみは言った。だから、これが二人きりで過ごせる最後の時間になると思ったのだ」

「待ってください、それは―」

―春美さんの我侭にあたるのではないのですか。

そう継ぎたかった言葉はくちに出せず、鷲頭からの蕩けるような深いキスを受けている最中に、言ったところで負かすこともできぬような拗ねた問いかけなど、どうでもよいことだと認める。

「いま言おうとした言葉が何だったのか、敢えて訊くまい」

お見通しだというように唇を離した際に囁かれたが、嵩利は潤んだ眼にちらりと謝意を乗せただけで黙っていた。後ろ髪へ触れた手が妖しく動き、項や耳朶を擽る指が生む甘い感覚にも逆らわずに応える。

「ん…」

ちいさく声をあげて体を震わせた隙に、詰襟を胸元まで寛げられて付襟を抜かれる。シャツの釦を外した指さきがするりと潜り込んで、肌に熱い掌が触れるのがわかる。輪郭を確かめるように緩慢に動きながら撫でてゆく。

「素直でいじらしいきみの殊勝さに応えて、ここは私も堪えて愛撫だけで止めねばならんな。これから日々の軍務に差し支えぬように…」

「それでも、ぼくはいま…春美さんに抱かれたいな…」

己を信じてどこまでも深く受け入れ、全てを任せてくれる鷲頭がいることに深い感謝と尊敬とが生まれて、そこには、なによりも愛しいとおもう気持ちが渦巻いている。抑えきれぬ切なさに、ぽつりと言葉にして強請った。

「それは駄目だ。続きは、週末の休日まで取っておく。…意を酌んでくれるな?」

拒絶の言葉はやさしく言い聞かせる調子で耳へ囁きかけられる。叱られていたとき、もう駄々を捏ねる子どものようには振舞わないと胸中で決めていたから、嵩利は直ぐに頷いてみせた。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 22:29 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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