大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾捌話

現在、長門の艦内には大まかな仕切りがあるだけで、居住区も倉庫も弾薬格納庫も作戦室もまだなく、広げられた図面にそれらの配置をどのようにするかといったところから、艤装員長を筆頭とする艤装員たちの仕事が始まっている。

併せて隣の机で計画されている艦上の兵装工事についても進行状況は同じで、上部構造物のかたちはなく、長門の艦影は予想図としてもまだ安定していなかった。

鮮明な姿を掴み取るためには工廠の各方面より届く着想や意見書が大きな鍵となり、それらを素早く検討し、新たに図面を起こしたり指示書を作成して、迅速に応じることが重要になってくる。

それらは確かにここへ集う士官たちに託された大事な務めには違いないのだが、嵩利は早くも飽き飽きしている。それは長門に携わっている実感がないとかいう理由からではなく、工廠の一角に身を置いているというのに、霞ヶ関と何ら変わらぬ空気が漂っている所為である。

出来得るならば、日がな一日こぢんまりした赤煉瓦の事務所の二階に居るのではなく、ドックへ出ていって艦を作っているところをみてみたい、大勢の職人が入ってゆく作業場は一体どのような様子なのだろうと、出勤してくるかれらを窓辺で眺めながら毎朝のように考えている。

この呉や横須賀はたしかに海軍の港があり、海軍の存在があって経済が回っているような感があるが、実際それを支えているのは軍人ではなく、職人であると言い切っても過言ではない。呉は特にそのような匂いが濃く漂う。

工廠に属する部はざっと挙げると、造機部、電機部、砲熕部、水雷部、造船部、というように分かれており、それぞれの道に長けた職人たちは合わせて数千人はいる計算になり、かれらが工廠で腕をふるうことで軍艦ができあがってゆく。

海軍工廠ほどの規模を持ち、且つ屈指の技術を持つ職人の集団は、たぶん今の日本には他に存在しない。

そういったものを含めた呉の“匂い”を殆ど嗅ぎとることなく、このまま竣工まで至るのだとしたならば、ホンの何日かでも入船山を飛び出して呉の街中へ紛れ込んでしまうことくらいはしてみたい、と思いもする。

「ここから抜け出したら、脱走罪で銃殺刑だぞ」

その瞬間、不意に背後で吉井の声がした。声と同時にこつんと後ろから頭を小突かれ、驚いて振り向く間もなく肩を抱き寄せられる。

「ここというのは、事務所からでもですか?」

「そうだ。素人にドックをウロチョロされては困る」

ここでは兵科士官はお荷物だということを隠さず、造船科士官は言い切った。

艤装に向けて共に働きはじめてからもう何日も経つが、吉井が冬軍装を纏った姿をまだ一度もみていない。鉄と潮の混じった軍艦そのものの匂いが、染み付いたまま取れずにいる作業衣は吉井にこそ相応しく、嵩利はそれが少し羨ましい。

「特にきみだから敢えて言わせて貰うよ。で…、そうやって不貞腐れた顔をしてもいいのは始業までと心得ているようだから、そこは叱らない。と言ってもだな、そろそろ、目を離すと何を仕出かすかわからない頃だから、本日よりぼくの監視下に置くこととしよう」

物腰は柔らかいが、言うべきところははっきりと言う吉井の性格は海兵生徒の頃から変わっていないようだ。いざとなったら官舎を飛び出すという算段をしていた胸の内まで見透かされたような気がして、嵩利はがっくりと項垂れる。

「つくづく、信用ないンですね…」

「性能を最大限に生かして艦を扱う腕前については、大いに信頼しているよ」

「それ、本当かなァ?」

「本当さ。昨日きみが纏めてくれた中甲板一部の見取り、落合工廠長がそのまま使うと言っていたんだからね。餅は餅屋と言うだろ?だから腐らずにここで励め。ぼくの監視下に置くのは、若しかしたらどこかで連れ出して、外を見させてやれるかもしれないから、さ」

「…どうしてそれを先に言って呉れないんです」

「先ずもって釘を打ち込んでおかないと、きみには効き目がないだろ。―本当に困るんだからな、工廠のあちこちをフラフラと気侭に出歩かれたら」

肩を抱いたままの手にぐっと力を込められ、嵩利は顔をあげる。間近に吉井の真剣な面持ちがあり、厳しい光を閃かせた眼がそこにあった。

「吉井さんが見学させてくださるなら、勝手はしません」

「ああ、約束だぞ」

神妙にしている艤装員長を認めて、吉井はやれやれと内心で安堵の息を吐いている。先日鎮守府を落合工廠長の供をして訪ねたときに、赴任してきた鷲頭長官がほぼ開口一番に言った言葉とその後の遣り取りを思い出していた。

「あれは一途で興が乗ると特にそうだが、思い立つと何かの拍子にフッと居なくなって、フッと戻ってくるところがある。有益なことに繋がると信じるが故の行動だが、それがここで何か不都合な事態を招くようなら遠慮なく言ってやってくれ」

椅子を三脚、輪を囲むようにして置いたところへそれぞれが座り、挨拶をすませたあとに先ず、嵩利の振る舞いについて言及した鷲頭長官の心中が吉井にはよくわかる気がして、深く頷き返した。それは落合も同じだった。

「特に何も不都合は起きていませんが、まァ強いていうならばつい先日に、工廠の裏手に寝起きできるような場所はないかと訊いてきたことくらいですな。それについては許可できないと申し渡しておきました」

「うむ、そうか…」

どことなく案じるような色を眉間に浮かべながら相槌を打つ様子をみて、落合はウーンと唸ったあとに鷲頭のほうへ身を乗り出した。

「長官に頼むのは甚だ、妙な話だとは思いますが…。ここはひとつ枉げて鷲頭くんを預かっていただくわけには参りませんかな」

艤装員長を含めた艤装員たちは工廠長の部下として配属され、造船部長の吉井と連携して仕事を進めているわけだが、諸々の承諾を得るには工廠長の落合が最終的な判断を握っている。細かいことまで挙げれば、休暇や宿舎の割り当てなどもそこに含まれる。一方、鷲頭は呉鎮守府の長官で、そういったものに関しては全くの職掌外にあたる。

「艤装員長であることを弁えておらぬ訳ではないようだが、ものには程度がある。長門はこれまでと違い、ただの軍艦ではないからな…。―わかった。あれが勝手をせぬように、私が預かろう」

そう言いながら眉間を険しくしたのは、落合の請願が気に入らなかったからではない。曲がりなりにも艤装員長の立場である嵩利が、呉に来てもこうして少なからず周囲を振り回していることを知ったからである。

「まったく、仕様のない奴だ…」

「いやいや、長官!誤解しないでいただきたい。これはかれの熱意から来たことで、仕事ぶりについては申し分なく、いま現在なにも問題は起きておらんのです。夕刻ここへ来させますが、ご子息に叱責は無用ですぞ」

慌ててなかば椅子から腰を浮かせつつ言う落合を、すこし面食らったように見つめ返していた鷲頭の表情に吉井は違和感をおぼえたのだが、その違和感が何だったのか今日になっても未解決のまま残っている。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 14:27 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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