大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾漆話

入船山にある士官宿舎を朝早く出て歩いてみたが、呉工廠までさほど時間はかからなかった。

造船ドックに浮いている長門の艦体はまだ錆色に塗られたままだが、遠目にみてもそれとすぐわかるほどの大きさであった。

三本の仮マストがあり、そこには整備旗が掲げてあるだけで、あとの上部構造物は何もないが、軍艦という証に菊の御紋章がきちんと艦首についている。

工廠まで直ぐに行き来できる中通あたりの、こぢんまりとした下宿に転がり込めるような身分ではもはやない、ということはさすがに自覚していても、もう少しここへ足繁く通えるような場所に寝泊りできる場所はないだろうかと、詮無いことを浮かべつつ、もと来た道を引き返して呉鎮守府へ向かう。

この軍港のあたりから見渡せば、近くは右手にのぞめる休山から灰が峰を正面にみて、ずっと向こうの鉢巻山まで、ぐるりと緩やかな山麓に囲まれている。その地形がどことなく鎌倉に似ていて、親しみをおぼえる。

瀬戸内の海には江田島があり、若い頃は環境に納得できずに渋々身を置いていたというのに、今こうして島影を認めると違った感慨が沸いてきて、すこしこそばゆくなった。


来週かそのくらいに後任の鷲頭と代わってしまう現在の呉鎮長官、副官や秘書官、同じ境遇の工廠長といった面子が諸々の引き継ぎを纏めるために、早朝だというのに既に長官執務室に揃っているようだ。

「おぉ、随分と早いな。今日は午後あたり、遅く来てよいと伝えたんだがなあ」

廊下にひょっこりと現れた嵩利を見つけて、落合工廠長は軽く首をかしげながら言った。

冬軍服ではなく、着慣れた作業衣を袖まくりにしてい、ぱっと見ただけではどこか建築現場の親方と見紛いそうな風体をしている。隣の給湯室に入ってゆき、やおら無骨なつくりの薬缶と食缶を手にして出てきて、きみも一緒にどうだね、と気さくな笑顔を向けてくる。

「そういえば、朝食がまだでした。ご相伴させていただきます」

薬缶を受け取りながら、そこで漸く己の腹具合を思い出した。

「握りめし、足りなかったらおれのを食っていいぞ」

本来ならば艦内で下士官たちが用いるそれらのものだが、ここにいる人数分くらいの食事がおさまってしまう代物でしかも場所をとらないときていて、おそらく咄嗟に思いついて工廠の主計に頼んで持ち出したのだろう。鎮守府の首脳部はいま、揃って食堂でのんびりとテーブルを囲む時間がないらしい。

扉をあけながらの会話がきこえていたらしく、嵩利が室内に入るやいなや、

「大方、きみのことだから長門を見てからここへ来たんだろ」

という声が飛んできた。聞き覚えのある声には可笑しそうな響きとやさしさがあった。

「あッ、吉井さん!」

「何につけても夢中になると、めしを食うのも忘れるしな。昔から変わっていないなあ、きみは」

造船部長は吉井という大佐で階級こそ嵩利と同じだが、その昔の江田島に於いては、嵩利が四号生徒のとき、吉井は一号生徒だった。

かれから鉄拳制裁をうけたことは何度かあったが、それ以上に目をかけて面倒をみてくれたひとである。今朝からの行動を言い当てられ、嵩利は生徒時代を思い出し、吉井には敵わないと思うと同時に改めて頼もしさをおぼえた。

粗暴な物言いやふるまいはせず、軍人になるために海軍に入ったというよりも、フネを造りたいそのついでに軍に属しているようなところが昔からあり、工廠長と同じような格好でいるから余計に練達の職人、という匂いが漂っている。造船士官として抜群の実力を持つのだから、いまここに吉井がいるのは当然なのだ。

「いまの女房が居るあいだに、つぎの女房のことを考えているらしいと、ここじゃ皆で噂していたものだが…、あれホントかい?」

「とんでもない。榛名ではきちんと務めを果たしていましたよ。そんな話までしていたのですか?参ったなァ…」

「その榛名には艦長室が二つあるとか、あちこち行くからフネの何処に居るのかわからんとか、尉官に紛れてるところでウッカリ同僚と間違われたとか。ほかにも色々きいてるよ」

「もうそのような真似はしませんから。吉井さん、勘弁してください」

これまでの奇行をあげて叱っているわけではなく、長門艤装員長を任された程の力をつけたとわかっていても、こうも変わらぬ“海軍の名士”ぶりを発揮している嵩利を前にして、吉井も昔を思い出してあれこれとつつきたくなったのである。

恐縮して困り果てている嵩利は、おもわず吉井へ拝むような手つきをして頭をさげた。そんなふたりの様子を、秘書官から長官までが笑顔で見守っている。

「一所懸命で素直なところも変わっていないんだから、ぼくとしては何も心配していないよ。これから竣工まで、きみと一緒に携われるのが嬉しいんだ。まァ、きっと結構な割合でぼくはきみを引きずって食堂に連れて行くことにはなりそうだけど」

「そうさなァ。あンまり酷けりゃ、父上に告げ口すればいいのさ。あの鷲頭さんの雷が落ちればさすがに止むだろうよ」

落合工廠長の指摘に、嵩利はなにも言い返せなかった。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 01:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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