大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参拾肆話

 川上たちの待つ控え室へ戻ると、さっそくストーブの焚かれた暖かな場所へ座らされる。

 「今日の尾木さんは、まるで昔にもどったような顔をしようるぞ。あれァ、伊達に元帥大将じゃーないのう」

 陸軍大臣のもとへ次官が挨拶にゆくのは、ごく自然なことであるから、だれも惟之の行動を不審がることはない。だから、惟之がまた何か悪戯を仕掛けているなどと、勘繰る者もいなかった。

 脱いだ外套を無造作に脇へ放り、上機嫌で言う惟之の様子と、周囲の幕僚が和やかな様子でいるのと裏腹に、副官の和胤は些か落ち着かないようすでいる。歴戦の恩田は泰然としているが、さすがに若い和胤は、今回の参謀長はいきなり任されたも同然であるから、いくら演習とはいえど、緊張を隠せないでいる。

 その心情を察した惟之は、くちの端に笑みを溜めてかれを見つめた。いつもの軍務と同じじゃけぇ、安心せい、そういう思いをこめて、椅子に座ったまま副官を手招く。

 「そげな顔せんでええ、おれがずっと一緒に居るちゅうたじゃろ。おぬしの考えた通りにやってみい」

 呼ばれて目の前に立った和胤は、それでもまだ硬い表情が解れない。いつも自宅でしているように、惟之はつと手を伸ばして、和胤の軍服の袖を指さきでつまんで引く。

 「のう、あれほどおれを見てきたおぬしじゃ。ちゅーかい、しろしい女房になったちゅうのは、何とも複雑じゃが、おぬしの観察眼は並外れちょるけぇのう。こげなこたー、大した問題じゃーないちゃ」

 身を屈めた和胤の耳もとへ、冗談めかしたことを絡めつつ、励ますことばを囁いて、改めて顔を見合わせる。
見つめてくる惟之の眼はいつもと変わりなく、心配や焦りなどはひとつも浮かんでいない。

 心から信頼されているのだと、和胤は様々な想いがこみあげ、ほとんど胸に痛みをおぼえるほどであった。痛感という、文字通りのそれを感じて、目の前の惟之を抱きしめたいくらいであった。副官が安堵とも喜びともつかぬ、何とも言えぬものをその眼に滲ませ、漸く笑みをうかべるのを見て、惟之は首を右へ僅かにかたむけて、屈託のない笑顔を返す。

 「行って参ります」

 「うん、あとですぐにゆくけぇのう」

 それで充分だった。“勝て”だの“しっかりやれ”だのといった激励はもはや必要ない。

 ふたりの様子を察したらしく、いつの間にか第一局の面々は居なくなっている。一足さきに、前線本部へ向かったのだ。和胤は部屋を辞そうと振り返ってそれに気づき、一歩踏み出した足をとめる。躊躇ってから、惟之へ向きなおった。ちいさな背だが、そこには例えようもない頼もしさがある。

 「閣下」

 「なんじゃ」

 立ち上がったものの、もうすこし暖をとってからゆこうと、ストーブに手を翳しながら、惟之は背中で返事をする。和胤は上官の外套をそっと椅子から取り上げ、その肩に掛けようとして、一旦は手を引っ込めかける。あとで叱られてもいい、そうおもって腹をくくった。惟之のからだをうしろから、外套で包みこむように、ぎゅっと抱きしめ、素早く離れた。それはほんの僅かのことで、驚いて惟之が振り向いたときには、もう部屋には和胤のすがたはなかった。

 「…なんちゅうやつじゃ…」

 ひとり残された惟之は、眼をまるくして暫し立ち尽くした。軍務中じゃちゅうに、まったく怪しからん。などと、和胤の行為を、内心で叱咤したりもする。それでもなお残る温かなものを、無理にしまいこまずに懐へ抱いておく。まァ、今日はこれでええ。と、肩へ掛けられた外套に袖を通しながら、惟之はそっと呟いた。

 演習の内容は、第一連隊と第二連隊がそれぞれ守備と攻撃に分かれ、拠点を撃破または防衛というものである。これはだれがみても、満州の戦場を想定しての演習だとわかる。しかし、果たして列席している“ご来賓の方々”はそれに気づくかどうか。尾木はかれらを招いた立場もあり、解説を兼ねてなのだろう、他の将官とはすこし離れた場所で、議員らと臨席している。

 「皆、ええ面構えをしようるのう」

 本部に着くと、早速作戦の伝達が行われている。今回の演習は第二連隊と一緒になった。大隊長、中隊長、と続いてやってくる。めだたない所に立ってそのようすを眺めていたが、惟之が来ていることは周囲に知られている。それで集まった将校らは、ほぼ一斉にきょろきょろと探し始め、隠れる間もなく見つかってしまう。

 「おいおい。今日は軍務に就かんぞ、休養中じゃけぇの。演習の一切は山口に任せちょるんじゃ。真剣な遊びじゃと思うて、大いにやってこい」

 かれらの、何か期待を込めたようなまなざしを遮るように、惟之は顔の前で手を振りながら、苦笑いを浮かべて言った。

 視線の先には、各隊長に囲まれている和胤の姿をとらえている。その傍には恩田がいる。任せるとは言っても、やはりこの連隊を扱うのは、ひとりでは無理があることからだが、それでも恩田は殆ど口を挟まず、見守っているようすだ。副官の凛々しい横顔を、こうしてすこし離れたところから、いつまでも見ていたいとおもった。

 何気なしに、くるりとかれらに背を向けたとき、鼻先に漂う匂いにくびを傾げた。連隊に所属する炊事掛が、こぞって炊き出しにかかっているらしく、本部の裏手でやっているようだった。匂いにつられてそちらへ出てみる。

 「何ぞ、小豆でも炊きようるのかのう。汁粉もええのう、雪の日は」

 その辺りを通りがかりつつ、炊き出しに精を出す軍曹らへ、のんきに声をかける。かれらも実戦さながらの気合の入れようで、あちこちで声が飛び交っている。

 やがて喇叭の音が響き、開戦間近といった空気になってくるのを感じると、条件反射といっていい武者震いがおこる。ちいさく身がふるえ、それは脳天まで走り抜けた。ぴりぴりとからだの中に、稲妻が残るような感覚がぬけると、跳ねるような足取りで、本部の扉をくぐる。

 広げた地図を見ながら、相談し合っている部下たちを尻目に、ちょこんと席におさまった。

 くびから提げた双眼鏡で、ざっと戦場を眺め、それとなく配置や陣形をたしかめる。普段の演習のときも手帳にあれこれと書き込む癖があり、懐に手をやりかけ、思いなおしてやめた。いまは療養中の身で、眺めているだけでいいというのも、奇妙な感覚であるが、軍務を執らないということは、こういうことも含まれる。

 「人事を尽くしたら、あとは天命をまつだけじゃ」

 恩田と和胤、ふたつの靴音がすぐ傍でとまり、惟之は振り向きもせずにのんびりとした口調で言った。

 椅子のうえで泰然と構えた姿とあわせて、部下たちにはやはり、居るだけで頼もしい存在であると感じるらしい。すこし張りつめていた本部の空気が、それで緩やかなものになる。惟之は脚の間に軍刀を立てかけて、両手を柄頭に重ねて置いている。その手のうえにあごをのせて、小唄でも唸りそうな顔をしている。
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