大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾伍話

青山の鷲頭邸は、相変わらず独特の静けさに包まれている。廊下も居間もひっそりとしてい、玄関先には既に旅支度が整ったトランクなどが整然と置かれている。配達された新聞を取って戻った嵩利は積まれた荷をもう一度確かめた。

むこう二年は帰ることのない家―いつもならそこでじんわりと寂寥が滲んでくるのだが、もうそれを感じることはなかった。

数日前、城内の居室で繰り広げられた父親同士の“ご相談”を耳にしたことを、まだ鷲頭には告げていない。あれ以来、鷲頭はどこか不機嫌そうで、怒っているのか苛立っているのか、どことなく落ち着きがない。

呉鎮長官として赴任するまでは休暇をということで、その時間を目一杯使って城内と共に婚儀に向けてあれこれと手を尽くしてくれているけれども、その遣り取りには慶事によろこぶという和やかな気配はまったくない。鷲頭の姿勢は軍令部に於いて作戦を練り上げるが如き真剣味を帯びている、というのは仲人をつとめてくれることになった藤原の言葉である。

一緒に自邸に居ても、結婚する当人の嵩利が婚儀の話に水を向けただけで、途端にむっつりと黙ってしまう。今朝はその煽りか、登庁前に朝食の卓を共にしていても、鷲頭はにこりともしていない。

「春美さん」

「…」

「ぼくは呉へ行ったら工廠に所属ですし、春美さんは呉鎮長官です。またこうして顔を合わせて同じ時間を過ごせるのは、何時になるか分からないんです。もう少しお話して下さってもいいのではありませんか」

「きみの大事な将来に比べたら、そのようなことは些事に過ぎぬ。もう二度と会えぬわけではないし、何れこの家に皆で家族として暮らすのだ。その時の為に、私は今のうちに城内さんとハッキリ話し合っておく必要がある」

“あの話”を知らないでいまの言葉を聞けば或いは、頼もしい父の言動として嵩利の心にうつったことだろう。そしてしおらしく頷いて、ではお任せしますとそう返事をしただろう。

昔の話を持ち出してまで城内を説きにゆく鷲頭の真意を知りたかった。

「…城内さんと初めて会った当時は大尉ですよ、もう十年前になるというのに。ぼくは今でも世間知らずで頼りない男に見えますか、春美さん」

「な…、何の話だ」

食後の茶を淹れ終えて再び座卓を挟んで対面するなり、ひたと視線を合わせて言うと、鷲頭は明らかにうろたえて視線を逸らせた。やはりそうなのだな、と嵩利は呆れながらも確信を持ち、言葉をぶつける。

「あなたはまだ、城内さんがぼくを篭絡するのではないかと、それを危惧しているんでしょう。お邸にお邪魔していても、書斎で幾ら海軍のことに没頭していても、あの時のような隙はそうそう見せやしませんよ」

ぼくをあなたの何だと思っているんですか、と鋭く視線を向けてから、

「父親同士、積年の諍いがあると那智さんや他の上官から伺っていますから、その点で争われるのは致し方のないことと思いますが、ぼくに関して今後のそういった心配はご無用に願います」

少し突き放すように、はっきりと言い切った。

漏れ聞いた話にも、顕子は気に留めないという態度でおおらかに笑っていたから、嵩利は恥ずかしさを押し込めて頷いた。しかしその裏では何より悔しくて堪らなかったのだ。

あくまでも義父として接するようにと、わざわざ城内に釘を刺しておかねば安心して姻戚になれぬという鷲頭の気持ちはわかるが…。

「そうか…、あの話を聞いていたのか。私と城内さんとの話で解決する問題だから、きみには一切言わないでおく積もりだったのだが…却ってきみを蔑ろにしてしまっていたようだな」

尤もな憤慨を目の当たりにし、鷲頭は肩を落とすと声を低めて呟くように言った。気持ちは痛いほどわかる。愛しているが故の、鷲頭なりのやり方なのは言われずとも承知している。そこは酌んでいるのだと、気落ちする鷲頭へ告げる。

「春美さんのお陰で、何事にも後の憂いなしに飛び込めるのですから…、もうそんな表情はしないで下さい。ぼくも少し言い過ぎました」

「それは言うな。私もまだどこかできみを危ういと思っていたのだから。こんなにも、良い男に成長したというのにな」

滅多にひとの批判をしない鷲頭は、賛辞も殆どくちに乗せたことはない。面と向かってこのようなことを告げられたのは、たぶん、この時が初めてだと嵩利は記憶している。鷲頭からほろ苦いものを含んだ微笑を向けられ、嵩利は一遍に冷静さを失う。

初めて愛していると告げられたときと同じか、それ以上に心がときめくのを隠せなかった。何時まで経っても鷲頭が嵩利を案じるのを止められないのと同じに、嵩利は鷲頭にだけは何時まで経ってもこのように純真な態度をみせる。言葉も返せず照れて耳まで赤くなったのを認め、

―やはり、まだ少しばかり危ういのかも知れぬな。

と、心のうちで呟いたが、それには先程まで抱いていた後ろめたいものは何ひとつなく、愛しさに満ちている。ちら、と時計を見上げて席を立ち、嵩利の傍へ膝をつく。登庁を促すかわりに、熱っぽい頬を掌で包むなり唇を浚った。

夜の褥で交わすような深いくちづけを与えたが、今の嵩利ならばこれから邸を出て海軍省へ到着するまでの間に己を律することくらいわけはないと、何事もなかったかのような顔をして、門のそとまで見送った。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 22:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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