大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾参話

―呉にて、長門進水式。

大正八年十一月九日の日記で、軍務について触れているのは僅かにこれだけである。


“かの女”の“一世一代の晴れ姿”を見届けることもなく、嵩利は今朝も変わらず普段通りに赤煉瓦へ登庁している。呉へ行くまでは海軍省出仕の扱いである。

「なァんだ、ちゃんと来ているのか。貴様のことだから今日は何食わぬ顔をして、ヒョイと呉へ顔を出しているかと思っていたのに」

などと、軍令部や各局の課長クラスの任に就いている同期たちが、廊下を歩いている嵩利を認めて冗談を言ってくる。確かにそんな言葉を掛けられてもおかしくないが、それよりも大切な用事があるのだ。

先ず軍務局へ行き、昼になる少し前に人事局を出て、次官執務室を訪ねる。海軍次官は今月のはじめから新見が就いている。海相の那智は呉に出向いて不在であり、今日は夕刻まで留守居役である。

「万事滞りなく進んでいるようで、何よりです」

挨拶のあとに新見はそう言って、執務中にもかかわらず笑顔をみせる。今日は特に忙殺されている様子もないのだなと、茶を淹れてくれている副官の横顔を見ながら思い、勧められるまま椅子へ座った。

「鷲頭くんは、今日も城内さんの所ですか?」

「はい。式が来年になるか再来年になるか…わかりませんが。何でも呉へ行く前に、諸々の相談だけはしておきたいそうです」

歯切れも悪く、他人事のような口ぶりで言っているが、嵩利どころか顕子さえも婚礼に関する件については口を挟む余地がないからであって、関心がないような物言いになってしまうのは致し方がない。寧ろ関わりたくても蚊帳の外の扱いで、両家の父親が主導権を握って離さないような現状である。

「城内さんが何か勝手なことをなさらないか、鷲頭くんは警戒しているんでしょうね。暫く放っておいて、お二人の好きなようにさせて置けば、そのうち何事もなかったように粛々と進みますよ」

長年の付き合いで、鷲頭と城内の間にある問題についてとっくにお見通しの新見は、さらりと言って嵩利を慰める。

「そうなって貰わねば、困ります…」

ふたりの父は、何のかんのといいつつも要するに嵩利に対する扱いについて押し問答をしているに過ぎず、それが本来の婚礼についての諸々まで及んで意地の張り合いになっているという有様なのである。

天井を仰いでため息をつきながら、嵩利は先ほど訪れた人事局でのことを思い出していた。

顕子との婚約を認めるという旨の、城内と鷲頭の署名が入った書類を提出しに行ったのだが、人事局の課長も嵩利の同期生であった。

口が堅い者でなければ、人事局には居られない。

そういう機密・秘匿の内部事情を扱う部署ではある。然しながら海兵二十七期のクラスメイトは、不惑を過ぎてなお独り身でいる嵩利の行く先を陰ながら案じてきていた。中にはもう諦めている者もいたが、人事局の課長は諦めていない者の部類に入っていた。

「なァ鷲頭、こればかりはおれも口に戸を立てられるか、甚だ自信がないよ」

要するにクラスメイトの間にだけ、野火のように広めるつもりであることを暗に言ってみせたのだが、これについて嵩利は敢えて止めなかった。ここで彼らにソッと洩らしてくれれば、ひとまず安心させることになると思ったからだ。


「他に、何か問題があったのですか?」

執務机の向こうから気遣わしげに尋ねてくる新見は、信を置かれて人事局長を長年務めたひとだが、先ほどの課長とのやりとりを聞いたらどのように感じるだろうか。軍務には厳しい彼のことだから、あとで咎めるかもしれない。嵩利はそう思って首を横に振った。

「いいえ、何も…」

平静を装ったつもりが、きっと妙な顔をしていたのだろう。新見はそれを見逃さず、暫し小首を傾げると何か考える様子をみせながら、嵩利をじっと見詰めてくる。

「随分前に、きみのことを頼むと父上から言われて私はまだその積もりでいるのですが…?」

「ええ、それは勿論です」

そう返したのは殆ど即時だった。そうですか、と言って頷いたあと。新見はちら、と咎めるような不満げな色を面に浮かべて席を離れるなり、こちらへ近づいてくる。嵩利はますますたじろいだ。

「それならば、思い切って私に言ってご覧なさい。必要であればこの胸の内にのみということにしますから」

見る限り、新見は純粋に嵩利を案じているようであり、のらりくらりとかわせる相手ではないうえに、逃げ場がない。

「そういったことではなくてですね。イヤ尤も、新見さんの胸の内にしまって頂けるならそれに越したことはないのですが…」

「どういうことです?」

「あー、その、婚約の届けを受け取った人事局の課長がクラスメイトでして」

観念して言うと、新見はそこで察したらしい。嵩利の隣へ腰をおろすと、可笑しそうにくすくすと笑った。

「確かに、二十七期はこれであと残すところ…守本くんのみですからね。人情としてクラスメイトに知らせたくなるというものですが、きみが呉へ行ってから妙な憶測や噂が流れるのだけは阻止せねばなりません。その点だけは人事へ伝えておきましょう」

「ああ、良かった…。冷や汗をかきました」

「私はそこまで、融通のきかない男ではありませんよ。先の言葉もあるのですから、遠慮せずに頼りになさい」

心底安堵している様子の嵩利を横目にして、新見は心外だという風に言った。内心では、こんな不器用なところは鷲頭に似ずとも良いのにと思う。しかしそれも、屈託のない笑顔を向けられた途端に消えていってしまう。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 22:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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