大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾壱話

再び机上へ目を落とした嵩利は、この場に長居し過ぎたことに思い当たり、海図と設計図を巻いた。それらをすべて角筒に納めてから慌てて中庭へ出てゆくと、つい先刻までそこに佇んでいたはずの顕子の姿が消えている。礼装のフロックコートも一緒に。

「参ったな…」

渡英する前にここへ滞在していた嵩利の気侭な振舞いを顕子は見知っていたから、いつものことと思って客間へ届けに戻ったのだろう。自邸に居るような気軽さで、ついそこらへ放ってしまった迂闊さを恥じつつ、嵩利は少々情けない格好のまま中庭をもと来た方へ歩き出した。

「鷲頭様」

幾らも歩かぬうちに、ゆったりとした柔らかな声に呼ばれ、立ち止まって振り向くと、回廊から低い階を降りてこちらへやってくる顕子がみえた。すらりとした背に良く映える白いワンピースドレスを纏った姿は先ほど、書斎の窓から認めている。

少し陽が翳って肌寒くなったとみえ、肩に天鵞絨のケープを掛けていた。アールヌーボーの紋様が銀糸の刺繍で縁取られている群青色のそれには見覚えがある。英国滞在中に立ち寄った仕立て屋で見つけた生地で、顕子のために贈ったものだった。

束髪に結い上げた黒髪をただひとつ飾る銀の簪も然り。航海の道標である北極星のごとくそこに輝いていた。顕子の装いには絢爛そのものというような華美な色合いはないが、それが却ってかの女を引き立てている。

「先ほどまで、書斎にいらっしゃいましたの?」

無邪気に問うてくる顕子の声も殆ど耳に入っていない。

英国に居るときは何の気なしに手にとって、遠慮の“え”の字もなく好き勝手に過ごさせて貰った礼にと思い贈ったものが、まさかこのような調和を成して目の前に表れてくるとは思ってもいなかった。

「どうかなさいまして…?」

「あ、あぁ…、すみません。いつもの癖で…、迂闊でした」

そう言ったとき、嵩利はどんな表情をしていたのか。結婚してから嵩利は気になって顕子に問うたが、ずっと後年になるまで明かしてくれなかった。その日まで、長らくかの女だけの秘密になった。


狼狽しきっていた嵩利は、顕子の携えている礼服がブラシを入れられて綺麗になっていることに気づいて、やっと我に返った。


父が海軍を務め上げたこの佳き日を台無しにしてしまうところだったのだ、と言われたようであり、嵩利は礼服を受け取ると素直に頭をさげて謝り、礼を述べた。

「わたくしに謝らなくてはならないのは、鷲頭様ではなくてお父様ですわ」

と、ここで顕子は急に幼子のような拗ねた口調と表情をともにみせた。頬を赤らめて唇をちょっと尖らせた様子は、何か小鳥のような―白文鳥にも似た愛らしさがあり、微笑ましかった。

「どういうことです?」

「今日のお祝いの席に鷲頭様がお招きされていること、わたくしちっとも存じませんでしたのよ。皆様にアフタヌーンティーを支度しているときに、セットが一組余って…、そのとき初めてお父様が仰ったのですから」

「お父上の、いつもの悪戯だったのでは…」

「いいえ、それだけではありませんの。あれから、鷲頭様が英国へ行かれてからのことをお尋ねしても、お父様は貝のように口を閉じておしまいになって…。でもあの日、英国にいらっしゃる鷲頭様からお土産が届いたとき、…余りに突然のことでしたけれど、とても嬉しゅうございました…」

目の前で恥じらって俯く乙女はたしかに、高嶺の花よ、至天の星よと巷で囁かれている城内子爵の令嬢に違いないのだが、いまこのときの嵩利は、そのような眼で顕子を見ていなかった。

「―顕子さん」

「はい…」

「ぼくは先刻、確かに書斎に居ました。そこで相変わらず、お父上の所蔵されている資料を読み耽っていたのです。時間を忘れる程没頭していた筈なのに、何故かほんの一寸、顔をあげて窓の外を見たのです」

「はい」

「そのほんの僅かなときに、貴女がそこで―」

一度言葉を切って嵩利は振り向くと、白い貝細工のテーブルセットへ顔を向けた。そこで察したのか、顕子は途端に頬を染める。

「頓着なしに放っておいたこの上衣を手に取るのを、偶々見てしまったのです。そのときの貴女は、とても愛しみのある表情をしていた…」

「鷲頭様…」

「気の利いた紳士の如き振る舞いは不得手なので、はっきり言ってしまいますが、許してください」

「―ええ。どうぞ、仰ってくださいまし」

そこで顕子は、少女のように羞じいっていた気持ちを奮い起こして、嵩利の想いを受けとめるべく、顔を上げて確りと言葉を返した。

「英国に行ってからお父上に何度か手紙を差し上げていましたが、その際に貴女のことを時に思い出していました。思えば貴女からすれば、ぼくは全くの他人で…渡英前に突然この邸に現れて、好きなように過ごして去っていった闖入者のようなものだったのに、貴女はぼくの知らない所でよくお世話をして下さっていたのだと、ある時気づいたのです」

顕子は黙って聴いている。嵩利の声に熱意と真摯さが滲んで、しかしそれは静かに、優しくかの女を包んでいた。

「そして先刻、貴女のお話をきいて心に決めました。ぼくの妻になってくれませんか?…海と艦のことばかり考えているような男ですが…」

肝心のプロポーズのあと、照れたような申し訳なさそうな風にして呟いた言葉に、顕子はとんでもない、というように首を横に振った。

「恐縮なさることではありませんわ。鷲頭様が一途に海軍のお勤めをなさっているお姿を、時折そぉっと書斎へ窺いに来ていましたの。とても真剣なお顔をなさっておいでで…。あの時の鷲頭様をいつまでも忘れずにいたいと、わたくしは今もそう思っております。これからも、それは変わりません」

―これは、嵩利が戦艦長門艤装員長に補せられ呉へ赴任する、ほんの半月前の出来事である。
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| 綿津見の波の色は・171―180話 | 03:57 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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