大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰漆拾話

恙無く海軍を退く日となった城内顕範は、男爵から子爵に列せられ、名実ともに文句のつけどころのない華族となったが、赤坂に構える城内家の邸とそこに住まう人々は何ひとつ変わらずにいた。

またそこに集う盟友も然り、である。

いまや鷲頭をはじめとする、嵩利に近しい上官までが全員将官となり、役職だけをみれば錚々たる顔ぶれになっている。しかし、美々しく礼装を身につけて城内海軍大将の退官を祝うために邸へ集ったといっても、そこには窮屈なものはない。客間で歓談を楽しむ面々の間には、遠慮のない笑顔と和やかな空気が流れている。

嵩利は寛ぐ上官たちの笑声に耳を傾けつつも、自邸から携えてきた包みをふたたび手にとり、膝へ置いた。祝宴の前に、城内から長きにわたって拝借していた三冊の書籍を返しにゆかねば、どうにも落ち着かない。

まるで講談本でも貸すようにして、気軽にぽんと寄越されたものだが、諸外国の海戦を全て網羅しているといってもよいほど、克明に記した稀少な書なのである。それも、もう新たには手に入らぬ品ときている。

もうすぐ呉へ行く身でもあり、そのあとは長門と共に海へ出てゆくことを考えれば、この名著を返し、城内に礼を述べられる機会は今日しかなかった。

主役であるはずの城内はまだこの客間に現れておらず、時間が経つにつれて、嵩利は椅子の上でそわそわと身じろぎをはじめた。会食が始まる前に戻ればよかろうと見切りをつけて、ひとこと鷲頭へ行き先を告げるべく、窓辺で憩う上官たちの輪に顔を向ける。

「やはり、返しに行きたいか」

先刻から落ち着かぬ様子でいるのを鷲頭が気づかぬはずもなく、困ったような表情でいる嵩利へ、微笑を湛えた眼差しをおくる。

「すぐに戻りますので、中座してもよいでしょうか」

「そうだな…。うむ、よかろう。行ってきなさい」

珍しく、考えあぐねるように首を傾けてから、鷲頭は頷いた。今更、他所の邸と遠慮する間柄ではないうえに、招かれている客は悉く知己盟友であるという気軽さがそれをゆるすだろう。と、嵩利は鷲頭の了承をそのように受け取った。

いそいそと客間を出てゆく嵩利の後姿を見送ってから姿勢を戻すと、向かいの椅子に腰をおろしている那智が、にやりと悪戯好きのする笑みを浮かべている。

「鷲頭ですら、すぐ戻ってくる方に賭けねえたァ、困ったもンだ。あいつも相当“入れ込んで”やがるなァ」

「あれはこのところ、何につけても海のことばかり考えおる次第で。これみよがしに、あのような物が書斎にひろげてあるとなれば、まず帰って来んでしょう」

“あのような物”とは、英国製の最新式戦艦―長門よりもふたつほど艦の級は下回ると思われるが、ほぼ同格の、その設計図のうつしのことである。

まるで長門を嫁に貰うような姿勢でいるのを、嵩利を取り巻く上官たちは半ば頼もしくおもいながらも、半ば呆れ返っている。

「ですが…きくところによると、英国から帰る前にすこし気の利いた土産を、顕子嬢に贈ったというではないですか」

ふと思い当たって、橘田が呟くように言いながら嵩利の肩をもった。

日本を発つ前に世話になった城内家への礼として届いたもののなかに、確かになにがしかの、年頃の娘に似合うような品がはいっていたというのは本当らしかった。

「かれが、現時点でどこまで考えているか…。鷲頭くんですら推察しかねているのですから、このあとの成り行きで私たちがもうひと押しするかどうかですね」

この場を面白がるような空気を遺憾なく発散している那智へ、窘めるように一瞥をくれてから、橘田の言葉を継ぐようにして新見が言い、歓談はそこで落ち着きをみせる。


「いやあ、すまないネ。遅れてしまって」

それから幾らも経たずに、いつも通りの城内の悠揚な声が聞こえると同時に、鷲頭たちは席を立ってかれを出迎えた。

「皆様。本日はようこそお越しくださいました」

耳に心地よい淑やかさを含んだ声が客間に流れる。城内のやや後ろについて姿を現したのは顕子だった。更にかの女の後ろには紅茶の支度を整えたワゴンを運んできた、とみが控えている。

上品な仕草で会釈をし、傍らについたとみを促しつつも、手ずからテーブルへティーセットを並べてゆく。が―。

「…お父様?」

「いやいや、数は合っているよ。まあ、ここでおとなしく待っていられる性質じゃあないからねえ。猫よろしく、またぞろ陽当たりのいいところで丸くなっているんじゃないかネ」

余った一組の陶器を手にして戸惑いをみせる娘へ笑いかけながら、城内は言った。顕子はその意味を察し、逡巡のようなものをみせてその場に立ち尽くした。

「手間を掛けさせるが、一寸行って呼んできてくれるかい」

歩み寄った城内にそっと耳打ちされ、顕子は恥ずかしそうに来客へ会釈すると、客間から出て行った。来たときは楚々とした歩みが、弾むようなものに変わっているのも隠そうともせずに。


父の祝いの席に伴うようにと言われて勿論、否やはない。今日ここに訪ねてくる人々についてきいていたが、そのなかに鷲頭嵩利の名はなかったのである。

そもそも、嵩利が英国へ駐在武官として赴任したという話をきいてから、その後のことを知りたくて父に訊いても、いかにもその話題を避けたいという風にして、何かと話をはぐらかし、ついぞ知る機会がなく、顕子は父を恨めしくおもっていた。

それもすべて今日のための、父の悪戯だったのだ。

―もう、お父様ったら。

忽然と、気まぐれのようにしてこの邸を訪ねてきていると聞かされて、動揺がおさまらない。嵩利がよく時を過ごしていたのは書斎か、離れの庭、それに父の居室のどれかだった。

「まあ…」

テラスの沓脱ぎ石に、黒短靴が揃っているのを認めて、顕子はふとその先の庭へ眼を向けた。藤棚の天蓋のしたに設えてある、貝細工の施された白い華奢なテーブル。風にひらりとレースのクロスが揺れて縁が覗くと、陽が虹色の鈍い輝きを弾いて顕子の眼に光彩を映した。

その奥の、対となる小振りのチェアの背に、黒い上衣が無造作に引っ掛けられている。玄関と広間、客間のある棟から、この中庭を突っ切って来るのが書斎への近道であることも、英国へゆく前の嵩利が滞在している間に、顕子が覚えたことのひとつだった。

今日のこの祝いの日にさえ頓着もせずに、嵩利が独りで気侭に過ごしているのだとわかり、不意に可笑しさがこみあげてくる。

―やっぱりここにおいでなのだわ。

そう思いながらも、嵩利が居るのだろうすぐ近くの書斎の扉を敲きにはゆかずに庭へおりて、愛用のテーブルセットの傍らへ寄り添うようにして立った。

海軍大佐の階級を示す四本の金条蛇腹の袖章が、美々しく光を放っている。それなりに威儀のあるはずの礼服であるのに、ただ、ぽつんとそこへ置き去りにされている。

―本当に、一途でいらっしゃるのね。

礼服の上衣を取り上げると丁寧に仮畳みをしつつ、ひろい背へ繊手を添えて、慈しむように撫でた。まるで嵩利そのひとに触れるような心持ちであり、はしたないともおもったが、募る想いがそれを押し切った。


そのようにして、愛しげに嵩利の礼服を腕に抱いている顕子を、はからずも嵩利は自身の眼で目撃することとなった。これを運命と言わずして何と言おう。

テーブル一面に広げてあった艦の設計図へ一通り眼を通し終えて、屈めて窮屈になっていた背を伸ばした。その格好のまま窓の向こうへ視線を向けて、見たものがそれであった。

姿勢を元に戻すことも忘れて、嵩利は暫し呆然とかの女をみつめた。顕子の白い顔には、尋い愛しみと労わりが満ちてい、かの女の醸す愛情に強く惹かれるのを感じた。いま、これだけ目の前のことに没頭している最中であるのに、この瞬間を偶々でもみたということは、そういうことなのだろう。

英国滞在のときも、帰国してからも、妻を迎えることについて全く顧慮していなかった嵩利の心に、顕子の存在が眩しくも鮮明に、なにより温かく刻まれたのであった。
→【21話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・161―170話 | 04:20 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

更新されてたんですね、待っていました^^、
お疲れさまです

| 奇特な訪問者様 | 2013/05/03 19:21 | URL |

はい、まだやってます(笑)

お待ちくださり、ありがとうございます。
これからも細々と更新していきますので、思い出した頃にまた覗きに来てやって下さい。

| 緒方 順 | 2013/05/10 05:08 | URL |















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