大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参拾参話

 翌朝、まだ雪はやんでいない。雪の降る日は独特の静けさが漂う。そのなかへ起き出してきて、惟之は久しぶりに軍服に袖を通した。

 それよりすこし遅れて目を覚ました和胤は、珍しくきちんと軍帽をかぶり、軍刀を携えた威厳のあるかっこうをした惟之が居間で寛いでいる姿をみて、当然ながら目を剥いた。

 「まあ待て。正式に雪中演習ちゅう通達が昨夜届いたんじゃけぇ、今日くらいええじゃろ。こりゃ所謂、祭の日に法被を着る、ちゅうやつじゃ」

 などと、和胤の抗議を先んじて制し、口笛でも吹くような顔をして言う。しかしその手許には、こまかく書き綴った手帳が広げられていて、戦時のときの姿勢と大してかわりない。

 雪中演習は習志野原で行うことになっており、東京の第一師団・第一、第二連隊をほぼ総動員するかたちで、約六千人。結構な規模になる。何も、二個連隊で本当に雪合戦をするわけではなく、八分方は正式な演習だ。あとの二分が所謂あそびで、自由参加で雪合戦をするのである。

 この雪合戦のはなしは、参謀本部から出たものとみてまちがいない。昨晩惟之の家へ通達をもって、伝令使の少尉が訪れたときには、既に“二分”への参加がひきもきらないという話だった。こういうことへの情報の伝達も、光の如きはやさで伝わるからおもしろい。

 「それより、今日の演習じゃ。おれは督励にゆくだけで、じゃじゃはくらん。実質おぬしが参謀長なんじゃけぇ、負けたら承知せんぞ。雪合戦も、雪玉が銃弾か砲弾だとおもって、まじめにやれ」

 そう厳しいことを言いつつも、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。また何か考えているのだろうかと、和胤は向かいの席に腰をおろしつつ、疑うように惟之を見つめる。

 「久しぶりだからと、あちこち動きまわったりせんでくださいよ」

 「なに、おぬしが作戦に専念できるよう、ずっと隣に居るわい。勝手にあちこち、うろつきゃァせん、安心せい」

 療養中の身で勝手なまねをしたら、以前とちがって惟之に対して遠慮がないぶん、和胤にきつく“やいとすえられ”るのは目にみえている。それだけはかなわんと言わんばかりの顔つきで、肩を竦めて和胤を上目にみた。まず惟之に二言はない。やるといったらやるし、やらぬといったらやらない。そういうところだけは、些細なことでも一本筋を徹している。そのことばをきいて、和胤は目許をやわらげた。

 「握りめしを食いたいのう」

 なかば惟之にせがまれて、台所へ立って釜で米を炊き、手際よく握りめしをこしらえる。出発するにも支度するものはさほどなく、惟之は将官になっても身の回りのことはじぶんで済ますため、副官はまったく面倒がない。

 市ヶ谷の自宅から新宿駅まであるいたが、一面を覆う雪の高さは七寸ほどもあった。長靴が埋まりそうなほどのなかを、すすんでゆく。駅頭でふたりは別れた。和胤は副官といえども階級は少佐であるため、少将である惟之と同席はできない。二等車両へ、同僚の佐官といっしょに乗り込む。

 帝都がこの様子で、習志野原はいかばかりかのう、と、車中のひととなった惟之は一等車両の席に座りつつ、車窓に顔をくっつけるようにして、表の銀世界を眺めたりしている。いまとなりには、川上が座っている。惟之が一等車へ入ってくるのを予め待っていたようで、朝の挨拶を交わしたあと、からだを気遣われる。こんな雪の日に演習に出てきたことを大いに心配され、惟之は磊落に笑い飛ばす。

 「なーに、今日の演習はあそびみとーなもので。見物しにゆくだけですけぇ、そのつもりで居ります」

 「おはんのことは、恩田サンと山口クン、そいから第一局のニセんしによっく頼まれとります。くれぐれも無理せんじおっくいやんせ」

 そんな会話のあと、ふたりのもとに騎兵将校が何人かやってきて、挨拶をした。

 以前、惟之が馬を拝借した貸し賃がわりに、辞表をとりあげて破ってしまった松沢もいた。今日の演習に作戦の伝令として一連隊が参加するという。作戦の伝令と聞き、今日は副官の腕が試される日だけあって、惟之はめずらしくかしこまってその旨を告げ、おれの副官をくれぐれも宜しくたのむ、とあたまをさげた。

 さきほど川上にはあんなことを言ったが、演習とはいえ胸中は複雑である。ここはひとつ、頼れる副官を立ててやりたい。だが惟之の性格からして戦況の如何によっては、代わって指揮権を執ってしまうかもしれない。

 「のう、川上さん。暫く軍務から離れよるところにこの演習ときて、おれァ堪りかねて、いつ山口から指揮権を取り上げるか知れん。すまんが、そげなことをせんように、止めてくれませんかのう」

 演習とは言ってみれば、“戦ごっこ”のようなもので、軍人である以上、これに対して心が奮い立たない者はいないだろう。惟之とて例外でない。しかも根っからの武人であるため、沸き立つ血を抑えきれる自信が甚だない。であるから、惟之は今のうちにと、少々情けない顔をしながら、川上に頼みこんだ。

 それで、好戦的なのかといえばそうではなく、戦争など無ければ無いに越したことはないと、惟之は常々おもっている。しかし、それと軍事力を常に研ぎ澄ませておくことは全く別物で、国を守るため、いざというときを常に見据えて生きてゆくのが、軍人の本分だと心得ている。

 腰に大小を差していた武士の時代はとうにおわったが、武士の精神と軍人の精神はそう違わないと感じている。大げさに言えば身に帯びるものが、軍服と飾緒に変わっただけで実際、惟之の生き様は十六歳で初陣に出て以来、大して変化していない。同じ年代かそれ以上の将官も、殆どそういった生き方をし、そうおもっているだろう。

 「おはんが山口クンを、ほんのこて信頼しておいやっなら、おいが止めることもねじゃっどが」

 と、川上は白髯の温顔を笑ませながら事もなげに言う。これには惟之も返答に詰まり、ますます情けない顔であたまを掻く。

 「うーむ…、川上さんには敵わんのう」

 すこし含羞んだ顔で言うと、惟之を取り巻く輪は、和やかな笑いに包まれる。そのまま、そのあたりの席で持ち寄った弁当をひろげて、軽く食事をとろうということになり、津田沼へ着くまで歓談もはずむ。まことにのどかな光景であった。

 一方、和胤は二等車両で何をしていたかといえば、第一局の面々と共に車両の一角を占領して、習志野原の地図を広げつつ、あたまをつき合わせて作戦を練っていた。

 片手に拵えてきたばかりの握りめしをもって頬張りながら、もう片手に握った鉛筆を走らせる手を止めないという、食事の行儀には厳しい惟之にみられたら、それこそ怒鳴りつけられかねないかっこうである。

 形振り構っていられない和胤のすがたに、一同も真剣に議論を交わしている。いつもなら、車中で冗談を言いあったりしているのだが、それどころではない。

 「これは負けられんなあ」

 恩田がおもわず呟いた。

 今日の演習は、惟之からすべて託されていると言ってもいい。作戦の天才がとなりに居て、しかも部下のすることにくちを挟まず黙っているというのは、部下にとっては想像以上の重圧感である。

 そのようにして和胤たちは過ごし、目的の津田沼へ着くまでの時間は、惟之とちがって飛ぶようなはやさで過ぎていった。

 津田沼に着くと、整然とした行軍で演習場までゆく。雪は静かに降り続けて、まだやむ気配がない。風はさほどなく、視界が吹いてくる雪で遮られる心配もなく、紫の房飾りがたなびく旭日の連隊旗が見えて、ほっとした者もすくなくなかった。

 しかしそれこそ、以前もちあがった満州の防備問題をおもえば、このような天候など満州では冬季になれば当たり前で、まだかわいいものである。

 雪中演習は誰がはじめに言い出したかわからないが、異例のはやさで通達がおりた。というのも、あの問題に怒り心頭であった陸軍大臣の尾木が、めずらしく軍人の本分を発揮させたからだ。今でこそ大きな問題にならずに済んだが、それに甘んじることのないよう、喝を入れる積もりなのだろう。

 その尾木が、今日の演習を督励しに来るという。しかも、あの問題が起こったときに決議を渋った議員連中のお偉方を、何人か招待しているらしい。それをきいた惟之は内心でにやりと笑い、習志野原に着くなり何食わぬ顔をして尾木の所へ行った。

 軍人としては、すっかり腑抜けきっているとおもわれている尾木だが、めずらしく往年の名将たる武人らしさを面にみせていた。惟之はその様子に感服し、いつもなら、“おい、尾木の爺さん”などと声をかけるのだが、自然と“尾木元帥”ということばが出た。
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| 変わらぬ青空のしたで・31―40話 | 22:49 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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