大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参拾弐話

 先日のことが余程懲りたのか、軍医長の新垣や和胤の言いつけを守るようになって、惟之は療養につとめている。しかし、楽しみにしている宴会はお預けになったままだ。

 ふくらみつつあった桜の蕾は、変わりやすい春先の天の気まぐれに遭い、ぱったりと綻ぶのをやめてしまっている。それもその筈で、今日は朝から雪が降っている。締め切った部屋の中で暖炉と火鉢を熾し、惟之は暖炉の前に据えた長椅子に座った。あたまから毛布をかぶって、寒みィーっちゃ、を連発しつつ、小太郎を懐炉がわりに和服のなかに抱いている。

 「山口のやつ、早う帰って来んかのう…」

 和胤は第一局長の副官として、惟之が働けない分をできるだけ埋めてまわっているらしい。その働きぶりは空回りすることもなく、じつに良い評価がきこえてきている。

 まるでじぶんが褒められでもしているように、妙に得意な気分になるが、鼻高々なのは心中だけで、話をもってくる来客や主治医の新垣、殊に当人である和胤の前でそのような顔は一切しない。

 ―おれの副官なんじゃけぇ、当たり前じゃ。

 と、それが当然であると言わんばかりに、軽く受け流しつつ、しれっとした顔をして聞いている。

 杉邸にはだれも居ない。ぽつん、と独りきりで居残っていると、置き去りにされたようで堪らない。かわいい姪と甥は、学業の関係で今度は横浜の親類宅へゆくことになってしまい、つい一昨日に別れを惜しみつつ、送り出したばかりだ。そのことも相まって、寂しさはひとしおである。

 人好きであるのはその裏を返せば、寂しがり屋でもあるということだ。軍務に没頭していたころは、独りになるなどまずあり得なかった。この寂しさがやりきれないのを知っているだけに、いまの状況はかなり堪える。

 長椅子のうえで横になっていると、静まり返った部屋のなかは、降りしきる雪の音に包まれる。耳を擽るような、さらさらという音が心地よい。

 「あァ、いけん。こげなとこで寝よったら、また叱られるのう…」

 呟いて身を起こし、胡坐をかいて座り直す。

 懐からひょこっと小太郎が顔を出すが、多分にねむたそうで瞼が半ばしか開いていない。さては、懐であたたまってねむっていたかと、不憫におもいつつあやして寝かしつける。

 仔犬はすぐに夢のなかへ駆けてゆき、そのちいさな温もりを懐から離すと、輻射熱が程よく届いている場所を手で探る。からだから外した毛布でくるんで、一番あたたかな床のうえへ置いてやる。

 「おぬしはええのう、山口といっしょに居るんじゃけぇ。…この休暇が解かれたら…、おれァまた独りじゃ。こげな気持ちになるとは、思わんかったっちゃ」

 いつのまにか、惟之が和胤の傍で、その温もりに浸っている。居心地のよさに寄りかかりすぎて、そろそろ抜け出せなくなるところまで、来ている。じぶんの傍から、和胤が居なくなったらどうなるのだろう、ということをおもうと、想像以上の空虚な気持ちが惟之の心を占める。

 「馬鹿かァ…おれは…」

 切なく、ひとつ長いため息を吐いてから、自身に呆れながら呟いた。長椅子のうえでぼんやりしつつ、時おり薪の爆ぜる暖炉の火をながめてみても、和胤の顔が浮かんできて、あたまから離れない。それを追いやることに意識を使っていたから、窓のそとと階下とで扉の開く音や足音がしているのにも、全く気づかなかった。

 「閣下…?」

 「うわァ、なんじゃっ」

 だから、うしろからそっと肩を掴まれて飛び上がるほど驚いた。この家に黙って入って来られるのは、ひとりしかいない。かれに対する思いに沈んでいた名残を、いつもなら腹の奥に引っ込めて何食わぬ顔をするのに、今日は珍しく隠さないでいる。

 「おぬし、まだ勤務中じゃないんか。何ぞ忘れ物でもしよったんか?それともこの天気で、早く退けたんか」

 ほっとしたような顔で、和胤を仰ぎみた。両の肩に置かれた掌の重みまで、嬉しくすらある。

 「雪が積もったら、明日は本部で雪合戦ですけぇ。体力を温存しちょけちゅうことであります」

 惟之の表情が、どこか寂しげなのを見てとり、和胤はとっさに冗談を言って笑った。雪合戦とはあながち、あり得なくもないことだけに、惟之もくすっと笑いながら、まだうしろに立ったままでいる和胤を促すように、手を伸ばして軍服の袖をつまんで引っぱる。

 「そんなら、作戦を練らんとなあ。そのまえに、こっちィ来て座れ。…懐炉と毛布があの有様じゃけぇ、寒みィーっちゃ」

 床のうえで丸くなっている小太郎の寝顔を、和胤は頬を緩めて覗きこみつつ、長椅子を回りこんで惟之のとなりに腰を落ち着ける。すると惟之はまるで猫の仔のような身ごなしで、和胤のひざへあがって横向きにするりと座りこんでしまう。

 構わずにからだへ腕を回して抱きつく。胸に顔を埋めて、ほんの少しそこへ頬擦りすると、かすかに漂う白檀の香りに、ひっそりと安堵の息を吐く。

 「閣下は寒がりでありますのう」

 何も言わずに抱きついてきたのは、余程寒いせいなのか。たぶん懐炉代わりとおもってのことだろうと、和胤はこどもをあやすのと同じような気持ちで、惟之を抱きしめた。

 惟之のちいさなからだは、和胤の腕にすっぽりとおさまる。そこは温かく、安らかな場所として惟之のなかに居座ってしまっていることを、嫌でも認めざるを得ない。この場所は、和胤にしかつくれないものであった。

 「いままですっかりおぬしに甘えちょるけぇ、こうしておれなくなるちゅうのが、寂しゅうてのう…」

 惟之の療養が済めば、和胤がこの家に居る理由はなくなる。寂しいのは和胤とて同じだったが、ひと好きの上官が、こんな天気の日に独りで居た寂しさから、つい出たことばだろう。そうおもった。

 「何を言いよりますか。閣下にはおれなどより、くびを長くして訪ねて来るのを待ちようる女子衆が、それこそようけ居りましょうが。きっと皆、閣下のために膝を空けちょりますよ」

 そう、慰めることばを掛ける。惟之がひと月も花柳界へ顔をださないなど、今まであったためしがないから、女たちがそうして待っているだろうというのは、誇張でも何でもない。

 「馬鹿ァ、そりゃ違うわい」

 その慰めに、惟之は目を怒らせた。身じろいで顔をあげると、和胤の眼を射るように睨む。それだけでは足りず、どん、とかれの胸に頭突きまでする。

 「女たちは女たち、おぬしはおぬしじゃ。おれにとって、おぬしの代わりはだれも居らんちゃ」

 惟之は至って当然のように、大真面目な顔で言い切る。

 息が詰まったのは、頭突きをされたせいだけではない。これはかれ独特の、広い博愛精神からくる感覚で言っていることなのだと、あたまで理解していても、面と向かって言われるとたじろぐ。和胤は気持ちを言うのなら今だと、くもりのない惟之の目を見ながらおもった。

 「…正直に言えば、閣下が時々、上官じゃちゅうのを忘れそうになっちょる始末で。よもやまの話相手に始まって、果ては膝枕に至るまで…屈託なく甘えてくれよりますけぇ、離れるとなるとおれも寂しくあります」

 「なんじゃ、おぬしにしちゃ素直じゃないのう。それなら初めからそう言やァええじゃろ…」

 くちをとがらせて言う惟之がいじらしくて、すこしだけ強く抱きしめる。

 惟之に対して他意が微塵もないと言ったら嘘になるが、そうでなくても、こういった部分にどうしようもなく反応してしまう。じぶんの中にある庇護意識が擽られるせいなのだろうな、と疼く部分を納得させている。
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