大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰陸拾弐話

変わらぬ生家の佇まいだったが、人の気配がなかった。障子がなかば開いた縁側から居間の畳が覗いていたが、敷居のそばにあるはずの、父が愛用している煙草盆が見当たらない。

「留守…か…?」

訝しげに眉を顰めつつ鷲頭が囁く。いつまでも民家のまわりを、海軍士官がふたりでウロウロしているというのは、みっともないものがある。

「父上、母上、居られませんか?」

しんとしたまま屋内から返ってくる声はなく、嵩利はすこしたじろいだ。しかしここは自身の生家である。知らぬ他人の家ではないのだし、上がり込んでも疚しいところはひとつもないのだ。

「いや待て。よもや、ご両親に何か…あったということではあるまいな。急なことであれば、艦上にいた身では知らぬままということも在り得るぞ」

「まさか、そんな。父上たちに限って―」

「万が一ということもある。この際構っていられまい、隣近所の家人に訊ねてみてはどうだ。何事もなければそれでいいではないか」

「そこまで仰るのでしたら、訊いて参ります」

千早家の隣近所といえば、裏手の坂をあがったところに会田家がある。代々網元の漁師で、気のいい親方と嵩利の父はしょっちゅう将棋をさしに行き来する間柄である。

家を訪ねてみたが、嵩利の姿を認めたおかみさんは相変わらず元気のいい声の主で、にこにこと笑顔を浮かべつつ挨拶を返してくる。

漁から帰ってきて昼寝をしていたらしい親方が、ひょいと奥の間から出てきて、相好を崩しながらおかみさんの隣に並ぶと、“遠慮しねえで、上がっていけ”と言う。

「―おお、何だい、そのことか。つい半刻前まで…おれァ信さんと一局さしてたんだが…。なんだ、津久井の…シゲちゃんよ。その、利恵ちゃんの旦那が来てよ。ふたりを車ン乗せて慌てて出掛けていったぞ」

両親の所在を訊いた答えがこれであった。津久井のシゲちゃん、というのは姉婿の高田滋のことである。

「シゲちゃん、確か新聞記者さんだろ?案外、タカ坊が帰ってくるってンで、先回りして鎌倉駅まで迎えに飛んで行ったんでねーべか。タカ坊…お前さん、めっきりここに顔出さなくなってたからなあ」

めっきり、の部分に力をこめて言われると、さすがに耳が痛い。ほとんど五年のあいだ帰っていなかったのだ。それを考えると、何か良いところで高田が海上の第一艦隊の情報を掴んで、すぐに行動をとったというのは、可能性の高い話である。

「とにかく、信さんも奥さんも元気にしとられるから、安心して帰ってくるのを待っとるが一番よ」

これらの会話を終えて、嵩利が会田家をあとにする頃。

千早家の縁側で腰をおろして待っていた鷲頭は、帰宅してきた嵩利の両親と挨拶を交わすか交わさぬかのうちに、突如怒涛のように押し寄せてきた腰越の千早一族にもみくちゃにされかけたところを、高田に救われていた。

「五年も顔を見せないとは、どういう了見だ」

「海軍のお偉いさんになって忙しいのはわかるが、横須賀まで来てここを素通りとは太ぇ野郎だ」

などといった罵倒を男たちから浴びせられたが、なぜか誰もが照れたような怒ったような、擽ったそうなものを顔に浮かべている。

「ま、ま、皆さんここはひとつ落ち着いて。鷲頭さんも嵩利も、こうして無事に帰って来られたんですから、素直に祝おうじゃないですか」

この場に嵩利が居ないことも相まって、まだ何か言いたげにしている千早家の面々を遮って、高田が鷲頭の援護に回る。いつもは取材で追いかけ回す対象の鷲頭を庇うという、妙な立ち回りである。

「お、おう。シゲちゃんがそこまで言うならしようがねえべ。そン代わり、今晩は倒れるまで丹沢の酒を飲んでもらわにゃなァ」

と、本当に四斗樽を担ぎこんできそうな調子で言い残して、男たちが引き揚げてゆく。たぶんこのあと、入れ替わりのようにして千早の女たちがやってきて、こもごもの支度が始まるのだろう。

「やれやれ、おっさんたちは相変わらずだなァ」

そうぼやく高田の顔には見覚えがあった。海軍省の会見室でいつも後方の窓際に立って、歯切れの良い明瞭な質問を寄越してくる記者だったからだ。尤も、嵩利の身内であるということは認識しているが、それは随分経ってから聞いただけなので、高田に対してはやはり新聞記者としての印象しかない。

「高田くん、きみは“帝都實報”の海軍担当だったな。…いったいここでは、何をどのように吹聴しているんだね」

苦い顔で問うと、高田は心外だという風に目を丸くした。

「吹聴…って、そりゃァ海軍の―身内の自慢ですよ。ここじゃ新聞記者の顔なんかで喋っていませんからね」

シーメンス事件から少しばかり経ったころ、“帝都實報”に、海軍士官のこぼれ話のような小さな枠ができたのだが、それも高田の担当だった。士官たちから伝え聞いたりしてきた話をもとに、これはという人物について軍人としてというよりも、人間味を前面に出した記事に仕上げたもので、かなり人気を博している。

その枠に高田は、鷲頭について書いたことが二度ほどあった。

“帝都實報”は千早一族にとって回覧板のようなもので、文字通り誰もが穴の開くほど読んでいる。加えて、名実ともに“日本の誇り”になりつつある海軍、という認識はここ片瀬の住民のあいだにも浸透していっている。

新聞にも時折名が載るようになり、一般市民にも知られつつある海軍大将鷲頭春美と、その養嗣子となった嵩利が、いつこの郷里へ骨休めに来るのかと、みな首をながくして待っていたのだから、あのようにして腹をたてるのも無理はない。

「鷲頭殿、皆に悪気はないんじゃ。まあ、今晩は出された杯は気持ちよく干していってくだされ。それで概ね帳消しじゃろうよ」

騒ぎに紛れていつの間にか玄関を潜っていた嵩利の父・信利が、居間から煙草盆を持って出てきて言い、ちょこんと縁側へ腰をおろしつつ、屈託なく笑った。
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| 綿津見の波の色は・161―170話 | 23:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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