大日本帝國軍の愛と友情の日々

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  綿津見の波の色は・第佰伍拾玖話

軍人として心身ともに円熟味を帯びてくるのは、早くても大佐の二年目から、というのが海軍ではまことしやかに囁かれている。おおかたその修養の仕上げというのは大艦の艦長を務める時期で、智嚢と品格の涵養の為に時間を費やすのが、ほぼ慣例のようになっている。

たとえば漢詩を嗜むとか洋書を紐解くとか、はたまた書の腕を鍛えるとかそういったことであるが、榛名艦長の従兵をつとめている松谷は今日までの間に一度として、一筆認めるから墨を磨るようにと仰せつかったことはない。

実際に就いてみてわかったが、周囲から干渉されない艦長という立場は、確かに孤独を感じる。しかし雑事にとらわれず物事に没頭し、それだけに専念できるという点で随分と救われるものがある。

榛名の艦長室に篭って半年以上が過ぎていたが、嵩利が日々、公室の机上に広げているものといえば、各国海軍が所有する艦艇に関する資料から、急成長する米国の工業力に関する報告書まで様々で、それらの殆どが海軍の研究に繋がるものばかりだった。

いま、世界の海軍でどのような艦が造られようとしているのか、これからの戦略がどのようにして発展してゆくのか、嵩利の思考は殆どがそのことで占められていた。

―出来得るならば、英国か米国へ行きたい。

かの国へ行って、実際この目で確かめたい、学びたいと強く思うようになった頃には、大正七年の春が訪れようとしていた。嵩利は艦長としての務めをこなしつつ、海外駐在武官として赴任できるかどうか模索し始めている。このとき榛名は遅ればせながら全ての予定を終え、束の間の休息を得るために横須賀へ向かう途上であった。

南洋への視察が急遽組まれたりと予定が大幅に変わったこともあり、正月の休暇は棚上げになってしまったが、それでも久しぶりの上陸休暇である。桜の匂う春たけなわに郷里へ帰るというのも、なかなか良いものである。

いつも傍に侍していても控え目で、気配を感じさせないような、慎ましい松谷が、珍しく朝からそわそわと落ち着かぬ様子でいるのを、嵩利は微笑ましい気持ちでみていた。

「松谷、確かきみの郷里は、小山だったな」

書き物をしている便箋から顔をあげて問うと、松谷は淡い物思いから覚めたような顔をして、たちまち姿勢を正す。この艦はいま、母港へ帰るために足を速める、いわゆるホーム・スピードで航行している。誰もがそれぞれの故郷へ思いを馳せつつ、横須賀の港がみえるのを今か今かと待っているのだ。

そう畏まることはないよ、と人懐こい笑みを松谷へ向けながら、もう一度頭の中で航程を確かめる。午後の帰港予定に合わせて、乗組をただちに上陸させる準備に手抜かりはない。

榛名は全員に上陸許可がおりる。それは艦長である嵩利も例外ではない。郷里の片瀬へ帰る前に横須賀鎮守府へ立ち寄って、橘田参謀長に英国か米国への渡航について、伝手を求めにゆくつもりでいる。

「ここはもういいから、上陸の支度を済ませてきなさい」

艦長室にはこれといった用がないのは確かだった。細かな所まで行き届いている松谷の働きの賜物である。

「御用がありましたらお呼び下さい、直ぐに参ります」

一礼すると、嬉しげな微笑を残して出てゆく従兵の軽やかな足音を聞きながら、嵩利は再び椅子へ腰を落ち着ける。書棚をみても、遣り残したことがないのは明らかで、綺麗にそろった書類綴りの背表紙を暫し眺める。

各種書類が滞ることがないのは、参謀長副官兼艦長副官の羽田大尉に拠るところが大きいし、幸い艦内で大きな問題も起きていない。嵩利は榛名の艦長でいながら、殆どの事項に煩わされることなく、海軍のための研究に時間を費やすことが出来ている。

―それにしても、ぼくは恵まれているよなァ。

長年の苦労の酬いとして、中甲板最後尾の長官公室で穏やかな艦上生活を満喫している鷲頭を思い、嵩利はこもごもの気持ちを籠めてちいさくため息を吐いた。

鷲頭が艦長だった頃と、自身の現状とを比べると、かれが当時如何に苦労していたか、改めて気付くことも多かったからだ。あの頃の嵩利はとにかく、憧れと慕情とを抱いていた鷲頭についてゆきたい一心でいたから、どんな境遇に置かれても不満はなかったが、当の鷲頭は心の底で何をどう思っていたのだろう。

横須賀鎮守府の参謀長になってから、鬱屈を吐き出すようにして書き上げた軍備計画の論文は、おそらく大佐に進級する以前から構想があっただろうし、あれはもっと早くに海相や次官に突きつけたかったのではなかろうか。

過ぎた事を考えても詮無いが、鷲頭が成せなかったことで自分が引き継いで出来ることがあれば、これから全力を尽くしたいと嵩利は考えている。

鷲頭にはもう余計な苦労を負うことなく、このまま海軍大将らしく、誰からも仰ぎみられる人物として海軍を導いていって欲しい。嵩利が鷲頭に対して願うのは、この一点であった。
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| 綿津見の波の色は・151―160話 | 22:48 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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