大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参拾話

 惟之の寝室は扉を叩くまでもなく、細く開いていた。そっと開いてふたりで覗いて見れば、寝台のうえにふとんに包まれたちいさな体がのっているのがわかる。和胤と恩田は足音をしのばせて寝台へ近づき、その寝姿と寝顔をみてうっと唸り、思わず顔を見合わせる。

 「なあ、山口…。これはちと、さすがに起こせんのう」

 「そ、そうでありますね…」

 「この栗鼠と仔犬は、おれの息子よりかわええときちょる」

 枕にのった惟之のあたまを、恩田は労わるように撫で、屈めていた身を起こす。わずかに惟之は身じろいだが、その腕を手枕にしてねむっている小太郎共々、起きる気配がない。

 今日は随分と安心した様子でねむっている、と和胤はおもった。理由としては、宴会の約束を取り付ける話が余程うれしかったのか、たぶんそうなのだろう。

 いつも早朝に起き出し、家の中をうろうろと落ちつかなさそうに歩いたり、庭を眺める眼もどこか虚ろで、ため息を吐いたりと、独りでいるときを垣間見ると実に寂しげであった。これは療養で自宅に押しこめられている、それだけが原因ではない。和胤はそうおもった。

 その癖、千代や孝一、和胤が声をかけると、そんな気配は瞬時にして懐に押しこんで、けろりとしている。惟之には、心から気持ちをゆるせる人間はいないのだろうか。和胤は独りでいるときのかれの、その何とも言えぬ翳のさす背中が目に焼きついて離れない。


 階下におりたふたりは、居間で寛ぎつつ惟之を起こす頃合いを計ることにした。そのとき、和胤は思い切って恩田に訊いた。惟之の背にさす寂しげな翳のことを。

 「ひと月ここで暮らして、あいつの翳に気づくとは。おぬしは惟之をよう見ちょるのう…」

 恩田はまずそのことに驚いて、それから、少し躊躇うようにことばを途切らせて首をかしげつつ、頻りに口髭を指さきでひねった。

 和胤はじぶんが、それほど深刻な顔をしているとは意識していなかったが、恩田は何かを感じたらしく、やっと口をひらいた。

 「こげなこたー、可愛ええ嫁さえ居れば何の問題もないことでの。じゃけど、あいつには居らんじゃろ。実はな…」

 と、恩田が語り出したことは、次のようであった。

 明治の黎明期、十六歳のときに西南戦争で初陣を飾った惟之には、既に愛する妻がいた。愛妻の名は佳乃といい、恩田の姉であった。朝まだきの光にすら、照らされれば消えていってしまいそうな淡雪の如き、うつくしい娘。

 佳乃は生まれつき体が弱く、もし惟之の嫁になっても、後継は望めないだろうと、それを恥じて結婚を拒んでいた。しかし惟之はこどもの頃から佳乃を守るといって憚らず、実際そうしてきた。それもあるだけに、佳乃も惟之を慕う気持ちに嘘はつけなかった。

 そうこうしているうちに、明治の御世が訪れ、世の中は―むしろ日本という国が―一斉に動き出した。長州にも不穏な空気が流れこみ、日本のあちらこちらで最後の内戦が火を吹くという、激動の日々が続いた。

 ひとはいつ死ぬかわからんぞ―熊本の空のしたで、鉛弾の飛びかう戦場を潜りぬけた惟之は、郷里にもどるなり佳乃の前で静かに諭し、持ち前の情熱とかれなりのやり方で、ついに佳乃を妻に迎えた。

 西南戦争が終わりを迎えると、国内は何とか均衡を取り戻し、惟之もその後六年の間に佳乃とともに東京へ移り住み、陸軍士官学校を経て大学校へ進むなど、軍人としては比較的穏やかに過ごしていた。

 しかし、その穏やかで幸せな日々は、ながく続かなかった。佳乃は惟之とのささやかな幸せのなかで、明治二十年の春、藤の花がたわわに咲くなか、ひっそりと息をひきとった。享年二十六であった。

 もともとからだの弱い佳乃は、二十歳まで生きられるかどうかと言われていただけに、それでも長い生涯であった。惟之の妻で居られた幸せを、繰り返しその床の中から述べ、最期までその頬から微笑みが消えることはなかった。

 佳乃はひそやかな淡雪のようでありながら、春の海のような、どこまでも穏やかなひろさが、その身にやどっていた。そのひろさで以って惟之は包まれ、癇癪玉のようなかれが、唯一安らげる場所が佳乃の腕のなか、膝のうえであり、守るといった筈の佳乃に、惟之は支えられていた。

 「―それでな。姉が亡くなったときから、惟之は心のどこかに一線を引いたんじゃ。これはおれでもどうにもできんかった。もともと面倒見のいいやつじゃったが、それが段々と顕著になってきてのー。おれが三年程経ってから、そろそろ後添えを貰わんのかと訊いたら、豪く怒ってなあ…。あのときは軍刀で叩き斬られるかとおもうたわい。あいつは、姉を忘れられんのじゃ。じゃけぇ、あの背からおぬしが見たちゅう翳は、或いはずっと消えんのかもしれんなあ」

 そのことばを聞き、はたと、和胤は思いあたった。

 ―この季節を迎えるのが楽しみなんじゃ。

 最愛の妻が亡くなった季節を、楽しみに迎えるなど、今の話を聞くかぎりあり得ない。毎年宴席を設けていることがその証拠だ。独りで迎える辛さに耐えかねて、恒例のように催しているそれが、療養のせいで今年は出来ないかもしれない。ひしひしと寄せ来る悲しみと寂しさに打ち沈んでいたのだろう。

 和胤はあらためて日々を思い返すと、やるせない気持ちで一杯になった。

 「おいおい、山口…。そげな顔しんさんな、憐れむのはお門違いちゅうもんじゃぞ。惟之はあれでいて…精一杯生きちょるんじゃけぇ。まわりは知って知らぬ顔をして、あの悪戯や我が侭に振り回されて、時々諌めてやりゃァええんじゃ。あいつの人柄は、ひと月一緒に居ってわかったじゃろ。あのまま受け止めてやりゃァええんじゃ」

 おぬしは情が深そうじゃけぇ、この話はしとうなかったんじゃが、そこまで気づいておって、あがな深刻な顔をされてはのう。と、恩田はまた口髭をひねりながら呟いた。それからふと何かを思い出したように、にやにや笑い出して、机のうえに片肘をつくと和胤のほうへ身を乗り出す。

 「おぬしが女じゃったら、惟之も後添えにしたかもしれんのー。聞いたぞ、あの握りめしの話。あれァ、だれが聞いても嫁に来いちゅうじゃろ」

 握りめしの話で、またもや和胤の脳裏に、惟之のことばが、かれの表情とともに浮かんだ。理由もなく胸が痛み、熱さが生まれる。和胤は姿勢を正して恩田を改めて見つめ、至極真剣な面持ちで口をひらいた。

 「恩田大佐、おれは…杉閣下のそばに居りたいと思うちょります。いえ、ちと違いますな…、今そう決めました。閣下はおれに随分と気をゆるしてくれるようになりましたから、このまま…。甚だ思い上がっちょるとは自分でもおもいますが、もし、閣下がおれをきっかけにして、引いた線が消える日が来るのであればええと。そうでなくとも、おれは…閣下を放っておけません」

 冗談で言ったことに対し、和胤から真面目に切り返され、恩田は目を丸くして固まった。まじまじと和胤の顔を見つめ、見開いた目がそのまま張り付いたかのように、瞬きをしても変わらない。

 「本気じゃな、おぬし。そうか…それなら、惟之をたのむ」

 つかず離れず、軍務でもそれ以外でも。いつでも、いくらでも構わない。公平無私が惟之の信条であるのは偽りではないだろう。しかし、それを韜晦の手段として用いているのも事実だ。

 その、もっと奥の隠れたところにある惟之の心へ、和胤は手を伸ばして触れたいとおもっている。
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