大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第弐拾漆話

 士官室などは束の間騒然となったが、航海長の片山と艦長の有賀は顔を見合わせて何故か苦笑いを漏らしたのみで、ビロード張りの椅子へ身を落ち着かせている。

 それを暢生は奇妙だとおもったが、候補生たちの前でもあり、慌てるような挙措をみせることはなかった。しかし頭の中では一体上甲板で何が起こっているのかと、気が気でなかった。

 「では、諸君への講義はここで一旦休憩を挟むことにしよう」

 よく徹る野太い声で言って、航海長が悠々と士官室を出て行ったとき、またも砲声が響いた。総員配置もないまま二度目のそれを聞き、さすがにおかしいと候補生のひとりが暢生へ何か問いたげな視線を寄越してくる。

 「なァに、心配することはないよ」

 暢生が口を開くより先に、有賀が縁側で昼寝でもするような顔をして、のんびりとした口調で言った。確かに、順調な航海の昼さがりで、しかも冬にしては暖かな陽射しに包まれている。有賀は今日のそういった穏やかさを、そっくりここへ持ってきて振り撒いたかのように見えた。

 艦長の一言で、士官室のざわめきがぴたりとやみ、結局、航海長と砲術長が戻ってくるまで有賀は一度も、椅子から立ち上がらなかった。

 その後は滞りなく、暢生が率いている分隊の候補生たちへの教育が続けられ、定刻通りに烹炊所から夕食の匂いが漂ってくる頃、暢生は漸く肩の荷をおろしたのである。

 那智が航海副長を兼任していることもあり、しばしばこういった分隊長が担うに相当する任が暢生に回ってくる。今回の指導もそうであった。このようなことを、まだまだ未熟な己がと、心の片隅には綱渡りをしているような気持ちが常にある。

 海軍省で窓際にいた己を鍛える為に、那智が責任だけはその懐に据えて、任務を預けてくれているのだと、暢生はそう解釈して黙って励んできた。
 
 いつものように、他の甲板勤務の士官たちと一緒になって、ぶらりと士官用食堂へ姿をみせた那智の顔を、暢生はいの一番に見つけ出す。

 甲板でなにやら騒ぎのあった頃、那智は当直任務で確かその場に居た筈である。事態がどうあれ収拾に奔走したであろう、目顔でそれとなく労う風を見せると、那智はどこか決まり悪そうに苦笑いを浮かべた。

 食事が済み、そそくさと部屋を出てゆく那智の背を追い、珍しく早々に士官私室へ引き篭もるのを認めて即座に部屋を訪ねた。

 「何か…あったのですか?」

 「おゥ、ちぃっとな」

 食堂に入ってきてからといい、挙動が落ち着かない那智を見て、暢生は段々心配になってきた。

 「私でよければ、話してくれませんか。…その、何か落ち着かない様子ですし」

 やや深刻な色を滲ませて、暢生はじっと那智の眼を見詰めて言った。双方黙ったままどのくらい時間が過ぎたか、椅子へ泰然と構えて座っていた那智が不意に、膝へ両手をついて暢生へ頭をさげた。

 「新見、済まねェ」

 「え…っ」

 短く剪った黒髪を戴いた那智の頭はすぐに上がらず、暢生は困惑した。どう答えたものかと戸惑っているところに、那智の口から響いた言葉が追い討ちをかける。

 「それがヨ、あんまり暇だったもンでな」

 「…何ですって?」

 「当直任務中に、馬鹿でけェ鯨の群れが出て、おらァ、あんまり暇だったンでな、ちょっとした訓練も兼ねて砲をぶっ放したのサ」

 有賀艦長と片山航海長は、那智を兵学校の生徒のころから見てきているだけに、あの砲声を聞いたときにピンときたらしかった。だから、別段お咎めがなかったというのが、ことの真相だった。

 顔をあげた那智は、開いた口が塞がらないといった暢生の驚いた表情を認め、気まずそうに心持ち視線を外して、ふっと息をついた。

 要するにただの悪戯だった訳で、良からぬ事態も含めて目まぐるしく、あらゆることを考えていた暢生からすれば、堪ったものではない。

 「那智さん…!」

 相手が上官というのも忘れて、暢生は那智の肩を強く掴むと詰め寄った。名刀越前守豊房にも劣らぬといった鋭さを閃かせた、暢生の切れ長の眸が那智を射抜く。

 まったく、のんびりとした船旅同然の艦艇に揺られて緩んでいた気が、叩き出されたようだった。寛大な有馬艦長から、含むような叱責ともとれぬようなひと言を告げられただけで済んだことについても、いま暢生の眼を見るまで、何とも思っていなかったのである。

 「他でもないあなたから…信頼され、恃みにされていると思えばこそ、ここまで任をお受けしてきました。ですが…そのような軽挙に走るような人の下で、私はもう働きたくありません」

 その言葉は淡々として静かなものだったが、どんな雷鳴の如き一喝よりも堪えた。怜悧な光を弾く暢生の真剣な眼差しが、深く那智の心に刺さる。

 「おいらを、見放すかィ」

 観念したような那智の呟きに、暢生は何も答えなかった。士官はこの後、海軍を率いてゆく立場になる者だ。那智はその道を共に暢生と歩んでゆきたいと願い、覚悟を決めて海軍省に居た折に上官から辞令を毟り取ってきたのである。

 「なァ…新見よゥ。お前ェさんだけだ、そうやって、この横ッ面を張ってくれンのは。だから、お前ェが居ねえと…おらァなあ…」

 竹を割ったようにさばさばとした、江戸っ子気質の男児には似合わぬ言葉の濁しかたに、暢生はほんの少し眸を揺らした。迷子のような顔をして、すっかり那智はしょげかえっている。

 責任を那智が確りと背負ってくれているからこそ、暢生は預けられる実務に対して精魂をこめることができる。それは、危うく海軍から遠ざかりかかった身には、何よりも有り難い修練の日々であった。

 暢生が恃みにするのは、那智を於いて他になく、同時に誰よりも代え難い、最も大切な恋人なのである。見放せる筈がない。

 刺すような気配が暢生の身から溶けるようにして消えてゆく。しかしまだ眸には鋭さが残っている。

 「…二度と、このような真似はしないと誓ってくれますか」

 ゆっくりと、暢生は那智へ問うた。痺れるほどの厳しい冷たさがありながら、その奥には確かな温もりを含んでいて、それはまるで雪解け水のように、那智の心に一滴を投じた。

 「ああ、誓う。お前ェさんに見限られるのだけはご免だ」

 熱心一途、焔のように激しい那智の気性は、静謐で透徹とした、水の如き気質の暢生を於いて他に禦せる者なしと、この頃を境にして海軍内では徐々に囁かれ始める。

 しかしこの時、ふたりが心に秘めた覚悟まで知る者は、殆どいなかった。 

 それは、公では別たれることなく、どこまでも同じ道を歩むという決意と、私では互いに愛しあう者として、生涯を共にすると誓ったことである。

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