大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰伍拾参話

海相とその秘書役の副官が帝都に戻ったのは、それから更に二週間が過ぎた週末の朝であった。新橋駅には海軍の関係者だけでなく、新聞記者や一般市民もつめかけて、大層な騒ぎになった。

海軍のトップが、曲がりなりにも戦時中だというのに、一体何処へ雲隠れしていたのかと、表向きはそういう批判を口にしていたが、耳聡い記者たちは呉での動きをそれとなく掴んでいるらしく、かれらの追撃をかわすのは容易ではなかった。

まったく仕事熱心なのは結構だが、軍事機密というものも存在するのである。揉みくちゃにされかけて、ふたりが何とか海軍省へ帰って来ると、今度は大臣執務室に次官と艦政本部長が待ち構えていた。

「おゥ」

ひょいと片手をあげて、那智はそれで挨拶を済ませた。

鷲頭と新見が赤煉瓦に於いて、海軍大臣の居ない間にどれほど奔走していたかなどは、改めて考えるまでもないことである。軍帽をとった嵩利は二人に向かってゆっくりと頭をさげた。こちらを見もせずに横顔を向けて、こめかみにぴりぴりと筋を浮かばせている鷲頭を、嵩利はただじっと見つめた。

ほぼひと月ぶりに、海相の椅子に落ち着き、那智は呉から持ち帰った資料をそっと机の上に置いた。新見は物言いたげに眉を寄せたが結局何も言わずに、那智の飄々とした顔を正面からひと睨みして、書類綴りを取り上げると表紙を開く。

その間に鷲頭が黙って長椅子へ腰を下ろし、その傍に嵩利が控える。向かいには新見が座って、熱心に工廠の資料に目を通している。こうして室内に四人の男が居るというのに、誰も一言も発しない。

奇妙な沈黙の時間が過ぎて、やがて"半ドン"が響くのを聞いた。今日は週末で軍務は昼までである。おもむろに那智が、ああ、うんと咳払いをしてから、口を開いた。

「鷲頭、暢…、この忙しいときに悪かった。古賀が来てから思ったより長引いちまってな」

いつもの、ちょっとした悪戯が見つかったときのような気まずさを含んではおらず、その声は静かにふたりの耳へ響いた。

―欧州各国の戦争はまだ続いている。

黄海に展開している我が艦隊の状況は刻々と変わっており、連合国軍との駆け引きがあり、国内では政府との折衝もあり、そして例年通りに近く行う事になっている観艦式、―規模は大きくないが、新造艦を含めたそれなりに意味を持つものである―そういった最重要といっていい事項を、那智も嵩利も呉に居るあいだ、ほんの僅か忘れていた。

設計書へ古賀中将の手によって、迷いなく描かれる新型艦の姿を、まるで少年のように目を輝かせて、息を飲んで見守っていた事は確かである。

しかし、将来を担う艦が生まれることの意味と、その責務。多くの人の手によって、これからも海軍が動いてゆくことの現実を那智と嵩利は、古賀のえがく緻密な設計図のなかに見たのである。

海軍の舵をどう取ってゆくか、むしろ帝都を離れてみて那智はそのことに深く向き合えたと思っていた。秘書官として同行した嵩利の眼にも、那智の背に一種名状し難い強い覚悟のようなものが浮かんでくるのを認めていた。

「お前ェさんたちのお陰で、この先もやって行けらァ」

しゃんと、海相の椅子のなかで姿勢を正しくして、那智はぴしゃりと言った。かれの強く透き通った眼差しを受けて、鷲頭と新見に、かつての候補生時代に見た"分隊長"の振る舞いを思い起こさせた。

ふたりが、どちらともなく顔をあげて、視線を交わして小さく頷きあうのを、嵩利は黙ってみていた。

それから鷲頭は、隣に座している副官の顔をつくづくと見詰めた。ほんの僅か、嵩利の唇が微笑を浮かべて、よく光を弾く黒い眸が鷲頭を吸い込むように受け止め、柔らかく包む。

まったく、今まで軍務に追われて赤煉瓦でくさくさしていたことが、たったそれだけのことで一気に吹き飛んでしまった。それと同時に、心に渦巻いていたこもごもの言葉も、溶けるように消えていった。

「おい、半ドン聞こえただろ。退散だ退散」

ひょい、と席を立った那智がそう言いながら、新見の手から無理やり黒表紙の書類綴りを取り上げるのを見たのは、鷲頭が嵩利を伴って海相の執務室を辞する間際だった。


呉へ那智が赴き、ことが一挙に動いた分、艦政本部長である新見の双肩には、何の前触れもなく様々なものが重く圧し掛かってきていた。それらはまるで主砲から撃ち出される砲弾の如き勢いで止まる事を知らず、"名刀"と評されている新見もその光を鈍らせつつあった。

海相の型破りな言動に振り回されることについてだけは時折、鷲頭の居る次官室へ来て零しはしていたが、己が預かる軍務については何一つ愚痴を言わず、水も漏らさぬ姿勢で全て受け止めていた。

「暢、帰ェるぞ」

この男ならと恃んで一切を任せておきながら、まるでそののちは苦労を推し量る様子もないような、ぶっきら棒な物言いだったが、それを聞いた新見は安堵するように小さく息を吐いた。些か顔色の宜しくなかった頬に、心持ち赤みが差していた。

―そして、時は過ぎてゆく。

国全体がこの頃から戦勝に浮かれて騒ぎ出し、それに連れて軍部は徐々に危うい道へ歩き出さざるを得なくなってくる。

このあとに来るシベリア出兵では陸軍将兵の士気は一向に上がらず、世界をして"軍の鑑"とまで言わしめた日本軍の規律紊乱は、汚点をくっきりと、ロシアの白銀の地に残すことになった。

幸か不幸か、海軍がこういった政府国民―国家が生み出す騒動めいた波に、あからさまに引きずりこまれるのは、随分先のことになる。

今はただ、将来を切り拓く"希望"の誕生を一丸となって支えることに、その心血を注いでいる。そして不思議な事に、あれだけ内輪で物議を醸していた軍拡軍縮の論が、ぴたりと止んでいた。

海軍の舵を取る那智の確固たる態度が或いは、それらをも抑えて凌ぐほどであったからかもしれない。
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| 綿津見の波の色は・151―160話 | 02:05 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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