大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第弐拾玖話

 杉邸の庭には、ひともとの桜の樹が植わっている。その桜が蕾をつけ、ふっくらとし始めるのを毎朝のようにながめては、浮き立つものと焦りとが、惟之の心を占める。

 「いつもなら、桜が咲くのを見計らってひとつ、盛大に宴席を設けちょるにのう。今年はできんかのう」

 などと言って、物言いたげな眼を桜の樹からとなりに居る和胤へとうつす。そのとき、腕のなかに抱いた小太郎が甘えかかって、惟之はすこし俯いて微笑をうかべる。
仔犬のあたまを撫でる様子は、限りないやさしさに満ちている。その手を止めず、俯いたままで、惟之はくちを開いた。

 「のう、山口。おぬしひとつ、病床の上官を慰めるとおもって、ささやかな宴席を張ってくれんか?なに、料亭へ頼めなどとは言わん。ここへ置屋から何人か芸妓を呼んでな、この庭なら第一局の連中もおさまる。なっ、ええじゃろ」

 軍医長の新垣から、酒と煙草を厳禁という旨を突きつけられていて、からだはそれで快方に向かっているのだが、鬱々とした気分が積みかさなってどうにも気力があがらない。事実、いつもの天真爛漫といった様子であっても、どこか翳りがさしている。顔馴染みの芸妓らとも、自宅療養を境に全く逢っていないから、特にあの愛らしい雛妓の白藤の面影が、日に日にちらついていたりもする。

 和胤はそれをきいて唸ってしまう。惟之の翳りを認めていたし、何とか取り払ってやりたいともおもっていたから、この提案に賛成の声をあげてもよかった。しかし、宴席ともなれば、酒は欠かせない。賑やかな雰囲気に乗じて、つい一献、ということはあり得る。惟之に至っては、一献では済まないのは目に見えているだけに、和胤は渋った。

 「難しいですね…」

 「酒は飲まん、それは約束する。毎年催しちょることじゃけぇ、たのむ。おれァ、この季節を迎えるのが楽しみなんじゃ」

 自宅で療養しているあいだに、惟之のからだはひと回りも小さくなったようにみえる。軍務に就いているときは気迫旺盛、その身に虎とも龍ともおもえる威勢を纏っているが、いまはその気配は微塵もない。

 隣に立って腕組みをして考えこんでいる和胤の、軍服の裾を指さきで遠慮がちにつまんで、チョイチョイと促すように引っ張る。まるい眼で一心に訴えかけ、和胤を見上げる。ひとことも発しないあたり、惟之の胸中の切なさが如実にあらわれている。そんな様子で頼みこまれては、これはもう断れない。

 「わかりました…、新垣軍医長に掛け合うてみます。恩田大佐にも加勢してもらいますけぇ、きっと許可を貰って帰ってまいります」

 ため息を軽く吐いて言うと、惟之は上気した頬を緩ませ、忽ち眼をかがやかせる。和胤はそっと手を翳して、そんな上官の額へ掌をあてがい、少し厳しい顔でくびを傾げる。

 「すこし熱がおありのようです。今日は寒うなりますけぇ、部屋できちんとお休みになっちょってください。帰ってきて、おとなしくしちょらんのが分かったら、桜の宴会は中止ですよ」

 言われた惟之も、からだにだるさがあるのを感じているとみえて、眉をさげて気恥ずかしげに笑みを浮かべた。

 「おぬしゃ、よう気がつくのう。小太郎に添い寝してもろうて、今日は階上でおとなしゅうしちょるわい。帰ったら起こしてくれ、土曜日じゃけぇ昼には戻るじゃろ?」

 「はい、飛んで帰ってきます」

 階段の上と下で、そんな言葉を交わして杉邸から参謀本部へ出勤した和胤は、真っ先に恩田のもとへゆき、事情を説明した。

 「あァ、そりゃ回避不可能じゃな。惟之のあの眼はなァ…、だれもが首をたてに振るじゃろ。おれだって振るわい。…よしよし、栗鼠もずっとおとなしくしちょるようじゃけぇ、ここは無理にでも許可を捥ぎとってやるとするか」

 まだ始業前だけに、恩田は郷里ことばと上官に対する呼称を改めていない。階級も下で、年も二歳下ではあるが、同じ郷里、同じ町内でそだった兄弟のような恩田だけに許されている。

 恩田は第一局の誰にも“桜の宴”のことを仄めかさずにいた。宴会の気配があると即座に喧伝するのが常であるのに、今回にかぎって黙っている。

 「万が一じゃ。もし許可が降りんかったら、惟之の療養がそれほど深刻な問題なのかと、徒に連中を動揺させかねん。まァ、おれに任せちょけ」

 ふたりは連れ立って新垣軍医長のもとを訪ねた。昨日診察に訪れたばかりなのに、副官と恩田が揃って―しかも少しばかり恐い顔で―現れたものだから、新垣は訝しげな様子を隠さなかった。

 「新垣さん、杉閣下が酷く神経を衰弱させておると聞いたのですが。一体どういう治療をしておるんです」

 いきなり恩田がそんな言葉で切り出したものだから、新垣は二度驚いた。しかしそこは軍医長の肩書きを背負っているだけあって、言濃やかに説明をしていく。

 それを一々、恩田はしかつめらしい顔で頷いて聞き終え、やおら破顔するなり、新垣の肩をぽんと叩いた。

 「閣下が、賑やかなことや場所がお好きなのは御存知ですな。それでこの度、ご自宅の庭でささやかな花見の席を設けたいと、切にご所望でしてな。閣下だけ禁酒というのは気の毒であるから、宴は極力酒抜きで催す積もりでおるのですが、これはいかがですかな、軍医長」

 新垣も診察のたびに、杉の持ち前である底抜けのあかるさに翳がさしているのには気づいていた。だから、恩田のこの提案に一二もなく頷いた。万が一のことも考えて、新垣は宴会に臨席したいと言うと、恩田が豪快に笑った。

 「閣下が杯を手にしたとて、心配はいりません。おれと山口とで、また懲らしめてやりますからな。新垣さんは呼んだ芸妓と一緒に、花を楽しんでいてくだされば結構です」

 きけば、上官の健康はこのひと月でかなり立ち直ってきているという。しかし積年の疲労と過剰な酒が祟って、油断はできない。

 桜が終わり、藤の咲くころに漸く参謀本部への出勤が見込めるかどうかという塩梅で、ここでまた水を得た魚―それも飛魚か何か―のように勢いに任せて軍務を執るというのも止めねばならず、また難しい問題なのだ。

 ともあれ、無事に許可を貰ったふたりは、半日の勤務を終えて杉邸へと向かう。桜の蕾がふくらんできたというのに、今日は格段に寒い。果たして上官はおとなしくねむっているかと、和胤は内心に一抹の不安を抱いて、恩田とともに二階へ続く階段をのぼってゆく。
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