大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第弐拾参話

 ここ三日程は、傷から発する熱の所為で眠れぬ夜を過ごしたが、そこはさすがに軍人である。何より那智は若く、体力も回復力もあった。暢生が心配したよりも、傷が癒えるのは早いようだった。

 朝、吉永が往診に来るのと入れ替わるようにして、暢生は下宿から登庁してゆく。那智の身辺は全て暢生が世話をしていて、甲斐甲斐しく行き届いた様子に、吉永は感心しきりであった。

 熱にうなされて眠れなかった夜も、暢生は朝までこの部屋に居て、冷水に浸した手拭いや水枕を取り替えてくれたものである。
 
 梅雨に入ってしくしくと痛む体は、多分罅の入った骨の所為だろうと思うも、胸のあたりがしつこく痛み、声を出せばそこへ響き、喋るのも辛いというときもあった。

 "碌でもねェ置き土産をしていきゃァがって"

 と、海へ出て行った城内に対して毒づきながらも、何かと暢生に身を労わられながら、一緒に居ることのできる時間を、心の中では嬉しいと思っている。

 「―しかし、新見くんもまだ万全とは言えない体だというのに、よくここまで出来るものだと思います」

 「そいつァ本当なのかい、吉永さんよ」

 「ああ見えて新見くんはとても、強い男なのかもしれませんねえ」

 「しみじみ感心してねェで、おいらの質問に答えてくれ」

 ふとんの中で仰臥したまま、那智は強い光を宿した眼を吉永へ向ける。

 「毎週金曜の午後には通院していますよ、欠かさず。…いえ、もうこれ以上きみには言いませんがね」

 「へッ、それだけで充分だよ」

 自分がこのような有様になったことについて、暢生に責任は微塵もない。己の内に湧きあがる想いに気付いていながら、那智はそれに一度も向き合うことをせずに、逃げたのである。

 城内はそれを見抜いていた。暢生が那智に想いを寄せているとわかったとき、悲しみと憤慨とを胸にして、本当の気持ちを那智に問い質しに来たのだ。

 それさえも那智ははぐらかし、退けようとしたが、肝胆相照らす仲の城内に、通用する筈がなかった。かれの力による訴えを全て受け止めた後も、那智は暢生に対して想いを打ち明けていない。

 私利私欲に関して、まるで関心のない暢生は、"軍人"としての顔でないときは恐ろしく無防備で、守ってやりたいと思わずにはいられない危うさしかない。那智は初め、ただそうした思いで、暢生を見ていた。

 軍務、軍略に関する才覚、冷静で透徹とした深慮遠謀。暢生は那智にないものを全て持っているようであり、実際海の上で何度、陰で助けられたか知れない。このような男が、ずっと傍に居てくれたらと、いつしか思うようになった。

 あの夜―。

 招かれた藤原邸の中庭で、この腕に暢生を抱き取ったときに、いっそ告げてしまえばよかったと、今更になって後悔している。

 往診が終わって、那智は暫し独りで考えを巡らせた。

 喧嘩早くて癇癪持ち、肝心なときに尻込みして突き進めぬ癖に、見栄を張って強がり、臍を曲げる天邪鬼。―これが己の性質である。那智本人以外、正確に掴んでいるのは恐らく、友人の中では城内くらいのものだろう。

 ―もう逃げるンじゃねェ、源吾よゥ。

 幾度叱咤してきたかわからない。那智はふとんを抜け出して起き上がった。今日もまた、しとしとと梅雨の曇天から雨が落ちてくる。

 そっと暢生の部屋へ入って、文机の端に積まれた本を手に取った。数限られた幾冊かの洋書と、あとは膨大な量の写本である。開けばそこに几帳面な筆跡で、丹念に記した知識の源泉がある。

 これらを書き上げるのにどれだけの時間と気力を費やしたのか、それを考えるとやはり吉永の言ったとおり、暢生は存外、強いのかもしれないと、那智は思った。

 那智にはなく暢生にあるもの。那智にあり暢生にないもの。もうそんなものに当て嵌めて、回りくどく考えるのは止めた。

 どうしようもないほどに守りたく思う一方で、ある部分では強さを秘めている暢生に、那智はこの背を、一生預けたいと心から願っている。

 やがて、聞き慣れた足音がして、暢生が帰宅したのだとわかる。那智は己の厄介な天邪鬼が出てこぬように、精一杯心を奮い立たせた。

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| 千尋に届く波の音 | 04:53 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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