大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第弐拾弐話

 嵐を巻き起こした城内が、ふっと掻き消すように居なくなったあと、暢生や鷲頭たちに担がれるようにして、那智は吉永の待つ別室へ運ばれた。

 消毒薬の匂いがしている。白衣を纏った姿の吉永が、携行してきた鞄から包帯や鋏などを取り出しながら、運ばれてきた那智を長椅子へ寝かせるように指示する。

 「酔って喧嘩のひとつはあるだろうと、支度してきたのは我ながら良い判断でしたねえ」

 と、のんびりした口調で言いつつ、てきぱきと治療にかかる。その間、暢生たちは邪魔にならぬ場所で吉永と那智を見守る事にした。

 「―それで、喧嘩相手はどうしたんです?」

 白衣に包まれている、ほっそりとした背に問われて、暢生たちは口篭った。城内は先刻ふらりと出て行ったきり、戻っていない。何処へ行ったのか皆、見当がつかなかった。

 「なあ吉永さんよ、こいつァ喧嘩じゃねェんだ。ちょっとしたすれ違いって奴でな」

 どうやら相当痛めつけられたらしいと、那智はじわじわ鈍い痛みの広がる体を完全に持て余しつつ、何とか動かせる利き手を挙げて、それ以上訊いてくれるなと拝むように顔の前で立てた。
 
 「那智くん、きみは確か肇敏へ帰艦するんでしたね、今回の辞令で。ですが海へ出るには…難しいですよ、これは」

 「―痛ェ!」

 すっ頓狂な声がしたあと、那智は長椅子の上で顔を顰めて低く唸っている。余程の傷を負っていたのだろうかと心配になり、壁の傍に居た暢生はそっと足を忍ばせて吉永の隣へ立った。

 「裂傷は軽いとしても、打撲に捻挫、肋骨か鎖骨か…多分両方でしょうが、罅が入っています。まず最低でも十日は安静にしていることです」

 「十日もかよ…、何てェこった…」

 辞令は五日後である。差し替えられることは間違いないだろうという憂鬱な思いが、那智の思考を過ぎる。擦れた声が辛うじてそれだけをつぶやく。

 「くれぐれも無茶をしないように、頼みますよ。しかし、きみのことです。言いきかせても甚だ、信用できません」

 「オイ、こどもじゃねェんだぜ?勘弁してくれよ…」

 情けない声で訴えるも、今この部屋に居る少尉たちは、那智の性格を知っているだけに、誰一人として肩を持つものは居ない。

 「ぼくはいま、西新橋の医学校へ行っていますし、官舎もそのすぐ近所です。往診をしてあげますから、赤坂か青山あたりに知り合いの家があれば、そこで暫く静養しなさい」

 暢生と鷲頭が顔をあげて、どちらともなく見合わせる。丁度その二箇所に住まっているのは、このふたりだった。

 「藤原大尉に頼んでみます」

 それがいいだろうということになり、鷲頭が打診しにゆこうとするのを、暢生はとめた。

 脚気を患ってから体調の芳しくない暢生は、今回も引き続き陸に残る事になっている。このような事態になった原因である自分が、那智の看護にあたるのが一番良い。

 下宿先の家主に頼むと、快く承諾してくれた。この日の夜から、暢生が起居する隣室に、那智は身を休める事になった。

 「あの野郎、おいらが抵抗してねェってのに、加減もしねェで馬鹿力出しゃァがって…」

 ぶつくさと呟いて、寝衣に着替えた那智は大儀そうに、ふとんのうえに腰を下ろした。頬が上気しているのは、打撲からくる発熱だけではないようであるが、傷を負った横顔を暢生はまともに見られなかった。

 何故あんな事になったのか訊きたかった。あの温厚な城内の殺気立った表情と振る舞い―。

 「おィ新見、いつまでそんな面ァしていやがる積もりだ」

 俯きがちな憂いの含んだ表情を軽く睨みながら言い、ちっ、と軽く舌打ちをしつつ、那智は無事な利き手を伸ばして、濃紺の軍服の袖から覗く暢生のほっそりとした手首を掴んだ。怪我人とは思えぬ力で強く引かれて、暢生は漸く顔をあげる。

 哀しげな眼と、ひたと合って、那智は言おうとしていた言葉を飲みこんだ。今ここで暢生を責めるのは酷だと思ったからだ。 

 「なァ…、今日はもう休めよ。帰ってから着替えもしてねェじゃねえか」

 声を落としてそれだけを言うと、那智は寝床へ体を横たえた。これらの支度は全て暢生が整えたものだ。水を汲んだ手桶のなかで絞って畳んだ手拭いを那智の額へ乗せて、暢生は小さな声で失礼しますと言って部屋を出た。

 原因が暢生にあって、このようなことになったというのに、心の底ではひとつ屋根のしたに那智と居られることを嬉しく思っている。かれと眼が合った時、暢生はその気持ちを認めて、つくづく己の浅ましさに嫌気がさす。

 しかし、那智に対する想いに一片たりとも偽りは無い。城内の前ではっきりと認めたそれは、もう殺すことなどできはしないのだ。暢生はおそらくこの時、生まれて初めて己の欲っするところに従う決意を抱いた。

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| 千尋に届く波の音 | 03:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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