大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第拾捌話

 広大な庭の一角につくられた離れ。その和洋折衷の家屋は、以前暢生が養生していた場所でもある。部屋から続きになっているテラスの天蓋は、丁寧に編まれた藤棚であった。

 そのしたに、気もそぞろといった憂いた表情で、暢生はぼんやりと座りこんでいる。

 藤の花の馥郁とした芳香に包まれ、四方を白、紫の濃淡入り混ぜた花房の色に囲まれていても、何も感じていない。

 手に携えている、読みかけの洋書が滑り落ち、背表紙がテーブルの縁にあたって、ことりと音をたてる。はからずもぞんざいな扱いとなった知恵の書は、そのまま暢生の膝をかすめて石造りの床に落ちた。

 本を拾い上げようともせず、椅子におさまったままでいる。

 あの日の花見を境にして、暢生は鷲頭と距離を置いていた。極力顔を合わせまいとしているのが、軍務に就いているときでさえわかるほどであった。城内と個人的な交流を持とうともせずに、ただかれを貶した鷲頭を許せない気持ちが、怒りがおさまった後も、どうしても拭えなかった。

 そうなってからの暢生は反発もあって、休日はおろか、今日のような半ドンの土曜日にも、着替えに下宿へ戻らず、退庁したままの恰好で城内の邸へ通っている。

 訪ねてきて、迷子のような顔をしている暢生をみても、城内は何も訊かなかったし、接する態度も変えなかった。

 近頃とみに苛立ちを含めて、怒りの眼を向けてくる鷲頭の無言の訴えを受けていたから、概ね察しがついているというのもあるが、憂いに沈んだ暢生をみるにつけ、その心が何処に行きたがっているのか、知りたくなったのである。

 読書用にと設えてもらったテーブルへ突っ伏すと、腕を枕にしてぎゅっと瞼を閉じた。春の陽が照るなかに居るとは思えぬような、憂鬱そのものの長い溜め息が暢生の唇から漏れ出た。貴重な書籍を読み解いていても、まったく身が入らない。

 何が原因かなど、改めて心に問わずとも分かりきっている。

 とかく仲間内で後ろ指をさされている城内の美点を、あのとき怒りを抑えて説くべきだった、と後悔をしているのである。しかし暢生はその後も、交際をやめろと指摘してきた鷲頭に対して、満足な弁明もしないで、ただ避けている。

 ―ここまでこじれたら、何を言っても無駄だろうな、鷲頭くんには…

 もはや説くには時期を逸した、と決めこんで、城内が何も訊かぬのをいいことにこうして懐へ逃げ込んでいる。

 そもそも、なぜ暢生が城内と交際を持つようになったのかと言うと、かれが部内で必要以上に妬まれている、そんな空気を嗅ぎ取ったからなのだ。

 今居る場所は、広大な城内邸の敷地内にある前庭の一角で、このような優雅なつくりの藤棚をそなえた場所でさえ、庭の一部でしかない。

 城内家はその祖を伊勢に持ち、裕福な豪商をごく近い親戚に持ちながら、本家は士族、そして城代家老をつとめたという、維新の風が過ぎ去ってもびくともしない名も実もある家柄である。

 城内顕範はその家の後継者で、まったく苦労をせずにこの時代を生きている、数少ない人物のうちのひとりだ。

 維新の際、親類縁者を一人も喪わずに、手に手を取って乗り越えられた士族出身の者は稀である。その近しいものの血と涙とを、多少なりとも見、それらを拭い去り、苦しい軋轢を乗り越えて明治という世を支えるべく、誰も彼もがこの祖国の地に立っているのである。海軍にもそのような境遇を経てきた者は大勢居る。

 ―苦労知らずの遊蕩者

 と、城内の振る舞いに対して、そのような妬み言葉がくっついているのは、そうした恵まれた境遇を妬んでのことだ。

 陰口を叩いている連中の中にも、城内ほどではなくとも、三日と空けずに遊郭へ足を向けている者はいるのだ。禁欲を常としている暢生からみれば五十歩百歩で、他人を悪く言わぬ城内の方が余程好感が持てる。

 鷲頭や那智も確かに城内を疎んでいるものの、単純にそうした城内の境遇などを指しているのではないことは、暢生にもわかる。ああいう連中とは違う目で見ているのなら何故、城内と交際を持とうとしないのか。納得がいかない。

 思い返したら、今度は腹が立ってきた。

 ―ぼくがこんなことで怒ったり、悩んだりする理由なんか何処にもないじゃないか

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| 千尋に届く波の音 | 02:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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