大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

千尋に届く波の音・第拾漆話

 朝靄の残る上野の杜を、暢生と鷲頭はそぞろ歩いていた。寛永寺には桜が咲き零れている。

 このころの上野公園というのは官営地で、大っぴらに騒げるような場所ではなく森閑としていた。庶民にとって飛鳥山や向島がもっぱら花見の名所であった。

 陸勤めの海軍士官たちも例外でなく、休日になると連れだって方々へ出かけてゆくが、静かな時と場所を好む暢生に気を配って、鷲頭は早朝に起き出して上野の花見へ誘った。

 己の身に降りかかることの他は、微々たる変化に対し万事敏感な暢生のこと、鷲頭が自身を誘い出したのは桜をながめにゆくだけが目的ではないことを察していた。

 饒舌ではない鷲頭が、何か物言いたげな気配を漂わせているのを、下宿へ迎えに来たときから気づいている。早朝の清々しい晴天には似つかわしくない顰めッ面をして、隣を歩いている。

 「なあ、新見」

 茶屋の前、桜の樹のしたに設えられた床几に腰を落ち着けて、鷲頭は言葉よりもその眼に訴えるものを含ませつつ、暢生を見据えた。

 毎日、面白くもなさそうな顔をして海軍省へ出仕してくる那智を、鷲頭はまだ諦めきれない眼でみていた。理由もなく暢生から離れたことを、那智が何も言おうとしないのならば、暢生の心をもう一度だけ揺さぶってやろうと、鷲頭は考えている。

 何よりも、友のためを思ってのことである。

 今は鳴りを潜めているとはいえども、これまでの暢生に対する城内の言動を近くでみていた鷲頭は、警戒を解いていなかった。その思惑に勘付いていないのは当の暢生本人だけである。

 酒の席で戯れ掛かられても困ったような微笑を浮かべ、やんわりと拒む言葉と所作とで城内を窘める、というのが暢生のやり方で、事実それだけで手を退くのが城内の振る舞いの常だった。

 それを思惑のひとつと勘繰ることもせず、警戒をするでもなく、以降も無邪気に親しく交際を続けている。

 「―それで、城内大尉との付き合いを控えろというのかい?」

 「わからないのか。貴様の分別のなさに呆れ果てて、那智大尉は何も言わずに離れたんだ」

 およそ軍人として似つかわしくない行状、と城内の遊蕩をどうしても認めらず、公務ならば兎も角、私事にあってそのような者と交際を持つことは、鷲頭の心が許せなかった。

 「あのひとは…、貴様に眼をつけている」

 かなりの間を置いて遠慮がちに鷲頭は言った。幾らかの羞恥を眼の縁に浮かべつつ、怒ったような顔つきで暢生を見ている。

 「水交社でのことなどを言っているのなら、あれは前の話だ。ああいう時の他で、城内大尉はふざけかかったりしない。これまで何度も、邸にお邪魔してはいるが…あんな真似をしたことはない」

 他人の行状の、目につくものだけを取って悪し様にあげつらうことは、暢生にとって最も嫌うことである。それに、私的に付き合いを持ってみて、城内が色を好むだけの男ではないことを、少なくとも暢生は知っている積もりである。

 何事にも執着薄く、澱みをつくらず、さらさらと流れる清水のような気性の暢生には、城内顕範という男が胸深くに抱くものに気づける筈がなかった。若さ故の獰猛な奔流の如き欲望―。この点では、鷲頭の忠告が正しいのであったが、暢生はこれに怒った。

 「ひとを貶めることは、己を貶めることと同じだぞ。きみがそんな汚い言葉を吐くような男だとは思わなかった…」

 「事実だろう、城内大尉の行状は。おれは…貴様が心配なだけだ」

 「先刻から、きみはそればかりを言って、城内大尉の心根を知ろうともしないじゃないか。ぼくの心配など、大きなお世話だ。―もういい、これ以上話したくない」

 口下手な親友の諫言が心に留まらなかったわけではないが、胆に湧く怒りに阻まれて思慮を忘れた。冷静さを欠き、少ない言葉の裏にあるものまで酌みきれなかった。

 細面の頬に差した血の気に、暢生の腹立ちを認めた鷲頭は、肩を落として顔をそむける。鼻先に桜の香が漂い、薄紅の花びらが落ちてくるのを見ても、虚しいもののように感じる。

 「わざわざ誘いに来てくれたのに悪いけれど、ぼくはこれで失礼する」

 じっと黙ってしまった鷲頭の横顔へちらりと眼を向けて、暢生は床几から腰を浮かせながら言った。取り乱したのを隠そうとするのに精一杯。その証拠に、声には何の感情も篭っていなかった。

 「新見…!」

 一度ついた怒りの火が、蝋燭を吹き消す如く容易に消えないことに恥じいりながらも、敢えてそのままにした。というよりも、滅多に怒りを表さぬ気質故に、持て余していると言った方が正しい。

 呼び止める鷲頭の声を振り切ったのは、かれに対して立腹していたからでは最早ない。怒りをみせてしまった恥ずかしさ、もどかしさから逃げたい一心であった。

web拍手 by FC2

| 千尋に届く波の音 | 22:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/329-5f95bc5b

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。