大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第拾陸話

 年があけて、明治十七年。

 軍事部が設立となり、暢生は準備室役員から解き放たれることとなったが、こののち陸に残るのか、海へ出てゆくのか、まだ何も決まっておらず、推察することも難しかった。暢生は陸に居て二度の病を得、海へ行かせるには心もとない面があるからだ。

 一方で、参謀適性を認められたものの、那智はどうやら有賀艦長に呼び戻され、春ごろには再び肇敏の艦上に立つらしい、ということが囁かれている。

 そんななかで暢生は、城内と那智、ふたりの上官とつかず離れずといった距離を置きながらも、親しくしていた。酒の席とか、洋食屋での食事会、時にはかれらの住まう邸を訪ねて洋書などを読ませて貰う、などといったものである。

 水交社などでの度を越した”悪戯”に振り回されているのは、何も暢生だけではないが、兎も角それを除けば、城内との付き合いは暢生にとって悪いものではなかったし、那智に至っては弟のようにして貰っているだけに、言うことはない。

 しかし、正月も終わるころから暢生が那智と会う機会は突然、ぷつりと途切れた。

 離れたのは、暢生からではない。何かと理由をつけて、那智が会おうとしないのである。当然、暢生は困惑する。今では兄のように慕っている那智から、突然拒絶された形になったのだから。

 そうしたふたりの様子を、傍から楽しむかのように見ていた城内だったが、それでいて、那智がそのような行動を取った裏に思惑があることに気づいていた。

 それは―、触れ難い暢生の透明な純粋さが、際限のない友の放蕩を抑えてくれるかもしれない、と半ば希望めいたものを抱いているということだ。

 加えて、以前から薄々思っていたことが十中八九、当たっているであろうと城内はこのとき確信を持った。那智が暢生に想いを寄せている、ということである。

 己の想いを示すよりも、先程の思惑を優先させたいが為に、暢生の傍から離れて交流を断ったのだ。何事もスマートにこなす、普段の那智を知る者から見れば、その振る舞いが如何に不自然なものであるか分かる。

 友の思いを知りながら、城内は遊蕩をやめようとせず、一夜限りの夢を貪ることを飽きもせずに続けていた。といっても、那智の自身に対する友情を嘲笑っているのではなかった。

 それは、部下たちに悪戯を仕掛けることを続けているにもかかわらず、水交社などで酒を飲んだとき、以前は決まって暢生へ戯れかかっていたというのに、今は手にも触れていないことからもわかる。

 城内自身も暢生に惹かれている。

 那智の想いがどの程度なのか、それを知りたかった。だらしのない―すくなくとも城内はそう自覚している―己を見捨てずにいる友は那智だけである。心から暢生に惚れているのなら、那智がかれの傍に立つべきだ、とおもっている。

 だが、このまま那智が素直に想いを示さず、城内の傍から暢生を遠ざけようとしないのであれば、掌中におさめてしまうつもりでいる。その欲望は日々、こうしている間にも蓄積しているのだ。

 いまの城内の遊蕩というのは、要するに那智に対する一種の挑発であった。

 参謀研修を終えて、いまは深川の自邸に引っ込んでいる那智だったが、放埓なる城内の振る舞いを知るにつけ、段々と腹が立ってくる。押し込めていた想いが滲み出て来るとともに、暢生が心配になってくる。

 それでも、那智はまだ動かない。

 当然、そうした那智の奇妙な振る舞いに対して、暢生を取り巻く親しい者たちも首を傾げている。特に、同期生である鷲頭たちは腑に落ちぬ、という表情で顔を見合わせ、休日の度にこぞって深川を訪ねていって事情を訊こうとする。

 竹垣となまこ壁で囲まれた、気取りのない構えの邸が、如何にも那智家らしい。その前庭に面した縁側で、川釣り用の竿を手入れしていた。

 「毎週毎週、飽きもせずに来るたァ…お前ェさんたちも暇だな」

 「那智大尉」

 眉間を嶮しくした鷲頭を始め、真剣そのもののまなこが八つ、ひたひたと那智へ向けられる。友情の篤さに、心では深く感じ入っていたが、那智はそれを見せることなく、呆れかえったという風にかれらを見回した。

 「どうせまた、新見のことだろ?その様子じゃ、あいつまだウジウジしてやがるンだな。病がちなんだしよゥ、お前ェさんたちで、ちったァ鍛えてやったらどうなんだィ」

 「これだけは言って置きますが、新見は、あなたが思っている程女々しい男ではありません」

 いつか那智に言われたようなことを、今度は鷲頭たちが言い返す。

 こうして訪ねてきているのを、暢生は知らない。

 勝手に鷲頭たちが押しかけて来ているだけである。暢生は今日も、下宿先で普段と同じように書を読んだり、中庭で竹刀を振ったり、静かな修養のなかに身を置いている。

 那智の拒絶に対して、暢生が動揺と落胆を覚え、深く沈んでいたのはひと月ほどで、今は元のようにひっそりとした態度に戻っている。那智が離れたのは、それなりに理由があったのだろう、と暢生なりに納得をし、それ以上理由を求めようとしなかった。

 そうして決着をつけてからただひと言、いいんだ、と言ったときの、悲しみと寂しさを含んだ暢生の微笑を、鷲頭たちは忘れられなかった。如何なるときも、私情といえども見せたことのない表情であった。

 尊敬していた上官が、付き合ってみればあっさりと冷たくひとを切り捨てるような人物だとわかって、むしろ清々したと思ってしまえれば良かったのかもしれないが、那智がそんな男でないことは、何より鷲頭たちが良く知っている。故に納得が出来ない。

 「―兎に角、おらァもうあいつに関わる気はねえンだよ。おゥ、用がそれだけだってェなら、とっとと帰ェりな」

 ぷい、と横を向いたまま言って、脇へ置いた釣竿へ手を伸ばす。

 「いいえ、帰りません。明確な理由を聞かせてくださるまで帰りません」

 「何ィ」

 真摯な八つのまなこが、再び那智を圧す。無言の睨み合いが続いたが、那智にとってこれほど苦しいものはなかった。しかし、ここは何としても堪えねばならない。かれらに話してしまったら、ひと悶着起こるに決まっているからだ。

 かと言って嘘は吐きたくない。巧い嘘が吐ける自信もないし、生半な嘘がかれらに通じるとは思えない。憎まれ役になるしか逃げ道はないと那智はおもった。

 帝都にはもう、春の足音が近づいている。

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| 千尋に届く波の音 | 16:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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