大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第拾参話

 真っ白なクロスの掛かったテーブル席に那智が座っているのを見たとき、暢生は自身の心が仄かに温かくなるのを感じた。但し、那智が親しげに微笑を向けてくるのに対して、暢生は表情を崩すこともなく慇懃な態度で会釈を返すに留める。

 形式上軍服を着たままとはいえ私的な会食であるのだし、口許を綻ばす程度はしても良かったのではないか、と直後に席に着いてから少しばかり後悔をした。

 こんなに早く那智と再会できると思っていなかったのだから、その気持ちを素直に表したいという思いがあるにもかかわらず、持ち前の性格から自制をかけてしまう。不器用さを自省しつつ、

 ―先刻のような態度は、那智大尉の目には却って無礼にうつったかもしれない

 ともおもった。

 不器用さを自覚してもなかなか修正するまでに至らない。そうした暢生の思いをよそに、全員が席に着いて会食が始まった。

 鷲頭の言った通り、那智がまったく食事作法に慣れていないのを暢生は目撃することになるのだが、後輩少尉たちと並んで藤原と吉永から作法を教わっていても、頓着せずにナイフとフォークを操っている姿は、どこか微笑ましささえあった。

 那智の向かいの席に居た暢生は、盗み見るという不躾な風に映らぬのをいいことに、様子が気になって時折かれへチラリと視線を送った。

 会食のあとは和やかな歓談に移ったのだが、ふとした拍子に藤原の口から海軍省軍事部準備室の余りの多忙さを聞かされ、那智は思わず天井を仰いだ。それから急に怖い顔つきになって、鷲頭を睨むようにして見据える。

 「鷲頭、今すぐ新見を呼んで来い」

 「は、はい」

 若いうちに苦労は買ってでもしろとは言うが、下宿に帰ってから書を解く暇もない程働く必要はない。と那智は思った。慌てて部屋を出てゆく鷲頭の背を見送りながら、内心で舌打ちをする。

 ―そういやァ新見のやつ、夕餉が済んだらすぐ食堂から出て行っちまったが、どうしたってンだ?

 ふと気になって、鷲頭のあとを追った。

 そのころ客間で、暢生は吉永から処方して貰った薬を受け取っていた。飲もうとしているところに鷲頭がやってきて、その珍しく慌てた様子に、暢生は粉薬をそっと紙片にたたみ直して机へ置いた。

 「おや鷲頭くん、どうしました?」

 「あっ、失礼しました。吉永少監も居られるとは…。おい新見、那智大尉が―」

 「不躾な奴だな。扉の前で突っ立ったまま用件を言う奴があるかィ」

 うしろから小声で注意されるのと同時に、コツンと頭を軽く拳固で小突かれ、鷲頭は慌てて室内へ入る。そのすぐあとから姿をみせた那智が酷く不機嫌そうな表情で吉永と暢生を見ている。

 「そんな怖い顔をして、何があったんです。さ、ひとまず座ってください」

 「おィ、吉永さんよ」

 「はい?」

 「そんな薬を飲まなけりゃならねェ程、新見の体は思わしくねえのかィ」

 「新見くんは、胃腸があまり強くありませんので、慣れない洋食を摂ったときに飲むようにと、その薬をお渡ししているんですよ」

 「ふゥん…」

 優秀な軍医の言葉をきいても、那智は納得していない。不満気な表情で椅子を引いて腰をおろしながら、暢生へ鋭い視線を向けた。見透かすような視線を受けつつ、暢生は落ち着かぬままに粉薬を含んで水で流しこんだ。

 「吉永軍医殿の前で何だがよ…、お世辞にも健康そうには見えねェ。陸のうえで干上がっちまって戻って来ても艦には乗せてやれねェぞ」

 さりげなく鷲頭が促して暢生は円卓についた。全員にじろッと鋭い一瞥をくれて、那智がずばりと言ってのける。実際、脚気予防の為だけに築地まで通院しているのではないだけに、返す言葉がない。

 「新見、一緒に来なィ」

 と言いつつ、椅子から立ちあがるなり暢生の腕を掴んで部屋から連れ出した。腕を取られて引かれてゆくままについて行くと、中庭に出たところで不意に立ち止まった。十五夜よりすこし欠けた月が白々と庭を照らしている。二、三度しか訪れたことのない藤原家の広い邸で、迂闊に歩き回るわけにもいかない。

 「那智大尉…?」

 幾らか遠慮がちに問う暢生の声に、那智は堪りかねて振り向いた。その表情は怒っているようでもあり、苛立っているようでもある。

 「ちぃっと見ねぇ間に細っこくなりやがって」

 「それは…、―あっ」

 「病院に入っていたときと変わってねェじゃねえか。これじゃ十六貫もあるかどうか怪しいもンだぜ」

 ひょいと暢生を横抱きにして、まるで品定めでもするような口調で言う。あのときは叱られることばかり気にしていたから、大して羞ずかしいと思わなかったが、今は別である。

 「ン、何だ?」

 「お…降ろしていただけませんか」

 腕の中で大人しくしていた暢生だが、もじもじと身じろぎしつつ言うのを聞いても、那智はくすっと微笑を浮かべて、降ろすどころか確りと抱き直した。

 「お前ェさんは、どうしてそうも無頓着というか、無防備なんだィ?」

 「無防備…ですか」

 「おいらより賢いくせに、変なところが抜けてやがるんだからよゥ」

 きょとんとした表情で訊いてくる暢生の顔に、あどけないものを認めて、那智は少なからず、胸がざわつくのを感じた。

 「見ていて冷や冷やすらァ。それに、そンな調子で我が身を顧みずに海軍に居たら、そのうち磨り減って消えっちまうぞ」

 ぶっきらぼうだが、心配してくれていることだけは確かで、暢生はますます羞じ入った。まっすぐに気持ちをぶつけてくれる那智はまるで兄のようであり、頼もしい存在として心を占めていることを、暢生は自覚した。

 ふたりの間に、仄かながら想いの交感があったと言えるのは、このときが初めてである。

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| 千尋に届く波の音 | 00:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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