大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第玖話

 退院してから幾らもしないうちに、暢生は海軍省へ配属となる辞令をうけとった。

 海軍省のある霞ヶ関のあたりは、まだ旧藩の武家屋敷が立ち並ぶような場所で、白い海軍の夏軍服を着た海軍将校たちが出入りしている。何か奇妙な風景でもある。

 築地の宿舎を出ることになったのは、暢生の他に鷲頭と浅田だった。手荷物を纏めていると、暢生の部屋に鷲頭が訪ねてきた。着任まであと十日ばかりである。書籍の整頓をしている手を止めて、鷲頭へ向きなおった。

 「新見、おれは藤原大尉の邸に下宿させて貰うことになったんだが、きみはどうするんだ?」

 「え…っ藤原って、あの藤原格大尉かい?」

 「ああ、義父と古いつきあいのある家でな。身寄りのないおれの面倒をみてくださるそうだ」

 名家と縁のある藤原家は、旧制度が瓦解したいまでも、元公家、武家の尊敬を集めている旧家のひとつである。幼いころ養子に行った先の、鷲頭家の義父と、藤原家の現当主である藤原格大尉の父とは、どこでどう知り合ったのか、親交が深かったのだという。

 「そうか…。ぼくはこれから探す積もりだ、なるべく庁舎に近いところでね」

 「もし見つかりそうになかったら、言ってくれ。おれも協力する」

 「ありがとう、助かるよ」

 と、このような会話を交わした日の夜遅くに、ふらりと城内が訪ねてきた。軍務のあとだというのに、着替えもせずに夏軍服のまま外出したらしい。

 宿舎の談話室に残っていたのは、暢生と三上の二人だけだったが、三上は艦上勤務の疲れからか、暢生と論を交わしている最中に舟を漕いでしまい、今まさに部屋へ戻るところであった。相手が上官だからと、無理に戻りかける三上を、暢生はそっと制して部屋へ行かせた。

 別に城内はそれを咎めたりしなかった。いつになく上機嫌の体で、酔っているのがすぐにわかった。酒精の香に混じって微かに漂うのは白粉のそれで、暢生は呆れた。また新富町あたりで、贔屓の芸妓としっぽりと刻を過ごしてきたに違いない。

 「新見くん、次は海軍省だって?何やら、下宿のことであちこち訊いてまわっているらしいじゃないか」

 小さなテーブルに広げていた本を片付ける暢生の所作を捉えつつ、城内は空いている椅子に腰を下ろして、向かいの席から肘杖をつきながら訊いた。

 「え、ええ…」

 「奇遇だね、ぼくも来週から海軍省出仕なんだ」

 そのまま、じっとテーブルの向こうから暢生を見て、楽しげに声を弾ませて言う。

 城内は艦から降りると同時に、大尉へ進級していた。

 軍事部の設立に大きく関わることになるだろう、というのは誰の目にも明らかで、軍務に関して城内の腕を買わぬ者は居ない。人を纏め上げる才能は天性のものといっていい程で、城内は佐官クラスの将校からも、一目置かれる存在であった。

 しかし、私事となると、だらしのない事この上ない。今もこうして夜遅くに、酒や白粉の匂いを芬々とさせて宿舎へ帰って来る始末である。このようなことは多かれ少なかれ、日常茶飯事であるのだという。

 「きみと一緒に、向こうで軍事部について携われたらいいんだけどねえ」

 しかし、酔っている割にはすらりと、こういう言葉が出てくる。底の知れない人だ、と暢生はそっと心の中で呟く。ちらりと寄越す城内の眼差しが、およそ酔漢のそれと見えないのは、いつか初対面の時に感じた身の竦むような感覚が蘇ったからか。

 「どうしたの…?」

 「いえ―。大分酔っておられる様子ですし、お部屋へ行って休まれますか?それとも茶か水をお持ちしましょうか」

 白粉の甘いような匂いのせいか、どうにも落ち着かない。禁欲を是とする暢生にとって、そういった香の漂う場所は忌避している、といっていいだけに、鼻先を擽るそれを振り切りたくて、半身を捻って立ち上がる素振りをする。

 「いいんだよ、そんなことはしなくて。でも―」

 と、そこで言葉を切って城内は部屋の隅にある長椅子へ歩いてゆく。歩みが僅かに覚束ないのをみて、暢生は反射的に席から腰を浮かせた。

 「そうだねえ。酔いがさめるまで、一寸だけ、膝を貸して貰えると助かるなあ」

 と、言いながら振り向いて、暢生を手招いた。いつもの微笑を湛える穏やかな顔であったが、何故か抗えぬものを感じる。

 「あの…」

 「嫌かい?」

 「いえ、そうではありません…」

 にこり、と笑みながら訊いてくる様子に強いるものは微塵もない。暢生はそろりと足を踏み出して、長椅子へ近づき、城内の隣に座した。ちいさく、ありがとう、と言って微笑みながら、城内は長椅子へころりと横になり、袴を着けている暢生の膝へ頭を預けてくる。まったく屈託のない振る舞いである。

 「妙なことをさせると思っているかな?でも…何もきみを、芸妓のかわりとおもって、こうして貰っているのではないんだよ」

 色事に耽るに際して城内は、その相手を女だけに限らないと言う話を、ほんの噂程度だが、耳にしたことがある。しかし暢生は、それを馬鹿馬鹿しい噂だと思った。そんなことは、もてぬ男の僻みだろう、と一笑に付して聞き流したのであるが、こうした城内の言葉を耳にして、脳裏にそれが過ぎる。

 城内が何とも言えぬ色気を纏っているのは、男である暢生から見ても認めざるを得ない。人を惹きつける、抗えぬその力に影響されるというのは、男でも女でも関係ないのではないか―。

 「何を考えているんだい、新見くん」

 柔らかな声と共に、指がそっと頬を撫でてゆく。暢生はハッとして身を強張らせた。知らず鼓動が高くなるのには慌てたが、その素振りをみせたくなかった。極力平静を装って隠す。その健気な振る舞いで包んだ動揺に、城内が気が付かぬ筈がない。

 「ああ…、そうか。きみが病みあがりだということを忘れかけていたよ。きちんと眠らなくては体に障るね。さ、ぼくのことはいいから、もう部屋へ行っておやすみ」

 「はい、おやすみなさい」

 心が擽られるのを密かに楽しんだあと、思い出したように言って、城内は身を起こすと暢生を促した。近くでみる城内の微笑は普段と変わらない。暢生はきれいな所作で立ちあがって、上官に対し静かに一礼をすると、テーブルに置いた本を携えて自室へ戻っていった。

 談話室を出てゆく間に、一度も後ろを振り返らなかった暢生の背を見つめて、城内は初めてその唇に明確な意図を持つ笑みを浮かべた。即ち―、色欲である。

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